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第四話
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暗い自室の中で、私は一人泣いていた。
私はタリアの手の平で転がされていたのだ。
しかしそれだけでなく、私は婚約者までも奪われたのだ。
彼は私ではなくタリアを好きになったと言っていた。
私は選ばれなかったのだ。
選ばれたのはタリアだったのだ。
……婚約破棄から既に一週間が経っていた。
私は部屋に籠りずっと学校を休んでいた。
そろそろ登校しなくてはいけない、友達も心配しているだろう。
しかしベッドから起き上がる気力がない。
私は誰にも必要とされていない。
誰にも愛されていない。
全てを奪われる……哀れな人間なのだ。
思考がグルグルと回り、負のループへと入っていく。
こんな時に出来ることはただ目を閉じるだけ。
想像の中では、私とリチャードは結ばれていた。
タリアは私に頭を下げて謝る。
ああ、こんな未来があったならどれだけ幸せだったことだろう。
無謀な想像をして愉しんだ私は、そのまま深い眠りに入った……
……人の話し声がする。
「ハンナ。起きて」
友達の声。
ここは教室?
そっか。私、登校できたんだな。
私がゆっくりと目を開けると、そこには友達の顔があった。
彼女は呆れたようにため息をはく。
「やっと起きた。ほらタリアさんが呼んでるよ。廊下で待っててくれてるから」
今更何の用なのだろうか。
これ以上私を傷つけて一体何が望みなのか。
私は嫌悪感を感じながらも、その場を立ち上がる。
「ありがとう」
おもむろに呟くと、ふらついた足取りで教室の外に出る。
「あなたがハンナね」
廊下で待っていたタリアは、私を見つけると優しい声で私にそう言った。
「はい、私がハンナですが……何か?」
白々しい。
私の婚約者を奪っておいて、他人を装うつもりなのだろうか。
私が困惑気味に答えると、彼女は私の耳に口を近づけた。
そのままそっと囁く。
「あなたの婚約者のリチャード……私にちょうだい?」
「え?」
私が驚くのと彼女が耳から口を離したのはほぼ同時だった。
廊下を歩く生徒の話し声だけが耳にこだまする。
対して心には先ほどの彼女の言葉がこだましていた。
「あの……タリアさん……今のはどういうことですか?」
「ふふっ。そのままの意味よ。私欲しくなったものは何が何でも手に入れるの。大丈夫よ、悪いようにはしないわ。これからの生活が楽になるように色々と……ね?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
彼女は何を言っているのか。
もう既にリチャードはタリアのものだというのに。
「もし譲る気になったら一週間後までに連絡してちょうだい。私の教室は分かるでしょ?」
タリアはそう言うと、笑みを浮べて去っていく。
近くにいた友達が私に駆け寄ってくる。
「ねえハンナ!タリアさんと何話してたの!?」
「いや、別に……」
ちょっと待って。
この感じ……前にも。
さっきのタリアの言動といい、記憶にあるものと不思議な程に一致している。
「話せていいなぁ……私タリアさんに憧れてこの学園に入学したんだ!今度紹介してよぉ」
「いや、それよりも……今日って何日だっけ?」
まさかね……。
そう思いながら訊ねると、彼女の言った日付を聞いて私は唖然とした。
それは正真正銘、タリアと出会ったあの日だったからだ……
私はタリアの手の平で転がされていたのだ。
しかしそれだけでなく、私は婚約者までも奪われたのだ。
彼は私ではなくタリアを好きになったと言っていた。
私は選ばれなかったのだ。
選ばれたのはタリアだったのだ。
……婚約破棄から既に一週間が経っていた。
私は部屋に籠りずっと学校を休んでいた。
そろそろ登校しなくてはいけない、友達も心配しているだろう。
しかしベッドから起き上がる気力がない。
私は誰にも必要とされていない。
誰にも愛されていない。
全てを奪われる……哀れな人間なのだ。
思考がグルグルと回り、負のループへと入っていく。
こんな時に出来ることはただ目を閉じるだけ。
想像の中では、私とリチャードは結ばれていた。
タリアは私に頭を下げて謝る。
ああ、こんな未来があったならどれだけ幸せだったことだろう。
無謀な想像をして愉しんだ私は、そのまま深い眠りに入った……
……人の話し声がする。
「ハンナ。起きて」
友達の声。
ここは教室?
そっか。私、登校できたんだな。
私がゆっくりと目を開けると、そこには友達の顔があった。
彼女は呆れたようにため息をはく。
「やっと起きた。ほらタリアさんが呼んでるよ。廊下で待っててくれてるから」
今更何の用なのだろうか。
これ以上私を傷つけて一体何が望みなのか。
私は嫌悪感を感じながらも、その場を立ち上がる。
「ありがとう」
おもむろに呟くと、ふらついた足取りで教室の外に出る。
「あなたがハンナね」
廊下で待っていたタリアは、私を見つけると優しい声で私にそう言った。
「はい、私がハンナですが……何か?」
白々しい。
私の婚約者を奪っておいて、他人を装うつもりなのだろうか。
私が困惑気味に答えると、彼女は私の耳に口を近づけた。
そのままそっと囁く。
「あなたの婚約者のリチャード……私にちょうだい?」
「え?」
私が驚くのと彼女が耳から口を離したのはほぼ同時だった。
廊下を歩く生徒の話し声だけが耳にこだまする。
対して心には先ほどの彼女の言葉がこだましていた。
「あの……タリアさん……今のはどういうことですか?」
「ふふっ。そのままの意味よ。私欲しくなったものは何が何でも手に入れるの。大丈夫よ、悪いようにはしないわ。これからの生活が楽になるように色々と……ね?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
彼女は何を言っているのか。
もう既にリチャードはタリアのものだというのに。
「もし譲る気になったら一週間後までに連絡してちょうだい。私の教室は分かるでしょ?」
タリアはそう言うと、笑みを浮べて去っていく。
近くにいた友達が私に駆け寄ってくる。
「ねえハンナ!タリアさんと何話してたの!?」
「いや、別に……」
ちょっと待って。
この感じ……前にも。
さっきのタリアの言動といい、記憶にあるものと不思議な程に一致している。
「話せていいなぁ……私タリアさんに憧れてこの学園に入学したんだ!今度紹介してよぉ」
「いや、それよりも……今日って何日だっけ?」
まさかね……。
そう思いながら訊ねると、彼女の言った日付を聞いて私は唖然とした。
それは正真正銘、タリアと出会ったあの日だったからだ……
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