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第九話

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コンコン。

「ベルです。お母さま、お話があるのですが……」

「入って頂戴」

中から怒ったような低い声が聞こえる。
ベルは恐る恐る扉を開けた。

正面の窓辺に母の姿がある。
外の景色でも見ているのだろう……背中はこちらを向いていた。

「あの、お母さま。その……えーと」

「早く要件を言いなさいベル」

母は振り向くことなく言い放った。
緊張が走り体が震える。

「その……お姉さまの件なんですけど……やっぱり私には」

「はぁ。そんなこと」

背中越しでも母が呆れているのが分かる。
ベルをバカにするように笑ったからだ。

「ベル、考えてもみなさい。ミルだけ幸せになるなんて不公平じゃない?あなたの方がずっと美しい人間なのに……」

「そ、そんな考え間違っています」

ベルが小さな声で言う。

「いいえ、間違っていないわ。それにミルがいなくなればトリル様との縁談があなたに来たりして。うふふ」

「……そ、そんなことはあり得ません」

ベルの中に怒りと恐怖の感情が渦巻いた。
一体この人は自分の娘を何だと思っているのだろう?

「あら私に口ごたえするのね。今まで贅沢させてあげたこと忘れてるんじゃないの?」

母がやっとベルの方に体を向けた。
その顔は今までで一番醜い顔だった。

「確かに感謝はしています……で、でも……私はずっとお姉さまが不憫で……」

「黙りなさい!!!」 

「ひっ……」

母が眉毛をつり上げ怒りの表情を露わにした。
ベルの目を真っすぐに睨みつけ、右手の人差し指を彼女に向けた。

「あなたは!この私の!命令が!聞けないって言うの!?」

「あ、あぁ……その……」
 
「ミルが帰ってきたら紅茶に毒を盛りなさい!でなければあんたを殺す!!」

「私……私は……」

ベルは必死に言葉を探したが、見つかることは無かった。
涙が頬を伝って床に落ちた。

「話は以上……出ていきなさい!!」

母はそう言うとベルを無理やり部屋の外に追い出した。

ベルは言葉を発することができなかった。
恐怖が彼女の心を支配していたのだ。

「大丈夫ですか?」

若い男の使用人が彼女の身を案じたのか、駆けつけてくる。

「……はい。大丈夫……です……」

ベルは静かにそう言った。
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