婚約して半年、私の幸せは終わりを告げました。

第九話

「レイナ、君に手紙が来ているよ」 

ロイと婚約した私は、彼の家で同棲をしていた。 
彼が私に一枚の手紙を渡すと、どうやらそれはワグナーからのものだった。 
スラスラと内容を見る。 

「なんて書いてあるんだい？」 

コーヒーを飲みながらロイが言う。 

「特になんとも……元気してる？とかそういう他愛も無い内容ね」 

「ふーん。律義だね」 

「そうね……」 

この時の私はまだその程度にしか考えてはいなかった。 
友達のような関係で私に手紙を送ってきてくれているのだと思っていた。 
だがその数日後。 

「レイナ、またワグナーから手紙来てるぞ」 

「え？また？」 

慌てて内容も見るも、この前の手紙とほぼ同じ。 

「嫌なら嫌ってはっきり言った方がいいぞ」 

「そうね……でも、親切にしてくれているのだし……」 

しかしその翌日、そのまた翌日も手紙は来た。 
しかも内容は全て同じ。 
ついに毎日来るようになった手紙に、さすがの私も恐怖を感じずにはいられなかった。 

「レイナ、引っ越しの日を早めよう。君には負担をかけるが、この状況は見ていられない……」 

「うん……」 

私は両親とも相談し、ロイと共に今すぐにこの街を出る決心を固めた。 
元々は二か月後だった引っ越しを一か月近く早め、二週間後にこの街を出ることとなった。 

「大丈夫。俺が守るから」 

手紙を全て処分すると、ロイはそう言って私を抱き寄せた。 

「ありがとうロイ……あなたがいてくれて本当に良かった」 

私はロイの胸の中で涙を流した。 


そして二週間後。 

「ロイ、娘を頼む。ちゃんと守ってやるんだぞ」 

「じゃあねレイナ、元気でやるのよ！」 

両親に見送られ私とロイは街を出た。 
船着き場までは馬車で移動し、そこからは船で外国へ向かう。 
新しい生活に私の胸は期待で膨らんでいた。 

それになにより隣にはロイがいる、こんなに幸せな気分になったのは、ロイに告白されて以来だ。 

長い船旅を終え、新居につく。 
そこは街から少し遠い所にあるものの、自然豊かでとても落ち着いた雰囲気の場所だった。 

建てられている屋敷も立派で、ロイの財力をふんだんに感じさせられる。 

「ここが俺達の新しい家……ここで結婚式も挙げたら楽しいだろうな」 

「うん、そうね」 

私は笑顔でそう答える。 

住む場所が変わっても、変わらないものもある。 
使用人がいて馬車がいて、今までと変わらない貴族の生活が出来ることは本当に嬉しい限りだった。 
しかもそれに婚約者のロイもいる。 

私は確かに今幸せの絶頂に立っているのだ。 

高揚感と幸福感に後押しされ、私はこの地で新たな生活をスタートさせた。