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第八話
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エリザベスと婚約して四年が過ぎた。
アイリッシュとの仲はその後修復することもなく、もうただの他人へと成り下がってしまったが、俺にはもうそんなことはどうでも良かった。
ただただ日々を退屈感が襲い、時間が過ぎるのを待つ毎日だった。
しかし結婚式も目前に迫ったある時、俺の曇った目は一人の使用人を見て輝いた。
整った顔立ち、長く美しい髪、そして貪りたくなるような体。
まるで初恋のような気分だった。
これほどまでに魅力的な女性がいたのか……そう思ってしまった俺は一瞬で彼女の虜となった。
「なあ君、名前は?」
俺がそう問いかけると、彼女は綺麗な声で答えた。
「サラです」
「そうか……サラか……」
サラ……君が俺の運命の人なんだね。
そう思った俺は彼女に猛烈にアプローチした。
しかし結果は惨敗。
それもそのはず、俺にはエリザベスという婚約者がいて結婚式も迫っている。
そんな男の誘いを受けた所で、彼女にとってはデメリットしかないだろう。
だが俺はその時思った。
デメリットしかないのなら、メリットを与えてやればいいのだと。
俺は彼女のことを調べ、こう提案をした。
「サラ、君の父親だけど重い病で伏せているらしいね……」
「え?どうしてそれを……」
「外国の医者に見せれば助かる余地もあるが、お金が足りない……そうだろう?」
彼女は俺が言いたいことを理解したのか、悩むような表情をした。
「金なら俺が出してやる、その代わり俺の女になれ。大丈夫、バレやしないさ」
しばらく悩んでいた彼女だったが、最後には頷き、俺に体を預けた。
だが、一回目の情事の時。
早くも関係は終わりを告げた。
「突然部屋に入ってしまい申し訳ありませんでした。しかし……一体これはどういうことなのですか?ご説明願います」
エリザベスとその友人のロールスが俺の情事を見てしまったのだ。
我に帰った時にはもう遅かった。
隣に座るサラはブルブルと震えており、ロールスという男は俺を冷たい目で睨みつけていた。
認める他なかった。
「もう婚約破棄でも何でもいい……慰謝料も望むだけ払う……もう……終わりにしよう……それでいいな、エリザベス?」
エリザベスが頷くのを見ると、俺は少しだけ救われた気がした。
愛のない結婚、俺はそれから逃れることが出来たのだ。
自分の理想が叶ったような気分になり、心の重しがすっと無くなったような気がした。
その後、俺とエリザベスは婚約破棄をし、サラは使用人の職を解雇された。
彼女には先に金を払っていたので、きっと父親を外国へ連れていって治療を施すことは出来ただろう。
そう思うことで俺は彼女のことを忘れようとした。
しかし父はそれを心に刻み込めと言わんばかりに、俺に憤怒の感情を露わにした。
「この大馬鹿者が!!相手方が大事にしないと言ってくれたから慰謝料だけで済んだものの……一歩間違えば没落もしていたのだぞ!!」
「はい……」
情けなく答える俺の頬を父は思い切りビンタする。
叩かれた箇所が赤く腫れ、痛みが心をついた。
「聞いているのか!?もう二度とこんなことはしないと誓え!!」
再び平手打ちが炸裂し、俺の頬はさらに赤みを増していた。
「ち、誓います……もう二度とこんなことは……うぅ……し、しません……」
気づいたら大粒の涙が両目から流れ落ちていた。
その時俺はやっと自分のしたことの大きさに気づいた。
エリザベスやアイリッシュに自分勝手に暴論を振りかざし優越感に浸り、挙句の果てには使用人と浮気。
罪悪感と恥ずかしさで胸が張り裂けそうになった。
「ごめんなさぃぃぃぃ!!!」
俺はその日、初めて心の底から人に謝った気がした。
アイリッシュとの仲はその後修復することもなく、もうただの他人へと成り下がってしまったが、俺にはもうそんなことはどうでも良かった。
ただただ日々を退屈感が襲い、時間が過ぎるのを待つ毎日だった。
しかし結婚式も目前に迫ったある時、俺の曇った目は一人の使用人を見て輝いた。
整った顔立ち、長く美しい髪、そして貪りたくなるような体。
まるで初恋のような気分だった。
これほどまでに魅力的な女性がいたのか……そう思ってしまった俺は一瞬で彼女の虜となった。
「なあ君、名前は?」
俺がそう問いかけると、彼女は綺麗な声で答えた。
「サラです」
「そうか……サラか……」
サラ……君が俺の運命の人なんだね。
そう思った俺は彼女に猛烈にアプローチした。
しかし結果は惨敗。
それもそのはず、俺にはエリザベスという婚約者がいて結婚式も迫っている。
そんな男の誘いを受けた所で、彼女にとってはデメリットしかないだろう。
だが俺はその時思った。
デメリットしかないのなら、メリットを与えてやればいいのだと。
俺は彼女のことを調べ、こう提案をした。
「サラ、君の父親だけど重い病で伏せているらしいね……」
「え?どうしてそれを……」
「外国の医者に見せれば助かる余地もあるが、お金が足りない……そうだろう?」
彼女は俺が言いたいことを理解したのか、悩むような表情をした。
「金なら俺が出してやる、その代わり俺の女になれ。大丈夫、バレやしないさ」
しばらく悩んでいた彼女だったが、最後には頷き、俺に体を預けた。
だが、一回目の情事の時。
早くも関係は終わりを告げた。
「突然部屋に入ってしまい申し訳ありませんでした。しかし……一体これはどういうことなのですか?ご説明願います」
エリザベスとその友人のロールスが俺の情事を見てしまったのだ。
我に帰った時にはもう遅かった。
隣に座るサラはブルブルと震えており、ロールスという男は俺を冷たい目で睨みつけていた。
認める他なかった。
「もう婚約破棄でも何でもいい……慰謝料も望むだけ払う……もう……終わりにしよう……それでいいな、エリザベス?」
エリザベスが頷くのを見ると、俺は少しだけ救われた気がした。
愛のない結婚、俺はそれから逃れることが出来たのだ。
自分の理想が叶ったような気分になり、心の重しがすっと無くなったような気がした。
その後、俺とエリザベスは婚約破棄をし、サラは使用人の職を解雇された。
彼女には先に金を払っていたので、きっと父親を外国へ連れていって治療を施すことは出来ただろう。
そう思うことで俺は彼女のことを忘れようとした。
しかし父はそれを心に刻み込めと言わんばかりに、俺に憤怒の感情を露わにした。
「この大馬鹿者が!!相手方が大事にしないと言ってくれたから慰謝料だけで済んだものの……一歩間違えば没落もしていたのだぞ!!」
「はい……」
情けなく答える俺の頬を父は思い切りビンタする。
叩かれた箇所が赤く腫れ、痛みが心をついた。
「聞いているのか!?もう二度とこんなことはしないと誓え!!」
再び平手打ちが炸裂し、俺の頬はさらに赤みを増していた。
「ち、誓います……もう二度とこんなことは……うぅ……し、しません……」
気づいたら大粒の涙が両目から流れ落ちていた。
その時俺はやっと自分のしたことの大きさに気づいた。
エリザベスやアイリッシュに自分勝手に暴論を振りかざし優越感に浸り、挙句の果てには使用人と浮気。
罪悪感と恥ずかしさで胸が張り裂けそうになった。
「ごめんなさぃぃぃぃ!!!」
俺はその日、初めて心の底から人に謝った気がした。
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