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第五話
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「ちっ……あいついないじゃない……」
それから十日後。
人気のない廊下でタリアはそう呟くと、そそくさとその場を去っていった。
物陰からひっそりとその様子を見ていた私は、改めて事の重大さに驚嘆する。
「私やっぱり……タイムスリップしたんだ……」
タリアとの二回目の初対面を終えたあの日から、既に十日。
最初こそこの事実を受けれられなかった私だが、日常を過ごしていれば否が応でも、タイムスリップという言葉が脳裏を埋め尽くした。
既に体感した出来事が目の前で起る毎日に、先日私はやっと現実を受け入れることができた。
私はタイムスリップしたのだ。
なぜタイムスリップが起こったのかは分からないが、これはチャンスなのかもしれない。
私は既にタリアから嫌がらせを受けるタイミングを全て知っている。
今回のように回避する術が出来たのだ。
私がいじめられる事実がなければ、タリアがリチャードに近づくこともないはずだ。
まああの人のことだから、他の手を考えるのでしょうけど……。
不安が半分、残りの半分は期待だ。
今度は私がタリアを手の平で転がす番なのだ。
私はそう自分を奮い立たせると、鼻息荒く呟いた。
「リチャードは渡さないから……」
……それから数日後、中庭で私がリチャードとお昼ご飯を食べていると、案の定タリアがやってきた。
さて、今回はどんな策を持ってきたのか。
「あの、リチャード……少し話があるのだけど……」
「え?僕にですか?」
タリアは可愛げに頷くと、向こうの方を指差した。
「二人だけで話したいの……今いいかしら?」
「えっと……」
リチャードが困ったように私の顔を見る。
私は小さく頷くと、淡々とタリアに言った。
「タリアさん。申し訳ありませんがお話は後でもよろしいですか?恥ずかしながら、今はリチャードとの時間を大切にしたいんです……こうして学校でご飯を食べるだけでも私にとっては大事な思い出になるので」
「ハンナ……そんなに僕との時間を大切に思ってくれていたんだね……ありがとう」
リチャードは嬉しそうに笑うと、私の頭を撫でる。
仲睦まじい私たちの様子を見て、タリアは残念そうに笑う。
リチャードは気づかないだろうが、私には彼女の笑みが引きつっているのが分かった。
「そ、そうなのね……じゃ、じゃあまた今度にするわね。またね」
タリアはそう言うと、逃げる様にその場を去っていった。
それから十日後。
人気のない廊下でタリアはそう呟くと、そそくさとその場を去っていった。
物陰からひっそりとその様子を見ていた私は、改めて事の重大さに驚嘆する。
「私やっぱり……タイムスリップしたんだ……」
タリアとの二回目の初対面を終えたあの日から、既に十日。
最初こそこの事実を受けれられなかった私だが、日常を過ごしていれば否が応でも、タイムスリップという言葉が脳裏を埋め尽くした。
既に体感した出来事が目の前で起る毎日に、先日私はやっと現実を受け入れることができた。
私はタイムスリップしたのだ。
なぜタイムスリップが起こったのかは分からないが、これはチャンスなのかもしれない。
私は既にタリアから嫌がらせを受けるタイミングを全て知っている。
今回のように回避する術が出来たのだ。
私がいじめられる事実がなければ、タリアがリチャードに近づくこともないはずだ。
まああの人のことだから、他の手を考えるのでしょうけど……。
不安が半分、残りの半分は期待だ。
今度は私がタリアを手の平で転がす番なのだ。
私はそう自分を奮い立たせると、鼻息荒く呟いた。
「リチャードは渡さないから……」
……それから数日後、中庭で私がリチャードとお昼ご飯を食べていると、案の定タリアがやってきた。
さて、今回はどんな策を持ってきたのか。
「あの、リチャード……少し話があるのだけど……」
「え?僕にですか?」
タリアは可愛げに頷くと、向こうの方を指差した。
「二人だけで話したいの……今いいかしら?」
「えっと……」
リチャードが困ったように私の顔を見る。
私は小さく頷くと、淡々とタリアに言った。
「タリアさん。申し訳ありませんがお話は後でもよろしいですか?恥ずかしながら、今はリチャードとの時間を大切にしたいんです……こうして学校でご飯を食べるだけでも私にとっては大事な思い出になるので」
「ハンナ……そんなに僕との時間を大切に思ってくれていたんだね……ありがとう」
リチャードは嬉しそうに笑うと、私の頭を撫でる。
仲睦まじい私たちの様子を見て、タリアは残念そうに笑う。
リチャードは気づかないだろうが、私には彼女の笑みが引きつっているのが分かった。
「そ、そうなのね……じゃ、じゃあまた今度にするわね。またね」
タリアはそう言うと、逃げる様にその場を去っていった。
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2021/08/08
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