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第十二話

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「あら……クレア様。ようこそおいでくださいました。ささ、こちらでお待ちください」 

突然の訪問にも丁寧に接してくれる使用人。 
彼女に案内された応接間で待っていると、程なくして申し訳なさそうな顔で使用人は戻ってきた。 

「クレア様、申し訳ありません。お嬢様は自室でお会いしたいということなので、移動して頂けますでしょうか?」 

「はい、分かりました」 

階段を歩き長い廊下を渡り、彼女の自室へと到着する。 
コンコン。 
使用人が扉をノックする。 

「お嬢様、クレア様をお連れしました」 

「ありがとう、入っていいわよ」 

中からは女性の声。 
使用人が礼をして去るのを見届けると、私は扉に手をかけた。 

ギィィ。 
ゆっくりと扉を開けると、正面の窓際にはエレノアの姿があった。 

「クレアどうしたの?明日のことかしら?」 

エレノアが不気味な笑みを私に向ける。 
瞬間私の背筋に寒気が走った。 

エレノアは一見すると聖母のような美しい女性だが、その心は黒く歪んでいた。 
優しい言葉で他人を誘い、邪の道へと引きずり込むのだ。 

シャーロットが私の元を訪れなかったら、私は一線を越えてしまっていただろう。 

私はゴクリと唾を飲み込むと、彼女の前まで歩を進めた。 

「そ、そうよ……明日のことで話があってきたの」 

「……」 

エレノアは無表情のまま私をしばらく見つめていると、すっと私の横を通り部屋の扉に鍵をかけた。 
クルリと振り返った時には、包み込むような笑顔に溢れていた。 

「念のため……ね」 

彼女は再び私の横を通ると、窓際へと移動する。 
どうやら窓の外を見ているようで、私に目を向けることはなかった。 

「それで……話って?」 

冷たい口調でエレノアは私に言葉を投げかける。 
私は緊張した面持ちのまま口を開いた。 

「エレノア……私……やっぱりできない……」 

「……え?」 

エレノアの綺麗な瞳がギロリとこちらを向いた。 
瞬きすらせず、私の瞳をしっかりと見つめていた。 
私の額に汗が伝う。 

「だ、だから……私は、で、できない……シャーロットを殺す……なんて、できない!」 

恐怖を隠そうと強い口調で言うも、体がガタガタと震えだした。 
エレノアはゆっくりと窓際から離れると、一歩また一歩と私に近づいてくる。 

「クレア……それ……本気?」 

「ほ、本気だよ……あ、あなたには悪いけど……わ、私……」 

とその時。 
エレノアの手が蛇のように伸びてきて、私の首筋に触れた。 
瞬間、死の香りが全身を突き抜ける。 

「ゴミついてるよ……」 

「……え?」 

眼前にはエレノアの笑顔があった。 
光の灯らない目で私を見つめている。 

「ふふっ……ゴミ、とれたよ……」 

彼女はそう言って首から手を離すと、体の向きを変え、食器の入った棚をいじり始めた。 

「はぁ……はぁ……」 

私は、未だ体に残る死の余韻に息を荒くしていた。 
足にだんだんと力が入らなくなってきて、近くの椅子に腰を下ろした。 
顔を俯かせると、小刻みに震える自分の足が見えた。 

「はいクレア……」 

目の前から声が飛んできて顔を上げると、エレノアが私にティーカップを差し出していた。 

「最近お茶を煎れるのにハマってるの。飲んだら落ち着くよ」 

そう言うと彼女は私にティーカップを手渡し、自分の分のお茶を作り始めた。 

「クレア……本当の気持ち言ってくれてありがとね」 

エレノアが作業しながら優しい声で言った。 

「実は私もね……本当は止めた方がいいんじゃないかって思ってたんだ……」 
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