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第五話
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夜中の街はかなり寒かった。
風が建物の隙間を縫って容赦なく体に突き刺さる。
念のためコートを着てきたが、それも無駄に思えるほど風は冷たかった。
ソニアは震える腕を反対の手の平でこすりながら、部屋で見たあの人が通った道をスタスタと歩いていった。
心の中にはやはり一抹の恐怖が芽生え始めていたが、何とかそれを心の奥に押し込め、自分を奮い立たせるように目を見開いた。
足早に歩く事数分。
あの人が視線の先に見えた。
どうやら追いついたようだ。
ソニアは追い抜いてしまわないように歩く速さを下げ、尾行を開始した。
おそらく向かっているのは、レナードが目撃されたという場所。
言い換えれば自警団がバッジを発見した場所である。
まだ確証はないが、レナードと一緒にいる時にバッジをなくしてしまい、それを今から回収しにいくのだろう。
こんな夜中に家を出て行くのだからそれくらいのやましい事であることは確実である。
白い息を吐きながら歩き続けていると、その人は突然歩を止めた。
ソニアは足音を立てぬように近くの看板の背後に身を潜める。
すうっと顔だけだすと、その人が屈んでいるのが見えた。
やっぱり……そうだったのね。
ソニアは確信するように頷いてその様子をじっと見守っていた。
いつここから飛び出そうかと機を伺っていたのだ。
緊張がほとばしる中、その人は焦った様子で地面を見回している。
夜目が利くのかこんな暗がりにもかかわらず灯り一つ所持していない。
しかし程なくして諦めたのか、その人はばっと立ち上がると、こちらへ向かって歩いてきた。
今がその時だと感じたソニアは、看板の後ろからバッと飛び出すと、彼女の前に立ちふさがった。
月を隠していた雲が移動し、辺り一面が月明かりに照らされる。
「ソニア……!?な、なぜあなたが……」
彼女は驚愕の表情をソニアに向け、根が張ったようにその場に固まった。
ソニアは彼女を一瞥すると、一呼吸の後口を開いた。
「それはこっちのセリフよ。なんでここにいるの?……お姉様」
ソニアの姉レイチェルの顔が暗がりでも分かるくらい青ざめた。
何かを言おうと口をパクパクさせているが上手く言葉になっていないようで、ソニアには言葉の端々しか聞こえてこなかった。
そんな緊迫した状況を一転させるかの如く、不意に強い風が吹き抜け、対面する姉妹の髪を揺らす。
風が過ぎ去るのを見計らって、ソニアは再び口を開いた。
「お姉様、家を抜け出すあなたを見た時はまさかとは思ったけど……本当にここに来るなんて……」
ソニアが冷たく言葉を呈す一方で、レイチェルは焦ったように早口で言った。
「な、何を言っているの?わ、私はただ……いや、さ、散歩に来ただけで……」
明らかに何かを隠しているのはバレバレである。
半ば呆れながらもソニアは言葉を返す。
「私はずっとお姉様をつけてきたの。散歩じゃないことくらい分かるわ。何かを探しているようだったけど、見つかった?」
レイチェルの顔が一気に青ざめる。
自分の行動が見られていたと分かり、彼女は何も言い返せずに俯いた。
しかし直ぐに顔を上げると、今度は強い怒気を含んだ声で反発した。
「ふん、まあいいわ。別に私は悪いことなんて何もしてないんだからね。それによく考えたらあんたに話すつもりもないし、話す理由もないわ。じゃあね、私は帰るわね」
するとレイチェルは突然歩きだし、そのまま家に帰っていこうとする。
「ちょっと待ってよ!」
ソニアが声を荒げ姉の足を止める。
「お姉様……あなたなのでしょう?レナードと一緒にいた女性っていうのは……一緒にいる時に我が家のバッジをそこに落としたのでしょう?」
「はぁ!?」
レイチェルの顔が鬼のような形相に変わり、つかつかとソニアの眼前まで歩いてくる。
「だ・か・ら……なんであんたなんかに話さなくてはいけないのよ!!人権侵害で訴えるわよ!!」
今にも殴りかかってきそうな勢いでレイチェルが言い終わるのと同時に、背後から男の声が聞こえてきた。
