12 / 20
第十二話
しおりを挟む
「あら……クレア様。ようこそおいでくださいました。ささ、こちらでお待ちください」
突然の訪問にも丁寧に接してくれる使用人。
彼女に案内された応接間で待っていると、程なくして申し訳なさそうな顔で使用人は戻ってきた。
「クレア様、申し訳ありません。お嬢様は自室でお会いしたいということなので、移動して頂けますでしょうか?」
「はい、分かりました」
階段を歩き長い廊下を渡り、彼女の自室へと到着する。
コンコン。
使用人が扉をノックする。
「お嬢様、クレア様をお連れしました」
「ありがとう、入っていいわよ」
中からは女性の声。
使用人が礼をして去るのを見届けると、私は扉に手をかけた。
ギィィ。
ゆっくりと扉を開けると、正面の窓際にはエレノアの姿があった。
「クレアどうしたの?明日のことかしら?」
エレノアが不気味な笑みを私に向ける。
瞬間私の背筋に寒気が走った。
エレノアは一見すると聖母のような美しい女性だが、その心は黒く歪んでいた。
優しい言葉で他人を誘い、邪の道へと引きずり込むのだ。
シャーロットが私の元を訪れなかったら、私は一線を越えてしまっていただろう。
私はゴクリと唾を飲み込むと、彼女の前まで歩を進めた。
「そ、そうよ……明日のことで話があってきたの」
「……」
エレノアは無表情のまま私をしばらく見つめていると、すっと私の横を通り部屋の扉に鍵をかけた。
クルリと振り返った時には、包み込むような笑顔に溢れていた。
「念のため……ね」
彼女は再び私の横を通ると、窓際へと移動する。
どうやら窓の外を見ているようで、私に目を向けることはなかった。
「それで……話って?」
冷たい口調でエレノアは私に言葉を投げかける。
私は緊張した面持ちのまま口を開いた。
「エレノア……私……やっぱりできない……」
「……え?」
エレノアの綺麗な瞳がギロリとこちらを向いた。
瞬きすらせず、私の瞳をしっかりと見つめていた。
私の額に汗が伝う。
「だ、だから……私は、で、できない……シャーロットを殺す……なんて、できない!」
恐怖を隠そうと強い口調で言うも、体がガタガタと震えだした。
エレノアはゆっくりと窓際から離れると、一歩また一歩と私に近づいてくる。
「クレア……それ……本気?」
「ほ、本気だよ……あ、あなたには悪いけど……わ、私……」
とその時。
エレノアの手が蛇のように伸びてきて、私の首筋に触れた。
瞬間、死の香りが全身を突き抜ける。
「ゴミついてるよ……」
「……え?」
眼前にはエレノアの笑顔があった。
光の灯らない目で私を見つめている。
「ふふっ……ゴミ、とれたよ……」
彼女はそう言って首から手を離すと、体の向きを変え、食器の入った棚をいじり始めた。
「はぁ……はぁ……」
私は、未だ体に残る死の余韻に息を荒くしていた。
足にだんだんと力が入らなくなってきて、近くの椅子に腰を下ろした。
顔を俯かせると、小刻みに震える自分の足が見えた。
「はいクレア……」
目の前から声が飛んできて顔を上げると、エレノアが私にティーカップを差し出していた。
「最近お茶を煎れるのにハマってるの。飲んだら落ち着くよ」
そう言うと彼女は私にティーカップを手渡し、自分の分のお茶を作り始めた。
「クレア……本当の気持ち言ってくれてありがとね」
エレノアが作業しながら優しい声で言った。
「実は私もね……本当は止めた方がいいんじゃないかって思ってたんだ……」
突然の訪問にも丁寧に接してくれる使用人。
彼女に案内された応接間で待っていると、程なくして申し訳なさそうな顔で使用人は戻ってきた。
「クレア様、申し訳ありません。お嬢様は自室でお会いしたいということなので、移動して頂けますでしょうか?」
「はい、分かりました」
階段を歩き長い廊下を渡り、彼女の自室へと到着する。
コンコン。
使用人が扉をノックする。
「お嬢様、クレア様をお連れしました」
「ありがとう、入っていいわよ」
中からは女性の声。
使用人が礼をして去るのを見届けると、私は扉に手をかけた。
ギィィ。
ゆっくりと扉を開けると、正面の窓際にはエレノアの姿があった。
「クレアどうしたの?明日のことかしら?」
エレノアが不気味な笑みを私に向ける。
瞬間私の背筋に寒気が走った。
エレノアは一見すると聖母のような美しい女性だが、その心は黒く歪んでいた。
優しい言葉で他人を誘い、邪の道へと引きずり込むのだ。
シャーロットが私の元を訪れなかったら、私は一線を越えてしまっていただろう。
私はゴクリと唾を飲み込むと、彼女の前まで歩を進めた。
「そ、そうよ……明日のことで話があってきたの」
「……」
