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第二話

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「ウィリアム様……!」 

使用人の一人が僕の元へ駈け込んでくると、そっと耳打ちをした。 
それを聞いて僕は文字通り顔面蒼白となる。 

「なんだって……い、行かなきゃ……」 

「こちらです!」 

使用人の後を追い披露宴会場を後にする。 
少し薄暗い廊下を一目散に駆けていくと、壁に突き当たる。 

「こっちです!!」 

そう言って右を差した使用人の指の先を目で追う。 
そこに倒れている人物を見て、僕は叫びをあげた。 

「シャ、シャーロットォォ!!!!」 

彼女は頭から大量の血を流しうつ伏せに倒れていた。 
女性の医師が彼女の生存を必死に確認するも、息を吹き返す様子もない。 
僕はそっと彼女の横にひざまずくと、医師に問いかけた。 

「彼女は……シャーロットは……助かるんですよね?」 

「そ、それは……」 

言いにくそうに医師が顔を伏せる。 

「え?た、助かる……よな?そうだよな!?」 

縋るように言葉を紡ぐも、医師はただ俯き首を横に振るだけだった。 
途端に僕の両目から大粒の涙がこぼれ落ちる。 

「そんな……そんなことって……なんで……シャーロットが……ううっ……くっ……」 

次から次へと涙が溢れてきて止まらなかった。 
目を乱雑に手で拭くも、心は全く落ち着く気がしなかった。 
シャーロットの死……それは僕を絶望に叩き落とすのには十分なものだった。 

「力及ばす、申し訳ありません……」 

医師が僕に向かって頭を下げる。 
それを止める者などどこにもいなかった。 
事態を聞きつけ集まった使用人達も含め、皆がその場に凍り付いたように固まっていたのだ。 

しかし救いの手が差し伸べられるように、僕の肩に何かが触れた。 
それはそっと僕の肩を掴むと、優しく包み込んだ。 

「ウィリアム……大丈夫?」 
 
透き通るように綺麗な……しかしどこか悲し気な声。 
香りの良い髪が僕のうなじに触れた。 
ゆっくりと振り返ると、そこには幼馴染のエレノアがいた。 

「エレノア……どうして……」 

僕が涙で腫れた目を向けると、彼女は静かに言った。 

「あなたが会場を急いで出て行く姿が見えたから、ここまで追ってきたの……でも、まさかこんなことになっているなんて……」 

エレノアはシャーロットの方へ顔を向けると、手を合わせた。 

「シャーロット……ご冥福をお祈りします……」 

絶望の最中見た彼女の姿は、まるで女神のようだった。 
美しく艶のある金色の髪に、黄金に輝く瞳。 
その場にいた全員が、彼女に目が釘付けになる。 

そのままエレノアはしばらく黙祷を続けたが、やがてゆっくりと手を離すと、再び僕に視線を移した。 

「ウィリアム……こんな所じゃシャーロットが可哀そう……場所を移して差し上げたら?」 

「ああ……そうだな……」 

茫然とした様子で頷くと、シャーロットの遺体を移すように使用人に命令する。 
傍にあった救急用の担架でシャーロットがどんどんと遠くなっていく。 
周りにいた使用人もそれについて行ってしまい、廊下には僕とエレノアだけとなる。 

「あっ……」 

慌てて手を伸ばすも、シャーロットを乗せた担架はどんどん先へ行ってしまう。 
僕は諦めたように下を向いた。 

しかし、伸ばした手をエレノアがきゅっと握った。 

「エレ……ノア?」 

驚いた顔をエレノアに向けると、彼女はただ涙を流していた。 

「どうしたんだい?エレノア?」 

僕が問いかけると、涙で潤んだ目で彼女は僕の瞳をしっかりと見つめて言った。 

「シャーロットのために泣いてくれる人はいる……でも、あなたのために泣いてくれる人はいる?」 

「え?」 

「ごめんなさい……悲しそうなウィリアムを見ていたらもう我慢できなくて……私が……ウィリアムのために泣いてもいいかな?」 

「うん……」 

止まりかけていた涙が再び僕の目からこぼれ落ちた。 

「ふふっ……まだ泣いてるの?こんな所じゃ皆に見られちゃうよ?」 

そう言うとエレノアは僕の手を引いた。 

「久しぶりにウィリアムの部屋、行ってもいい?そこで……いっぱい泣こ?」 

「うん……」 

僕は母親に手を引かれる子供のようにエレノアに手を引かれ、気づいたら自室にいた。 
ガチャリと扉が閉まった瞬間、エレノアが僕をそっと抱きしめる。 

「大丈夫だからねウィリアム……悲しい気持ちも……辛い気持ちも……全部私が受け止めてあげるから……」 

暗く沈んだ心が温かいもので満たされる感覚だった。 
不安や悲しみが安心へと変化していく。 

「エレノア……」 

僕はそう言って、エレノアの体をきつく抱きしめた。 

「ウィリアム……いいよ、私が……あなたを助けてあげるから……今日だけは全部忘れて……」 

エレノアの吐息が耳にかかり、次いでそっと頬にキスをされた。 

「え?」 

と、その時、どこからか強い罪悪感を感じ、エレノアの体をばっと離す。 
彼女はキョトンとした様子で僕を見つめていた。 

「エレノア……ごめん、僕……」 

靄が晴れたように視界が広がる。 
シャーロットとの写真が視界の隅にちらついた。 
エレノアはそんな僕を見てそっと一歩近づいてきたが、反対に僕は一歩退く。 

「ごめんエレノア……もう少しで僕は……してはいけないことをしてしまう所だった……とりあえず会場に戻ろう……僕とシャーロットがいないから、きっと皆困惑してるはず……さあ行こう……」 

僕はエレノアに背を向けると扉を開ける。 

「そうね……」 

エレノアはそう言うと僕の後ろに続いた。 

「チッ……」 

「……ん?何か言ったかい?」 

「ううん、何も……」 

エレノアが部屋から出たのを確認すると、僕は静かに扉を閉めた…… 
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