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第十二話
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「アニー、これで会うのは二回目ね」
部屋に入ってきたアニーに私は笑顔を向けた。
彼女は相変わらずボロボロの服を着て、髪も整ってはいなかった。
「実はね、あなたに話があるの。私の家で使用人として働かない?」
「え?」
アニーが暗い目を私に向ける。
「もちろんあなたが良ければ……だけどね」
私がそう言うと、アニーは少し考えてから、嬉しそうに大きく頷いた。
部屋の窓際で彼女の家族はそれを悲しそうに見つめていた。
私が出したもう一つの条件、それはアニーを私が引き取ることだった。
「ありがとうございます……こんな私でよければ、よろしくお願いします……」
アニーは泣きそうになりながら、そう答えた。
「よし、じゃあ決まりね」
私はアニーの手を引くと、部屋を後にした。
……外に出ると、空はもう暗くなっていた。
街灯の明かりと向かいの家の明かりが煌々と輝いている。
馬車の前に立つと私はアニーの方を向いた。
「アニー、今なら引き返せるわよ。あの家族と共に暮らすこともできる」
「……」
「……まだ許せない?」
「はい」
「そう……」
ふいに冷たい風が吹いた。
髪が揺れて頬に当たった。
「でも、いつかは一緒に暮らせるかもしれません……いつになるかは分からないけど……カレン様のおかげで反省もしていたみたいですし……」
「そうね、私もそう思う」
自分と話すなんて不思議な感覚だ。
もっとも、今は私はカレンなのだが。
「あなたがいなくなる時、皆とても悲しそうな目をしていた。その意味は分かるわね?」
「はい……」
まだ少ししか話していないはずなのに、時が随分と過ぎた感覚がした。
このまま帰りたくない気も少しした。
でもそれはきっと私の勘違いだろう。
きっとそうだ……。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
アニーと共に馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと動き出した。
部屋に入ってきたアニーに私は笑顔を向けた。
彼女は相変わらずボロボロの服を着て、髪も整ってはいなかった。
「実はね、あなたに話があるの。私の家で使用人として働かない?」
「え?」
アニーが暗い目を私に向ける。
「もちろんあなたが良ければ……だけどね」
私がそう言うと、アニーは少し考えてから、嬉しそうに大きく頷いた。
部屋の窓際で彼女の家族はそれを悲しそうに見つめていた。
私が出したもう一つの条件、それはアニーを私が引き取ることだった。
「ありがとうございます……こんな私でよければ、よろしくお願いします……」
アニーは泣きそうになりながら、そう答えた。
「よし、じゃあ決まりね」
私はアニーの手を引くと、部屋を後にした。
……外に出ると、空はもう暗くなっていた。
街灯の明かりと向かいの家の明かりが煌々と輝いている。
馬車の前に立つと私はアニーの方を向いた。
「アニー、今なら引き返せるわよ。あの家族と共に暮らすこともできる」
「……」
「……まだ許せない?」
「はい」
「そう……」
ふいに冷たい風が吹いた。
髪が揺れて頬に当たった。
「でも、いつかは一緒に暮らせるかもしれません……いつになるかは分からないけど……カレン様のおかげで反省もしていたみたいですし……」
「そうね、私もそう思う」
自分と話すなんて不思議な感覚だ。
もっとも、今は私はカレンなのだが。
「あなたがいなくなる時、皆とても悲しそうな目をしていた。その意味は分かるわね?」
「はい……」
まだ少ししか話していないはずなのに、時が随分と過ぎた感覚がした。
このまま帰りたくない気も少しした。
でもそれはきっと私の勘違いだろう。
きっとそうだ……。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
アニーと共に馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと動き出した。
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