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第七話
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時間は残酷に過ぎ、卒業試験当日。
夕方になり、長きに渡る筆記試験がやっと終了し、私は息をはいた。
「……では、今日はこれで解散とします。卒業式までの残りの日数、自分に甘えることなく節度を持って過ごしてください」
担任の教師が教室から出ていくと、私たちはざわつきながらも帰り支度を始める。
親友のクレアはささっと荷物をまとめると、私の机に駆けこんでくる。
「ねえシャーロット、今日さ、ちょっと校舎裏行かない?」
「え?いいけど、何か見たい物でもあるの?」
「うん……見たいというか……行きたいんだ。だってあそこは私たちが出会った場所でしょ?卒業式の時は混んでるかもしれないし、今のうちに行っておきたくて」
……教室を出て校舎裏へ行くと、そこには綺麗に整えられた花畑が広がっている。
その道をクレアと歩きながら私は過去の記憶へ思いを馳せた。
今の学年に進級した時、私には友達は一人もいなかった。
過去にいじめられていた時の印象が残っているのか、誰にも私に話しかけてはくれないし、自分から話しかけられるほど、その時の私は勇気を持っていなかった。
なので昼食を食べた後は、私はよく校舎裏へと足を運んでいた。
教室に一人で戻るのが惨めに思えたのだ。
幸いなことに校舎裏には、絵を描いている美術専攻の生徒がたくさんおり、一人でいても浮くことはなかった。
その日も私は他の生徒に混じり、花の絵を描いていた。
絵の腕前はお世辞にも上手とは言えないが、案外描いてみると楽しいもので、すっかり私は絵を描くことにはまってしまっていた。
そんな時、突然後ろから声をかけられたのだ。
「へえ、面白い絵を描くね」
慌てて振り返ると、そこには黒髪にメガネをした真面目そうな女性が立っていた。
「あ、突然ごめんね。私はクレア。あなたはシャーロットさんよね?一応同じクラスなんだけど……覚えているかな?」
「あ、は、はい!も、もちろんです!確か特技は暗算と絵を描くこと……でしたよね?」
「え?よく覚えてるね……自己紹介の時しか言ってなかったと思うけど……」
「いえ!そんな……私なんかに出来ることはこのくらいなので……」
実はこの時、私は秘かにクラスメイト全員の自己紹介を暗記していた。
自分から話しかけられない分、何かをしなければ友達が出来ないと思っていたからだ。
しかしそれを言うと引かれる気がして、私は焦ったように言葉を続けた。
「あっ、た、たまたまですよ!ぐ、偶然です!」
そう言うとクレアがははっと笑い出した。
「そんなに焦らなくても……ふふっ……シャーロットさんって面白い人なんだね」
……そして現在。
「クレア……あの時は本当にありがとね、私に話しかけてくれて」
夕焼けに照らされる中、私はクレアに微笑みかけた。
「うん、こっちこそありがとね。ここで絵を描いていてくれて……」
クレアはそう言って笑顔を向ける。
そういえばあの当時は、クレアもその真面目っぽさが災いして友達がいなかったという。
運命的な出会いに、未だに私の心には温かいものが残っていた。
「卒業まであと一か月……たとえ学園を卒業しても、私たち……友達でいられるよね?」
クレアが少し寂しそうに言う。
私は彼女をそっと抱きしめた。
「うん……ずっと友達……たとえ……私がいなくなっても……」
「シャーロット……?いなくなるの?」
「……ううん、いなくならないよ。きっと……大丈夫……」
「そっ……なら良かった」
私を大切に思ってくれている人は確かにここにいる。
クレアのためにも私は……生きなくてはならない。
しかしそんな思いとは反対に、私を襲った犯人が見つかることもなく時間は過ぎ、とうとう卒業式を迎えてしまうのだった……
夕方になり、長きに渡る筆記試験がやっと終了し、私は息をはいた。
「……では、今日はこれで解散とします。卒業式までの残りの日数、自分に甘えることなく節度を持って過ごしてください」
担任の教師が教室から出ていくと、私たちはざわつきながらも帰り支度を始める。
親友のクレアはささっと荷物をまとめると、私の机に駆けこんでくる。
「ねえシャーロット、今日さ、ちょっと校舎裏行かない?」
「え?いいけど、何か見たい物でもあるの?」
「うん……見たいというか……行きたいんだ。だってあそこは私たちが出会った場所でしょ?卒業式の時は混んでるかもしれないし、今のうちに行っておきたくて」
……教室を出て校舎裏へ行くと、そこには綺麗に整えられた花畑が広がっている。
その道をクレアと歩きながら私は過去の記憶へ思いを馳せた。
今の学年に進級した時、私には友達は一人もいなかった。
過去にいじめられていた時の印象が残っているのか、誰にも私に話しかけてはくれないし、自分から話しかけられるほど、その時の私は勇気を持っていなかった。
なので昼食を食べた後は、私はよく校舎裏へと足を運んでいた。
教室に一人で戻るのが惨めに思えたのだ。
幸いなことに校舎裏には、絵を描いている美術専攻の生徒がたくさんおり、一人でいても浮くことはなかった。
その日も私は他の生徒に混じり、花の絵を描いていた。
絵の腕前はお世辞にも上手とは言えないが、案外描いてみると楽しいもので、すっかり私は絵を描くことにはまってしまっていた。
そんな時、突然後ろから声をかけられたのだ。
「へえ、面白い絵を描くね」
慌てて振り返ると、そこには黒髪にメガネをした真面目そうな女性が立っていた。
「あ、突然ごめんね。私はクレア。あなたはシャーロットさんよね?一応同じクラスなんだけど……覚えているかな?」
「あ、は、はい!も、もちろんです!確か特技は暗算と絵を描くこと……でしたよね?」
「え?よく覚えてるね……自己紹介の時しか言ってなかったと思うけど……」
「いえ!そんな……私なんかに出来ることはこのくらいなので……」
実はこの時、私は秘かにクラスメイト全員の自己紹介を暗記していた。
自分から話しかけられない分、何かをしなければ友達が出来ないと思っていたからだ。
しかしそれを言うと引かれる気がして、私は焦ったように言葉を続けた。
「あっ、た、たまたまですよ!ぐ、偶然です!」
そう言うとクレアがははっと笑い出した。
「そんなに焦らなくても……ふふっ……シャーロットさんって面白い人なんだね」
……そして現在。
「クレア……あの時は本当にありがとね、私に話しかけてくれて」
夕焼けに照らされる中、私はクレアに微笑みかけた。
「うん、こっちこそありがとね。ここで絵を描いていてくれて……」
クレアはそう言って笑顔を向ける。
そういえばあの当時は、クレアもその真面目っぽさが災いして友達がいなかったという。
運命的な出会いに、未だに私の心には温かいものが残っていた。
「卒業まであと一か月……たとえ学園を卒業しても、私たち……友達でいられるよね?」
クレアが少し寂しそうに言う。
私は彼女をそっと抱きしめた。
「うん……ずっと友達……たとえ……私がいなくなっても……」
「シャーロット……?いなくなるの?」
「……ううん、いなくならないよ。きっと……大丈夫……」
「そっ……なら良かった」
私を大切に思ってくれている人は確かにここにいる。
クレアのためにも私は……生きなくてはならない。
しかしそんな思いとは反対に、私を襲った犯人が見つかることもなく時間は過ぎ、とうとう卒業式を迎えてしまうのだった……
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