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第四話

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幼馴染のアイリッシュは誰にでも優しい人だった。 
他の美貌だけを兼ね備えた令嬢達とは違う、心清らかな彼女の性格に、俺は一瞬で心奪われてしまった。 
もちろん顔もなかなかの美人で、俺の他にも彼女を狙っていた人物はたくさんいたことだろう。 

しかしそんな想いなど虚しく、父が告げた婚約者は別の女性だった。 

「お前はこのエリザベス嬢と結婚するのだ、分かったな?」 

「え?」 

俺は心のどこかで身勝手にも、アイリッシュが結婚相手になるものだと思い込んでいた。 
両家の仲は親しいものであったし、父も母もよく彼女を褒め、ギルバートの嫁に欲しいとまで言っていた。 

だから俺は父のこの言葉に思わず疑問符を抱いてしまった。 

「ん?どうかしたのか?何か不満でもあるのか?」 

「い、いえ……そういうわけでは……」 

俺は悩んだ。 
自分の気持ちを正直に話すべきか……。 
しかし俺の迷いを打ち払うように父は言葉を続ける。 

「ギルバート、お前がアイリッシュに想いを寄せていたことは知っておる……しかしこればかりはどうしようもない。そういうものなのだ、分かってくれ」 

「……はい」 

気づいたら俺は頷いていた。 
両親に歯向かうこともできない自分が情けなくてたまらなかった。 
 
そしてエリザベスと顔合わせの日。 
その鬱憤を晴らすように俺はエリザベスに言った。 

「えっと……その……実は俺さ……君のこと全く好きになれそうにないんだ」 

驚きを浮かべるエリザベス。 
それを見て少しだけ心が痛んだものの、まだ世の中を知らない少女へ自分の気持ちをはくのはとても気持ちの良いものだった。 

優越感とでも言うのだろうか。 
自分が大人になった気がして、心が満たされていった。 

……顔合わせから数日後。 
俺はアイリッシュの元を訪れていた。 

「久しぶりギルバート!あなた婚約したんですってね、おめでとう!」 

アイリッシュの笑顔がその日は妙に鼻についた。 

「まあね」 

だからかもしれない。 
俺は心にもない酷いことを彼女に言ってしまった。 

「そういえばアイリッシュはまだだったよね?まあ、君みたいな人間は婚約できるのか分からないけど……」 

「……どういう意味?」 

アイリッシュの笑顔が引きつる。 
それを見て俺の気分はなぜか上がった。 

「そのままの意味だよ。たいして顔も良くない君が婚約なんてできるのかな?」 

「ギルバート……何でそんなこと言うの?……何かあったの?話なら聞くよ?」 

アイリッシュは怒るでもなく相変わらずの優しい目を俺に向けた。 

「ふざけるな!お前に俺の何が分かる!そんな目で俺を見るな!」 

言ってから後悔した。 
アイリッシュの目から涙が溢れていたからだ。 
胸がズキリと痛む、しかしそれを隠すように俺は続けた。 

「だいたいお前は昔からうざかったんだよ!!恩着せがましく他人に手を焼いて……そんなのはただの自己満足だろ!!いいか、お前みたいなやつは……」 

バシン!! 
言葉の途中でアイリッシュのビンタが顔面に飛び込んでくる。 

「ううっ!何するんだお前……!く、くそっ……もうお前とは絶交だ!もう俺に関わるな!」 

そう言って俺はアイリッシュの顔も見ずに、その場から逃げ出した。 

俺はただ……自分の理想を叶えたかっただけなんだ。 
でも、自分の弱さのせいでそれは叶わないと悟ってしまったんだ。 

だから他人を侮辱した。 
自分が本当は弱い人間だと認めたくなかったんだ。 

ただ、それだけだったんだ…… 
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