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第二話
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一週間後。
家に前に停まった馬車を見て、私は息を飲んだ。
平民街に似つかない豪華絢爛な馬車。
異次元から飛び出してきたような夢の乗り物に、一目見ようと家を飛び出す人もいた。
馬車の扉が開き、ブライトが軽やかに降りてくる。
彼は私に気づき、軽く頭を下げると早速口を開く。
「エレナ。覚悟は決まったかい?」
私は小さく頷いた。
後ろにいる両親も「どうぞよろしくお願い致します」と何度も言っていた。
それを見て、ブライトは私が求婚に応じたと確信したらしい。
「さあ、行こうか」
短くそう言うと、手招きをする。
私はそれに従うようにして一歩踏み出した。
ふいに冷たい風が吹いてきて心をチクリと痛めつけたが、気にしないことにした。
変わらないものも素敵だが、変わることは決して悪ではない。
馬車に乗り込もうとした瞬間、遠くから叫ぶような声が聞こえてきた。
聞いたことのある声に私は歩を止める。
「エレナ!!!元気でな!!!いつでも戻ってこいよ!!!」
それはエリックの声だった。
直接別れを言うのが恥ずかしかったのか、大声じゃなければ届かない程遠くにいた。
隣にサラもいるみたいだったが、彼女は腕を組んで何も言う様子はなかった。
貴族であるブライトの前で大声を張り上げるのも恥ずかしかったので、私は手だけ振った。
「……もういいかい?」
ブライトが確認するように私に訊く。
「はい。友達にはまた会いに来ればいいですから」
「……そっか」
私が馬車に乗り込むと、御者が扉をパタンと閉めた。
程なくして馬車が動き出す。
窓から流れゆく街並みを見ていると、やはり寂しさが募ってきた。
しかしそれと同時に心臓がバクバクと高鳴っているのも分かる。
今日から私の新たな人生がスタートする。
きっとそれは素敵で幸福に満ちたものだろう。
……と、愚かな私は確信してしまった。
家に前に停まった馬車を見て、私は息を飲んだ。
平民街に似つかない豪華絢爛な馬車。
異次元から飛び出してきたような夢の乗り物に、一目見ようと家を飛び出す人もいた。
馬車の扉が開き、ブライトが軽やかに降りてくる。
彼は私に気づき、軽く頭を下げると早速口を開く。
「エレナ。覚悟は決まったかい?」
私は小さく頷いた。
後ろにいる両親も「どうぞよろしくお願い致します」と何度も言っていた。
それを見て、ブライトは私が求婚に応じたと確信したらしい。
「さあ、行こうか」
短くそう言うと、手招きをする。
私はそれに従うようにして一歩踏み出した。
ふいに冷たい風が吹いてきて心をチクリと痛めつけたが、気にしないことにした。
変わらないものも素敵だが、変わることは決して悪ではない。
馬車に乗り込もうとした瞬間、遠くから叫ぶような声が聞こえてきた。
聞いたことのある声に私は歩を止める。
「エレナ!!!元気でな!!!いつでも戻ってこいよ!!!」
それはエリックの声だった。
直接別れを言うのが恥ずかしかったのか、大声じゃなければ届かない程遠くにいた。
隣にサラもいるみたいだったが、彼女は腕を組んで何も言う様子はなかった。
貴族であるブライトの前で大声を張り上げるのも恥ずかしかったので、私は手だけ振った。
「……もういいかい?」
ブライトが確認するように私に訊く。
「はい。友達にはまた会いに来ればいいですから」
「……そっか」
私が馬車に乗り込むと、御者が扉をパタンと閉めた。
程なくして馬車が動き出す。
窓から流れゆく街並みを見ていると、やはり寂しさが募ってきた。
しかしそれと同時に心臓がバクバクと高鳴っているのも分かる。
今日から私の新たな人生がスタートする。
きっとそれは素敵で幸福に満ちたものだろう。
……と、愚かな私は確信してしまった。
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