もう別れましたよね？

第六話

校長室を出て帰ろうと廊下を歩いていると、「マーガレット！」と後ろから呼び止められた。
振り返った私は思わず狼狽えてしまう。

「え……グレイブ？」

元婚約者の彼が一体私に何の用だろうか。
卒業の日まで私を貶しに来たのだろうか。

「マーガレット、卒業おめでとう。それも首席なんて……頭が上がらないよ」

ん？
どうやらいつもとどこか雰囲気が違う。
好意的な彼の態度に私の混乱は更に極まる。

「もしお前と婚約破棄していなかったら……そんなこともふと考えてしまうよ」

「……何が言いたいの？」

「いや、その……俺はただ君に謝りたいだけなんだ」

冗談……だろうか。
嘘の証拠まででっち上げて私を悪者にしたあのグレイブが、謝りたいだなんて。

「何を言っているの？」

私は疑いの目を彼に向ける。

「そう思うのも当然のことだよな……俺は一回お前を裏切っているし……でも聞いてくれマーガレット。俺は気づいたんだ、本当の愛に」

本当にこの人は何を言っているのか。
今更の言葉に嫌悪感しか覚えない。

「マーガレット！お前こそが俺の運命の人だ！本当の愛なんだ！」

物語の主人公のように叫んだグレイブは、どこか曇った瞳で私を真っすぐに見つめた。
それを見て、彼が何かを企んでいることは十分に分かる。

「グレイブ、無理よ。あなたがどう思っていようと、私はあなたとはもう無理だから」

「そ、そんな！」

グレイブが一歩足を踏み出す。

「もう一度やり直そう！マーガレット！二人で幸せに暮らそう！」

なぜ私がそれを承諾すると思ったのだろう。
ふとそんなことを思って、不快感を通り越して呆れてしまう。

私は淡々と口を開く。

「グレイブ。無理よ。あんなことをしておいて何がやり直そうよ。そんなの無理に決まっているでしょう。もう私の前に現れないで」

首席になった幸せな気分が台無しだ。
私はクルリと彼に背を向けると歩きだした。

「ま、待ってくれ！」
しかしグレイブは諦める様子もなく、私の隣に駆け寄ってくる。

「マーガレット、話だけでも聞いてくれ。俺は本当にお前のことを……」

「しつこい！もう消えて！」

私の冷たい言葉にも怯まずに、とうとう彼は私の前に立ちふさがった。

「マーガレット……なんで俺の話を聞いてくれないんだ……」

今までとどこか様子の違う彼に、私は思わず足を止める。

「どうして……こんなにも愛してやっているのに……」

正体不明の恐怖が全身を昇ってくる。
一瞬の間の後、グレイブは獣のように叫んだ。

「この馬鹿女がぁ！さっさと俺のものになりやがれぇ！」