偽りの最愛でした

ララ

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第一話

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私が十二歳の時。

「クラスタ、またその本を読んでいるのか?」

そう微笑みかけたのは、幼馴染のグレン。
開けた窓から風が入ってきて、母親譲りの美しい金色の髪がサラっと揺れる。
私はつい彼に見とれてしまう。

「……この本とても面白いから」

「でも、もう三回も読んでいるんだろ?」

「まあそうだけど……」

グレンに読みすぎだと怒られたとしても、私はこの本を読まなくなることはないだろう。
それ程にこの物語の中の世界は美しく、私の理想そのものだったのだ。

題名は『魔法の少女と竜』。
魔法を使える少女が竜と友達になり、一緒に世界を周るというお話だ。
私もいつか魔法が使えるようになりたい……この話の少女のように。

この物語では、少女は大人の女性へと成長し好きな人と結ばれる結末を迎える。
それも秘かに憧れていることはグレンには秘密だ。

「クラスタ、お姉さんはまだ帰ってこないのかい?」

「うん……早く帰ってくるといいな」

私の四歳上の姉ミランダは、自由奔放な性格をしていて二週間前に突然家を出て行ってしまった。

両親によると、この国一番の聖女になるべく修行に行ったらしい。
有名な魔女のお婆さんが一緒についていったらしいから大丈夫だと思うけど、やっぱり私は少し寂しい。

そんな私の思いに気づいたのか、グレンは話題を変えた。

「そういえば俺、兵士になりたいと思っているんだ」

「兵士?」

実際に戦っている所を見た事はないが、街を歩いているのを見た事はある。
重そうな甲冑に身を包み、剣を腰に刺して、つまらなさそうに歩いていた。
私は兵士の魅力が分からず、首を傾げる。

「兵士なんかになりたいの?」

「なんかとか何だ、なんかとは!」

少し怒ったようにそう言ったグレンは、兵士の真似を始める。

「俺はこの国一番の兵士グレン!命惜しくば即刻退散するのだ!……どうだ?かっこいいだろ?」

「え?」

一体どっちのことを言っているのだろう。
兵士の芝居のこと……それともグレン本人のこと?

「どうかしたのか、クラスタ?」

「あ、ううん……何でもない……」

顔が熱い。
私は思わずグレンから顔を背ける。
この想いも秘密なのだ。

「そっか。でもなれるといいな」

「そうだね、グレンならきっと兵士になれるよ。足も速いし……」

「違うよ。俺じゃなくてクラスタ!」

私がグレンに顔を向けると、彼は満面の笑みを浮かべた。

「その物語の少女みたいになれるといいな!」

「え……き、気づいてたの?」

「当たり前だろ!幼馴染なめんなよ!」

私は恥ずかしさと共に、どこか嬉しさを感じていた……
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