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35、一途な面

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「七海は友達なんて出来なくてもいいんだとさ。俺が友達ならって」

嬉しそうに笑って話しつつ手を繋いで歩き出した。

手を引かれて足を進めながら、本当に仲がいいなと健太の顔を盗み見る。

「でもあいつが1度だけ泣きながら俺に言ったことがあるんだ。それがずっと忘れられなくて」

健太の蹴った小石が電柱に当たってカツンと音を鳴らす。

「健太には僕の欲しいものも持ってるものも今まで通り全部あげるよ。だけど、1つだけあげられないものがあるって言ったら取らないでいてくれる?ってさ。俺のことどう思ってんだよってショックだった」

次に電柱に当たった小石が今度はパキンと二つに割れて散り散りに飛んでいった。

「そのときは何のことか分かんないし、そんなことしないよって言ったけど。今考えたらあの時から好きな人がいたんだなあって」

イメージ最悪の七海くんにそんな一途な面があるのかと感心した。

健太はその言葉が本当にショックだったようで今でも思い返しては心を落ち込ませていると話して笑った。

私に元気づけて欲しいんだなと感じ取って、身長の高い健太の頭に背伸びして手のひらをのせる。

「よしよし。健太は七海くんのこと大好きなんだね」

その言葉に安心したように頬を緩ませて、頭に乗った方の手も握ると「みなは本当に優しいなぁ」と言った。













朝、学校に着いて真っ先に七海くんの席まで歩いた。

ぼーっと窓の外を眺める彼の横からそっと本を差し出す。

窓に写ったそれを見てばっとこっちを振り返った七海くんは笑っていた。

「七海くんに意地悪するなって言っておいて、意地悪してごめんなさい」

昨日の健太の話を聞いて反省した。

指切りしなかったからって人のものを奪うなんてどうかしていた。

「もっと早く返せばいいのに」

本を受け取っても悪態をつく七海くんに「約束守って!」と本をつかむ。

「分かったから」

力では勝てず思いっきり引っ張られて本は取られてしまった。

渡すために来たのになぜか返したくないと思うのが不思議で、首をかしげながら席につく。

「みなちゃん!おはよ!」

今日もかわいい夏帆ちゃんは明るく私にあいさつして軽やかに席についた。

ふぅ、と息をついて七海くんに目を向ける。

嬉しそうに本を開いてページを探すのが、なんだか可愛く見えて目をそらしてしまった。


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