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第一話
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「あなたがハンナね」
そう言って教室を訪ねてきたのは、上級生のタリア。
彼女は名家の令嬢として、ここアンブレラ魔法学園でも有名な生徒であった。
「はい、私がハンナですが……」
席を離れ廊下に出た私が困惑気味に答えると、彼女は私の耳に口を近づけた。
そのままそっと囁く。
「あなたの婚約者のリチャード……私にちょうだい?」
「え?」
私が驚くのと彼女が耳から口を離したのはほぼ同時だった。
廊下を歩く生徒の話し声だけが耳にこだまする。
対して心には先ほどの彼女の言葉がこだましていた。
「あの……タリアさん……今のはどういうことですか?」
「ふふっ。そのままの意味よ。私欲しくなったものは何が何でも手に入れるの。大丈夫よ、悪いようにはしないわ。これからの生活が楽になるように色々と……ね?」
「や、やめてください!」
私は思わず大きな声を出してしまう。
何人かの生徒が廊下を歩く足を止めてこちらを見る。
「あら、そんなに大きな声出しちゃって。まあいいわ、もし譲る気になったら一週間後までに連絡してちょうだい。私の教室は分かるでしょ?」
タリアはそう言うと、笑みを浮べて去っていく。
近くにいた友達が私に駆け寄ってくる。
「ねえハンナ!タリアさんと何話してたの!?」
「いや、別に……」
「話せていいなぁ……私タリアさんに憧れてこの学園に入学したんだ!今度紹介してよぉ」
紹介なんて絶対しない。
皆は彼女のことを慕っているらしいが、私は違う。
彼女はあの時確かに囁いた。
私の婚約者が欲しいと……。
いくら彼女に頼まれたからってリチャードを譲る気なんて毛頭ない。
リチャードは私の婚約者なのよ!
そう心の中で叫んだ私は、タリアと顔を合わせないまま、それから一週間の時を過ごした。
そう言って教室を訪ねてきたのは、上級生のタリア。
彼女は名家の令嬢として、ここアンブレラ魔法学園でも有名な生徒であった。
「はい、私がハンナですが……」
席を離れ廊下に出た私が困惑気味に答えると、彼女は私の耳に口を近づけた。
そのままそっと囁く。
「あなたの婚約者のリチャード……私にちょうだい?」
「え?」
私が驚くのと彼女が耳から口を離したのはほぼ同時だった。
廊下を歩く生徒の話し声だけが耳にこだまする。
対して心には先ほどの彼女の言葉がこだましていた。
「あの……タリアさん……今のはどういうことですか?」
「ふふっ。そのままの意味よ。私欲しくなったものは何が何でも手に入れるの。大丈夫よ、悪いようにはしないわ。これからの生活が楽になるように色々と……ね?」
「や、やめてください!」
私は思わず大きな声を出してしまう。
何人かの生徒が廊下を歩く足を止めてこちらを見る。
「あら、そんなに大きな声出しちゃって。まあいいわ、もし譲る気になったら一週間後までに連絡してちょうだい。私の教室は分かるでしょ?」
タリアはそう言うと、笑みを浮べて去っていく。
近くにいた友達が私に駆け寄ってくる。
「ねえハンナ!タリアさんと何話してたの!?」
「いや、別に……」
「話せていいなぁ……私タリアさんに憧れてこの学園に入学したんだ!今度紹介してよぉ」
紹介なんて絶対しない。
皆は彼女のことを慕っているらしいが、私は違う。
彼女はあの時確かに囁いた。
私の婚約者が欲しいと……。
いくら彼女に頼まれたからってリチャードを譲る気なんて毛頭ない。
リチャードは私の婚約者なのよ!
そう心の中で叫んだ私は、タリアと顔を合わせないまま、それから一週間の時を過ごした。
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