エレノアは無表情のまま私をしばらく見つめていると、すっと私の横を通り部屋の扉に鍵をかけた。
クルリと振り返った時には、包み込むような笑顔に溢れていた。
「念のため……ね」
彼女は再び私の横を通ると、窓際へと移動する。
どうやら窓の外を見ているようで、私に目を向けることはなかった。
「それで……話って?」
冷たい口調でエレノアは私に言葉を投げかける。
私は緊張した面持ちのまま口を開いた。
「エレノア……私……やっぱりできない……」
「……え?」
エレノアの綺麗な瞳がギロリとこちらを向いた。
瞬きすらせず、私の瞳をしっかりと見つめていた。
私の額に汗が伝う。
「だ、だから……私は、で、できない……シャーロットを殺す……なんて、できない!」
恐怖を隠そうと強い口調で言うも、体がガタガタと震えだした。
エレノアはゆっくりと窓際から離れると、一歩また一歩と私に近づいてくる。
「クレア……それ……本気?」
「ほ、本気だよ……あ、あなたには悪いけど……わ、私……」
とその時。
エレノアの手が蛇のように伸びてきて、私の首筋に触れた。
瞬間、死の香りが全身を突き抜ける。
「ゴミついてるよ……」
「……え?」
眼前にはエレノアの笑顔があった。
光の灯らない目で私を見つめている。
「ふふっ……ゴミ、とれたよ……」
彼女はそう言って首から手を離すと、体の向きを変え、食器の入った棚をいじり始めた。
「はぁ……はぁ……」
私は、未だ体に残る死の余韻に息を荒くしていた。
足にだんだんと力が入らなくなってきて、近くの椅子に腰を下ろした。
顔を俯かせると、小刻みに震える自分の足が見えた。
「はいクレア……」
目の前から声が飛んできて顔を上げると、エレノアが私にティーカップを差し出していた。
「最近お茶を煎れるのにハマってるの。飲んだら落ち着くよ」
そう言うと彼女は私にティーカップを手渡し、自分の分のお茶を作り始めた。
「クレア……本当の気持ち言ってくれてありがとね」
エレノアが作業しながら優しい声で言った。
「実は私もね……本当は止めた方がいいんじゃないかって思ってたんだ……」
84
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。
大森 樹
恋愛
【短編】
公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。
「アメリア様、ご無事ですか!」
真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。
助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。
穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで……
あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。
★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。
【完結】初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
完結 振り向いてくれない彼を諦め距離を置いたら、それは困ると言う。
音爽(ネソウ)
恋愛
好きな人ができた、だけど相手は振り向いてくれそうもない。
どうやら彼は他人に無関心らしく、どんなに彼女が尽くしても良い反応は返らない。
仕方なく諦めて離れたら怒りだし泣いて縋ってきた。
「キミがいないと色々困る」自己中が過ぎる男に彼女は……
(完)あなたの瞳に私は映っていなかったー妹に騙されていた私
青空一夏
恋愛
私には一歳年下の妹がいる。彼女はとても男性にもてた。容姿は私とさほど変わらないのに、自分を可愛く引き立てるのが上手なのよ。お洒落をするのが大好きで身を飾りたてては、男性に流し目をおくるような子だった。
妹は男爵家に嫁ぎ玉の輿にのった。私も画廊を経営する男性と結婚する。私達姉妹はお互いの結婚を機に仲良くなっていく。ところがある日、夫と妹の会話が聞こえた。その会話は・・・・・・
これは妹と夫に裏切られたヒロインの物語。貴族のいる異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。
※表紙は青空作成AIイラストです。ヒロインのマリアンです。
※ショートショートから短編に変えました。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる