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第十話

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「じゃあ、行ってくるよ」 

「ええ、頑張ってね」 

新居へ引っ越しをしてから二日後。 
ロイは仕事へ復帰した。 

社長だと聞いていたのでとても忙しい姿を想像していたが、実際はそうではなく、たまに家を出てはすぐ帰ってきたり、一日中戻らないこともあった。 

しかしそれでもロイは帰ってきた時にはよくお土産を買ってきてくれて、そんな彼との生活に私は幸せを実感していた。 

「ロイ、今日も遅くなるの?」 

「ああ、ちょっと大事な商談がいくつもあってね。明日には戻るよ」 

「そう……」 

しかし日を追うごとに彼の帰りは遅くなり、私の寂しさは増えるばかりだった。 

「レイナ様、大丈夫ですか?」 

とそんな時声をかけてくれたのは使用人のシーナ。 

「ええ、大丈夫よ」 

「本当ですか?私にはそうは見えませんが……何かあったら言ってくださいね」 

そう微笑む彼女に私は「ありがとう」と返す。 
とその時、彼女の首辺りに何か傷のようなものがあるのを発見した。 

「シーナ、その首の傷……大丈夫?」 

「え?」 

シーナは驚いた様子で傷を手で隠し、焦ったように俯いた。 

「だ、大丈夫ですよ!ちょ、ちょっと猫に引っかかれてしまって……」 

「そう……」 

「はい!なのでお気になさらず!し、失礼します!」 

そう言って逃げるようにシーナは去っていく。 
どこか彼女の様子に違和感を感じた私だったが、ロイのいない寂しさが勝ってしまい、その事は心の奥底へと封印されてしまった。 

ロイが仕事へ復帰してから二か月が経つと、次第に彼は早く帰ってくるようになった。 
仕事が一段落したらしい。 

「レイナ、寂しくさせてごめんね。これからは早く帰ってこれるから」 

「良かった……ありがとね、ロイ!」 

それからは結婚式の日取りや子供の名前の話までして、私達はいよいよ夫婦になろうとしていた。 

しかしそんな折。 

「なあレイナ、使用人のシーナ……見かけなかったか?どこにもいないみたいなんだが」 

「そういえば……」 

確かにここ数日彼女の姿は見ていない。 

「体調でも崩したんじゃないかしら?」 

「うん……そうだといいけどな……」 

そうだといい? 
彼の言葉に一瞬違和感を感じたような気がするが、きっと気のせいだろう。 

「とりあえずまた見かけたら教えてくれ。家主として責任があるからさ」 

「うん!分かった!」 

しかしこの後、私は後悔することとなる。 
もっとシーナと話しておけばよかったと……。 
だが、もちろんそんなことは、この時の私は知る由もないが。 
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