上 下
57 / 68
第二十章 首都ウォルデンⅢ Walden

第20-3話「夢を叶える者」

しおりを挟む




「右手が……なくなっちまった。坊主なら、治せるよな……?」
「ぎ、ギガ………」
「なぁ、そう言ってくれよ……1000年後から来たんだろ? 俺の利き腕なんだよ……」
 
 早苗はギガの元へ行き、静かに二の腕の断面を見た。
 場合によっては、再接着が可能なケースはあるが……

「ギガ。前腕部は?」
「な、なんのことだ……」
「君が渡したのは、右手のほんの一部だ。それ以外のパーツは?」
「わ、わからねぇよ……ちくしょう……」

 痛みによる苦痛で、噴き出るようにギガの顔から汗が出ている。

「ば、バラバラに吹き飛んだ。探したが、肉片だけがあちこちに……」
「そうか……」
「あ、ああ、坊主よぉ……オレの弟子たちがよぉ……」

 早苗が止血する間、顔をしかめ、涙を溜めながら続ける。

「弟子たちが、死んじまったんだ……肉と骨があちこちに……何も残ってねぇ……」
「ギガ……」
「俺の足に、今もついているんだ……!  一番弟子のリックの、血まみれの肉片が」
「ギガ、あとは任せろ」
「デロルとシルロも死にやがった……! シルロのやつが、ニトログリセリンを運んでて…」
「………」
「なぁ、バラバラになったアイツらを集めたら、治せるよな……? 俺、これから集めてくるから……」
「座ってくれ」

 説得している間に、ラーサとグレイが来る。
 興奮したギガをエーテル麻酔で眠らせるのには、一苦労だった。
 
「………ギガ」

 その後は、彼の上腕骨をヤスリでキレイにし、洗浄し……
 骨と筋肉を密に連結させる、筋骨形成術の施術を行う。
 皮下と皮膚を統合した。



「なぁ、兄ちゃん。ギガの腕はもう……」
「……グレイ。無理だ、治らない。1000年後の医療施設があっても無理だ」
「……そうか。ワシはもう少しここで、ギガを見てるよ」

 静かに頷く。
 早苗は爆発が起こった現場に向かうが……

「くそっ……!」

 科学研究所の半分は、爆発でなくなっていた。
 床を見ると、バラバラの人体のパーツが散らばっている。
 ひとりだけ、上半身がキレイに残っている、デロルというドワーフの遺体。
 それ以外は、本当に何も残ってない。

「王子、ごめんなさい……! あ、アタシがちゃんと、見ていれば……」
「ラーサ、君のせいじゃない」
「アタシのせいだよ……! 筒に丁寧に、ニトログリセリンを入れてないのを、もっと注意しておけば……」

 泣いて膝をつくラーサを、どう慰めればいいのかもわからない。

「ラーサ。全ての責任は僕にある」

 と、そこへギガの看病をしていたグレイがやってくる。

「兄ちゃん。肉片を拾って、焼いてもいいか? 今のままじゃかわいそうでな……」
「……ああ、僕もやる」
「あ、あノ! わたしモ」

 ララに続き、周囲に集まっていた獣人たちも、手伝いはじめる。
 彼らには、大量の麻の布を作ってもらっていたが、騒音で集まったらしい。
 20分後には、火を起こして、バラバラの死体を焼いた。



「こんな兵器ってありなのかよ。味方が3人も……」
「ギガさんが、腕を失っちまったんだぞ!」
「なんでドワーフだけ死んだんだ! 陛下は俺たちをなんだと思っている!」

 ざわざわと、ドワーフたちに不満が広がる。
 早苗が何かを言おうとしたその時……

「うるせんだよテメェら!!」

 声を上げたのは、グレイだった。

「こいつらが死んだのは事故だ!! 兄ちゃんに罪を擦り付けるんじゃねぇ!!」
「ですがグレイさん!!」

 ドワーフたちの反発は収まらない。

「その男の作り出すものは、危険です!」
「そうだそうだ! まるで悪魔の知識だ!」
「許されるのか! その男は、ドワーフの命を奪った!」

 テメェ、と言ったグレイが殴りかかろうとする。
 だがそれを早苗は止めた。
 その後、すぐにララの声が聞こえる。

「もうやめてヨ!! わたしたち亜人を救えるのは、早苗さまだけなんだヨ!!」
「うるせえよ!! 獣人!!」
「こいつの女だから、そう言ってるだけだろ!」
「そうだ! この男は最初から、獣人たちを贔屓してたんだ! 犬みたいに従順だからな!」

 その言葉がきっかけとなる。
 
「なんだと、このきたねぇ小人どもがッ!」
「獣人が今までどれだけ、王国に殺されたと!」

 周囲の獣人たちが反発しだす。
 次々大声で罵り合う亜人たち。
 険悪な空気だ。このままだと――

「もういい、やめるんだ!」

 早苗が声を上げるが、全く止まらない。

「……このままだと、本当に」

 内部から崩壊して、全てが終わってしまう。

 刹那――破裂音が宙に響いた。
 ラルクがゆっくりと、この場に歩み寄ってくる。

「閣下、すみません。弾を一つ使いました」
「……いや、構わない」
「もう一つ、勝手な真似ですが、完成したをお持ちしました」

 瞬間――
 その場にいるドワーフたちも、獣人たちも、空を見上げた。
 そして全員が声を失い、一部の者は腰を抜かしだす。

「ウ、嘘だろ……」
「こんなことが……ありえるのか……?」

 それを見て、涙する者すら現れる。
 ララが、彼らに向かって言う。

「……早苗さまの知識は、兵器だけじゃない。わたしたちの夢を、叶えるんだヨ」

 そうだよね? とララに優しい瞳を向けられた。

「……僕らはたしかに、を戦争に使う」

 上空を見上げていた視線を、亜人たちに戻した。

「だがこれは本来、未知の世界に旅立つためのものだ。獣人たちが新しい国家を選び、ドワーフたちが勇敢に、洞窟の外を選んだのと同じように」

 静まり返った亜人たちに続ける。

「僕たちは共存できる。外敵を恐れる時代を終わせよう」

 その言葉を聞いた者たちの中に、文句を言うものは既にいなかった。

 ダイナマイトの制作を、すぐにでも再開する。
 心菜の処刑まで、あと3日となった。

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

雨の世界の終わりまで

七つ目の子
ファンタジー
第一部  魔王が滅びて約100年。人々は魔王の残した呪いに悩まされていた。 不死の呪いにして必死の呪い。そんな呪いに罹った青年レインは残された最後の5年間旅をする。  魔物溢れる悪意に満ちた世界。 そんな世界で出会ったサニィという少女と共に何かを残す為、鬼と呼ばれた村の青年は進む。           《Heartful/Hurtful》  世界を巡る青年と少女のハートフル冒険譚。 ―――――――――――――――――――――――― 第二部  二人の英雄が世界を救って4年。 魔物の脅威は未だなくならず、凶暴化している。その日も、とある村が魔物の襲撃に晒され、戦士達は死を覚悟していた。 そこに現れたのは、一人の武器にまみれた少女だった。  鬼の二人の弟子、心を読む少女と無双の王女の英雄譚。 第二部完結! 第三部ほぼ毎日不定時更新中! 小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しております。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...