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第五話
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この過去の世界へ来てから一か月。
私は誰にもタイムスリップのことは言わず平静を装って過ごした。
しかし、秘かに周りを観察して……。
私が襲われた原因はやはりウィリアムとの婚約だとは思うが、婚約以前のこの時点で恨みを買っていないとも限らない。
一挙一動に注意を図り、自分が恨まれるような原因はないか日々観察に励んでいった。
だが、幸か不幸か原因らしいものも見つからず、犯人捜しは今の時点では不可能に思われた。
そして一か月経ったある日のこと。
学園から家に帰宅すると、嬉しそうに姉が私に手紙を渡してきた。
「シャーロット!これ見て!やっと私にも縁談の話が来たの!!」
渡された手紙に目を通すと、確かにそれは姉への縁談について書かれたものだった。
相手は伯爵家の男性。年は姉と同じようだ。
「お姉様、おめでとうございます!」
「うん!ありがとう、シャーロット!」
姉は学園を卒業した後、その医学知識を活かして薬の研究者になっていた。
父は姉の仕事を認めてはいなかったようだが、姉は自分の仕事に誇りを持っていた。
そのせいか仕事一筋の人間になってしまい出会いがないと良く笑っていたけど……そんな姉にもついに運命の人が現れたようだ。
姉の縁談の話が私は自分のことのように嬉しかった。
姉に笑顔を向けると、彼女もまた私に笑顔を返してくれた。
「来週顔合わせするの。楽しみだな。シャーロットも縁談の話が来たら教えてね」
「はい!」
私の大切な人が幸せになる。
それだけでこんなに心が温まるなんて……。
犯人捜しで疲れていた心が休まったような感覚になる。
その後自室へと入った私は、机の引き出しから一枚の写真を取り出した。
そこには小さい頃の私と姉、そして父と母が写っていた。
十年ほど前に家族で撮った写真だ。
「お母様……お姉様にね、縁談の話が来たの……」
写真に語りかけるように呟く。
いや、正確には母に……だが。
「今はまだだけど、私にもね、婚約者が出来るんだよ……」
母は既に亡くなっていた。
この写真を撮った直ぐ後の出来事だった……。
当時私たちは郊外の別宅で優雅なひと時を楽しんでいた。
最低限の使用人を連れ、周りに広がる自然に心躍らせた。
しかしその日、別宅が火事になった。
母は逃げ遅れた私を救うため業火の中へ一人飛び込んでいったらしい。
程なくして、母は煙を吸って気絶した私を抱え戻ってきたが、火傷が酷くそのまま命を落としてしまった。
それからだろうか。
父が私たちに厳しくなったのは。
まるでいなくなった母の穴を埋めるように、父は一段と私たちに厳しく接するようになった。
そしてこの写真に写っているような笑顔は二度と見せなくなった……。
私は写真をそっと置くと、引き出しを閉めた。
「あと……二か月……」
学園の卒業式まではあと二か月。
もしかしたらこのタイムスリップは母が私に与えたものなのかもしれない。
もう一度生きて……と母が言っているのかもしれない。
「お母様……お母様が助けてくれたこの命……絶対に無駄にはしないからね」
私は誰にもタイムスリップのことは言わず平静を装って過ごした。
しかし、秘かに周りを観察して……。
私が襲われた原因はやはりウィリアムとの婚約だとは思うが、婚約以前のこの時点で恨みを買っていないとも限らない。
一挙一動に注意を図り、自分が恨まれるような原因はないか日々観察に励んでいった。
だが、幸か不幸か原因らしいものも見つからず、犯人捜しは今の時点では不可能に思われた。
そして一か月経ったある日のこと。
学園から家に帰宅すると、嬉しそうに姉が私に手紙を渡してきた。
「シャーロット!これ見て!やっと私にも縁談の話が来たの!!」
渡された手紙に目を通すと、確かにそれは姉への縁談について書かれたものだった。
相手は伯爵家の男性。年は姉と同じようだ。
「お姉様、おめでとうございます!」
「うん!ありがとう、シャーロット!」
姉は学園を卒業した後、その医学知識を活かして薬の研究者になっていた。
父は姉の仕事を認めてはいなかったようだが、姉は自分の仕事に誇りを持っていた。
そのせいか仕事一筋の人間になってしまい出会いがないと良く笑っていたけど……そんな姉にもついに運命の人が現れたようだ。
姉の縁談の話が私は自分のことのように嬉しかった。
姉に笑顔を向けると、彼女もまた私に笑顔を返してくれた。
「来週顔合わせするの。楽しみだな。シャーロットも縁談の話が来たら教えてね」
「はい!」
私の大切な人が幸せになる。
それだけでこんなに心が温まるなんて……。
犯人捜しで疲れていた心が休まったような感覚になる。
その後自室へと入った私は、机の引き出しから一枚の写真を取り出した。
そこには小さい頃の私と姉、そして父と母が写っていた。
十年ほど前に家族で撮った写真だ。
「お母様……お姉様にね、縁談の話が来たの……」
写真に語りかけるように呟く。
いや、正確には母に……だが。
「今はまだだけど、私にもね、婚約者が出来るんだよ……」
母は既に亡くなっていた。
この写真を撮った直ぐ後の出来事だった……。
当時私たちは郊外の別宅で優雅なひと時を楽しんでいた。
最低限の使用人を連れ、周りに広がる自然に心躍らせた。
しかしその日、別宅が火事になった。
母は逃げ遅れた私を救うため業火の中へ一人飛び込んでいったらしい。
程なくして、母は煙を吸って気絶した私を抱え戻ってきたが、火傷が酷くそのまま命を落としてしまった。
それからだろうか。
父が私たちに厳しくなったのは。
まるでいなくなった母の穴を埋めるように、父は一段と私たちに厳しく接するようになった。
そしてこの写真に写っているような笑顔は二度と見せなくなった……。
私は写真をそっと置くと、引き出しを閉めた。
「あと……二か月……」
学園の卒業式まではあと二か月。
もしかしたらこのタイムスリップは母が私に与えたものなのかもしれない。
もう一度生きて……と母が言っているのかもしれない。
「お母様……お母様が助けてくれたこの命……絶対に無駄にはしないからね」
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