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第五話

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『使用人のケシィが食後のデザートを持ってくるのが五分遅れた。お父様に頼んで解雇してもらおう』

え?なにこれ……。

『ケシィは無事解雇された。嫌な奴がいなくなってスッキリした! ついでにもう二、三人辞めてもらおうかなぁ。あ、そういえばサントルに頼んだネックレス遅いな。こういうところは本当にちゃんとしてほしいわよね。私が頼んだんだから、さっさと持ってこいっての』

カレンは……こういう人だったの?
信じられないといった表情のまま、私は続きに目を通す。

『今日から両親は二週間の海外旅行! 家には私しかいないから自由に過ごせる! そうだ……サントルにダイヤモンド頼もう。また遅れたら罰を与えなきゃね。お父さんに頼んで仕事減らして貰おうかしら。そうすれば暇になってプレゼントも早く持ってくるわよね。ふふっ』

『ミラっていう新人の使用人は使えないわね。何をやらせてもどんくさいし。それに何か田舎っぽいっていうか。まあ、別にいいわよね。いつでも辞めさせられるのだし。どうせ口答えなんかできないしね』

その他にもカレンの日記は続いていたが、私は読む気がしなかった。
どうやら日常の不満が書かれているようなのだが、辞めさせられた使用人や婚約者が可哀そうだった。
どうしてここまでする必要があるのだろうか?
我がままが過ぎるのではないだろうか?

イライラを感じながら、私は日記を再び引き出しに押し込んだ。

「はぁ……」

食べかけのデザートに手を伸ばすと、私は大きなため息をついた。
カレンがこんな人間だったとは……。
どうりて皆どこか態度がおかしいはずだ。
きっと私に逆らうことが出来なかったのだろう。
謝られることも感謝されることもなしに……いつも顔色を窺って……
口に運んだバニラアイスが一層冷たく感じられた。

「でも……」

確かに周りの人間が可哀そうに思えた。
しかし……私は違う感情が心の内に芽生えているのが分かった。
他人の命運を握れる存在に、自分がなっていることへの優越感。
今までに感じたことのない感覚だった。
私が命令さえすれば欲しい物だって手に入るし、嫌な人間を遠ざけることもできる。

「ふっ……なにそれ……それじゃあ、あの人達と一緒じゃない」

ふいに過去の出来事を思いだし、私は目頭が熱くなった。
涙が流れるのを必死に止めると、無心にデザートを頬張った。

「……」

人を蔑みながら生きるのは簡単だ。
でも、私はそんな生き方はしたくない。

たとえカレンが悪者だったとしても、今のカレンは私なんだ……

「さて……片付けは自分でやるかな……」

私はデザートの皿を持つと、立ち上がった。
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