9 / 19
第九話
しおりを挟む
コンコン。
「ベルです。お母さま、お話があるのですが……」
「入って頂戴」
中から怒ったような低い声が聞こえる。
ベルは恐る恐る扉を開けた。
正面の窓辺に母の姿がある。
外の景色でも見ているのだろう……背中はこちらを向いていた。
「あの、お母さま。その……えーと」
「早く要件を言いなさいベル」
母は振り向くことなく言い放った。
緊張が走り体が震える。
「その……お姉さまの件なんですけど……やっぱり私には」
「はぁ。そんなこと」
背中越しでも母が呆れているのが分かる。
ベルをバカにするように笑ったからだ。
「ベル、考えてもみなさい。ミルだけ幸せになるなんて不公平じゃない?あなたの方がずっと美しい人間なのに……」
「そ、そんな考え間違っています」
ベルが小さな声で言う。
「いいえ、間違っていないわ。それにミルがいなくなればトリル様との縁談があなたに来たりして。うふふ」
「……そ、そんなことはあり得ません」
ベルの中に怒りと恐怖の感情が渦巻いた。
一体この人は自分の娘を何だと思っているのだろう?
「あら私に口ごたえするのね。今まで贅沢させてあげたこと忘れてるんじゃないの?」
母がやっとベルの方に体を向けた。
その顔は今までで一番醜い顔だった。
「確かに感謝はしています……で、でも……私はずっとお姉さまが不憫で……」
「黙りなさい!!!」
「ひっ……」
母が眉毛をつり上げ怒りの表情を露わにした。
ベルの目を真っすぐに睨みつけ、右手の人差し指を彼女に向けた。
「あなたは!この私の!命令が!聞けないって言うの!?」
「あ、あぁ……その……」
「ミルが帰ってきたら紅茶に毒を盛りなさい!でなければあんたを殺す!!」
「私……私は……」
ベルは必死に言葉を探したが、見つかることは無かった。
涙が頬を伝って床に落ちた。
「話は以上……出ていきなさい!!」
母はそう言うとベルを無理やり部屋の外に追い出した。
ベルは言葉を発することができなかった。
恐怖が彼女の心を支配していたのだ。
「大丈夫ですか?」
若い男の使用人が彼女の身を案じたのか、駆けつけてくる。
「……はい。大丈夫……です……」
ベルは静かにそう言った。
「ベルです。お母さま、お話があるのですが……」
「入って頂戴」
中から怒ったような低い声が聞こえる。
ベルは恐る恐る扉を開けた。
正面の窓辺に母の姿がある。
外の景色でも見ているのだろう……背中はこちらを向いていた。
「あの、お母さま。その……えーと」
「早く要件を言いなさいベル」
母は振り向くことなく言い放った。
緊張が走り体が震える。
「その……お姉さまの件なんですけど……やっぱり私には」
「はぁ。そんなこと」
背中越しでも母が呆れているのが分かる。
ベルをバカにするように笑ったからだ。
「ベル、考えてもみなさい。ミルだけ幸せになるなんて不公平じゃない?あなたの方がずっと美しい人間なのに……」
「そ、そんな考え間違っています」
ベルが小さな声で言う。
「いいえ、間違っていないわ。それにミルがいなくなればトリル様との縁談があなたに来たりして。うふふ」
「……そ、そんなことはあり得ません」
ベルの中に怒りと恐怖の感情が渦巻いた。
一体この人は自分の娘を何だと思っているのだろう?
「あら私に口ごたえするのね。今まで贅沢させてあげたこと忘れてるんじゃないの?」
母がやっとベルの方に体を向けた。
その顔は今までで一番醜い顔だった。
「確かに感謝はしています……で、でも……私はずっとお姉さまが不憫で……」
「黙りなさい!!!」
「ひっ……」
母が眉毛をつり上げ怒りの表情を露わにした。
ベルの目を真っすぐに睨みつけ、右手の人差し指を彼女に向けた。
「あなたは!この私の!命令が!聞けないって言うの!?」
「あ、あぁ……その……」
「ミルが帰ってきたら紅茶に毒を盛りなさい!でなければあんたを殺す!!」
「私……私は……」
ベルは必死に言葉を探したが、見つかることは無かった。
涙が頬を伝って床に落ちた。
「話は以上……出ていきなさい!!」
母はそう言うとベルを無理やり部屋の外に追い出した。
ベルは言葉を発することができなかった。
恐怖が彼女の心を支配していたのだ。
「大丈夫ですか?」
若い男の使用人が彼女の身を案じたのか、駆けつけてくる。
「……はい。大丈夫……です……」
ベルは静かにそう言った。
169
お気に入りに追加
395
あなたにおすすめの小説
婚約者に言わせれば私は要らないらしいので、喜んで出ていきます
法華
恋愛
貴族令嬢のジェーンは、婚約者のヘンリー子爵の浮気現場を目撃してしまう。問い詰めるもヘンリーはシラを切るばかりか、「信用してくれない女は要らない」と言い出した。それなら望み通り、出て行ってさしあげましょう。ただし、報いはちゃんと受けてもらいます。
さらに、ヘンリーを取り巻く動向は思いもよらぬ方向に。
※三話完結
【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。
邪魔な義妹が修道院送りになったので、これで安心して婚約できます!
田太 優
恋愛
伯爵令嬢の私は公爵令息と婚約することを約束していた。
まだ正式に婚約していないのは義妹の存在が理由だった。
義妹のことだから、きっと自分が婚約したいと言い出し邪魔するに決まっている。
どうせ邪魔されるなら、いっそのこと利用して問題を起こさせて追放してしまえばいい。
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした
水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」
子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。
彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。
こんなこと、許されることではない。
そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。
完全に、シルビアの味方なのだ。
しかも……。
「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」
私はお父様から追放を宣言された。
必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。
「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」
お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。
その目は、娘を見る目ではなかった。
「惨めね、お姉さま……」
シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。
そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。
途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。
一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。
呪われた指輪を王太子殿下から贈られましたけど、妹が盗んでくれたので私は無事でした。
田太 優
恋愛
王太子殿下との望まない婚約はお互いに不幸の始まりだった。
後に関係改善を望んだ王太子から指輪が贈られたけど嫌な気持ちしか抱けなかった。
でもそれは私の勘違いで、嫌な気持ちの正体はまったくの別物だった。
――指輪は呪われていた。
妹が指輪を盗んでくれたので私は無事だったけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる