上 下
8 / 9

第八話

しおりを挟む
そう言って頭を下げると、やはり沈黙がその場を包み込んだ。 

もし一人の女性のためにお前たちの仕事を減らした……などと言えば恨みは買うことは間違いない。 
しかしそんなことは言わなけばいいのだ……言わなければそれは知られることはないのだ。 

下げた頭の裏で僕はニヤリと微笑んでいた。 

……しかし、いくら待っても住民達から許しの声がもらえない僕は、しびれを切らして顔を上げた。 

「え?」 

そこにいる人物を見て僕は唖然とする。 

「久しぶりだなアンドレ」 

「え?と、父さん!?」 

「門を開けよ!!」 

父の一声と共に使用人の手によって門が開け放たれる。 
しかし入ってきたのは父一人で、住民達は大人しく僕達親子の様子を伺っていた。 
僕はゆっくりとその場に立ち上がると、厳しそうな父の顔を見つめる。 

「父さん、一体どうしたんだい?急にここに帰ってくるなんて……」 

「ああ、実は連絡を貰ってな。お前がふざけた仕事をしていると。しかしこの暴動を見るにそれは本当だったみたいだな」 

「は?れ、連絡……一体、だ、誰が!?」 

「スイレンという少女だよ、まあ話をしてくれたのはそのご両親だがな」 

「は?スイレン……?」 

スイレンだと!? 
あのガキが何かしやがったのか!? 

「アンドレ……私は全てを知っている。お前の書斎にでもある仕事の資料を見れば、よりそれが確信へと近づくだろう。で、私が何を言いたいか分かるか?」 

「はぁ……何でしょう?」 

僕が首を傾げると、突然父の拳が顔面に振ってきた。 

「ごふぁ!!」 

衝撃で地面へと背中から落ちる。 

「この大馬鹿者が!!!!分からんのか!!!!!仕事を何だと思っている!!!!」 

父はそのまま僕の胸ぐらを掴むと、その大きな手で思い切り頬をビンタした。 
ピシャン!! 
鋭い音が響き、頬が赤く腫れる。 

「痛い……くっ……」 

「まだまだぁ!!しっかり反省しろ!!」 

その後も数発のビンタをお見舞いされ、僕の両目からは大粒の涙が流れた。 

「ご、ごめんなさい……ふひっ……ご、ごめんなさい……」 

「謝る相手は私じゃない……」 

父は冷徹にそう言うと、門の前の住民達を指さした。 
僕は頷くと、一目散に彼らの前へと走り、渾身の土下座をした。 

「ご、ごめんなさいぃぃ!!!許してくださいぃぃ!!!」 

「ああ、分かったから!もういいよ!」 

「これからはちゃんとしてくれよ!」 

「ほら皆、アンドレさんも反省しているみたいだし、帰ろうぜ!」 

それが心からの謝罪であったからか、それとも父との惨劇を見たからか分からないが、住民達はそう言うと帰っていった。 

涙に溢れ未だ立ち上がれない僕の肩を父がポンと叩く。 

「ほらいつまで泣いてるんだ、いくぞ」 

「はい……うぅ……」 

こうして、生まれて初めて、僕は心の底から反省をしたのだった…… 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

王妃ですが、明らかに側妃よりも愛されていないので、国を出させて貰います

ラフレシア
恋愛
 王妃なのに、側妃よりも愛されない私の話……

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。

window
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。 「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。 関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。 「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。 「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。 とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

処理中です...