「それならばこちらは、あなたを暴行犯として訴えようかな」
風が建物の隙間を縫って容赦なく体に突き刺さる。
念のためコートを着てきたが、それも無駄に思えるほど風は冷たかった。
ソニアは震える腕を反対の手の平でこすりながら、部屋で見たあの人が通った道をスタスタと歩いていった。
心の中にはやはり一抹の恐怖が芽生え始めていたが、何とかそれを心の奥に押し込め、自分を奮い立たせるように目を見開いた。
足早に歩く事数分。
あの人が視線の先に見えた。
どうやら追いついたようだ。
ソニアは追い抜いてしまわないように歩く速さを下げ、尾行を開始した。
おそらく向かっているのは、レナードが目撃されたという場所。
言い換えれば自警団がバッジを発見した場所である。
まだ確証はないが、レナードと一緒にいる時にバッジをなくしてしまい、それを今から回収しにいくのだろう。
こんな夜中に家を出て行くのだからそれくらいのやましい事であることは確実である。
白い息を吐きながら歩き続けていると、その人は突然歩を止めた。
ソニアは足音を立てぬように近くの看板の背後に身を潜める。
すうっと顔だけだすと、その人が屈んでいるのが見えた。
やっぱり……そうだったのね。
ソニアは確信するように頷いてその様子をじっと見守っていた。
いつここから飛び出そうかと機を伺っていたのだ。
緊張がほとばしる中、その人は焦った様子で地面を見回している。
夜目が利くのかこんな暗がりにもかかわらず灯り一つ所持していない。
しかし程なくして諦めたのか、その人はばっと立ち上がると、こちらへ向かって歩いてきた。
今がその時だと感じたソニアは、看板の後ろからバッと飛び出すと、彼女の前に立ちふさがった。
月を隠していた雲が移動し、辺り一面が月明かりに照らされる。
「ソニア……!?な、なぜあなたが……」
彼女は驚愕の表情をソニアに向け、根が張ったようにその場に固まった。
ソニアは彼女を一瞥すると、一呼吸の後口を開いた。
「それはこっちのセリフよ。なんでここにいるの?……お姉様」
ソニアの姉レイチェルの顔が暗がりでも分かるくらい青ざめた。
何かを言おうと口をパクパクさせているが上手く言葉になっていないようで、ソニアには言葉の端々しか聞こえてこなかった。
そんな緊迫した状況を一転させるかの如く、不意に強い風が吹き抜け、対面する姉妹の髪を揺らす。
風が過ぎ去るのを見計らって、ソニアは再び口を開いた。
「お姉様、家を抜け出すあなたを見た時はまさかとは思ったけど……本当にここに来るなんて……」
ソニアが冷たく言葉を呈す一方で、レイチェルは焦ったように早口で言った。
「な、何を言っているの?わ、私はただ……いや、さ、散歩に来ただけで……」
明らかに何かを隠しているのはバレバレである。
半ば呆れながらもソニアは言葉を返す。
「私はずっとお姉様をつけてきたの。散歩じゃないことくらい分かるわ。何かを探しているようだったけど、見つかった?」
レイチェルの顔が一気に青ざめる。
自分の行動が見られていたと分かり、彼女は何も言い返せずに俯いた。
しかし直ぐに顔を上げると、今度は強い怒気を含んだ声で反発した。
「ふん、まあいいわ。別に私は悪いことなんて何もしてないんだからね。それによく考えたらあんたに話すつもりもないし、話す理由もないわ。じゃあね、私は帰るわね」
するとレイチェルは突然歩きだし、そのまま家に帰っていこうとする。
「ちょっと待ってよ!」
ソニアが声を荒げ姉の足を止める。
「お姉様……あなたなのでしょう?レナードと一緒にいた女性っていうのは……一緒にいる時に我が家のバッジをそこに落としたのでしょう?」
「はぁ!?」
レイチェルの顔が鬼のような形相に変わり、つかつかとソニアの眼前まで歩いてくる。
「だ・か・ら……なんであんたなんかに話さなくてはいけないのよ!!人権侵害で訴えるわよ!!」
今にも殴りかかってきそうな勢いでレイチェルが言い終わるのと同時に、背後から男の声が聞こえてきた。
「それならばこちらは、あなたを暴行犯として訴えようかな」
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