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第二十章 首都ウォルデンⅢ Walden
第20-3話「夢を叶える者」
しおりを挟む「右手が……なくなっちまった。坊主なら、治せるよな……?」
「ぎ、ギガ………」
「なぁ、そう言ってくれよ……1000年後から来たんだろ? 俺の利き腕なんだよ……」
早苗はギガの元へ行き、静かに二の腕の断面を見た。
場合によっては、再接着が可能なケースはあるが……
「ギガ。前腕部は?」
「な、なんのことだ……」
「君が渡したのは、右手のほんの一部だ。それ以外のパーツは?」
「わ、わからねぇよ……ちくしょう……」
痛みによる苦痛で、噴き出るようにギガの顔から汗が出ている。
「ば、バラバラに吹き飛んだ。探したが、肉片だけがあちこちに……」
「そうか……」
「あ、ああ、坊主よぉ……オレの弟子たちがよぉ……」
早苗が止血する間、顔をしかめ、涙を溜めながら続ける。
「弟子たちが、死んじまったんだ……肉と骨があちこちに……何も残ってねぇ……」
「ギガ……」
「俺の足に、今もついているんだ……! 一番弟子のリックの、血まみれの肉片が」
「ギガ、あとは任せろ」
「デロルとシルロも死にやがった……! シルロのやつが、ニトログリセリンを運んでて…」
「………」
「なぁ、バラバラになったアイツらを集めたら、治せるよな……? 俺、これから集めてくるから……」
「座ってくれ」
説得している間に、ラーサとグレイが来る。
興奮したギガをエーテル麻酔で眠らせるのには、一苦労だった。
「………ギガ」
その後は、彼の上腕骨をヤスリでキレイにし、洗浄し……
骨と筋肉を密に連結させる、筋骨形成術の施術を行う。
皮下と皮膚を統合した。
◇
「なぁ、兄ちゃん。ギガの腕はもう……」
「……グレイ。無理だ、治らない。1000年後の医療施設があっても無理だ」
「……そうか。ワシはもう少しここで、ギガを見てるよ」
静かに頷く。
早苗は爆発が起こった現場に向かうが……
「くそっ……!」
科学研究所の半分は、爆発でなくなっていた。
床を見ると、バラバラの人体のパーツが散らばっている。
ひとりだけ、上半身がキレイに残っている、デロルというドワーフの遺体。
それ以外は、本当に何も残ってない。
「王子、ごめんなさい……! あ、アタシがちゃんと、見ていれば……」
「ラーサ、君のせいじゃない」
「アタシのせいだよ……! 筒に丁寧に、ニトログリセリンを入れてないのを、もっと注意しておけば……」
泣いて膝をつくラーサを、どう慰めればいいのかもわからない。
「ラーサ。全ての責任は僕にある」
と、そこへギガの看病をしていたグレイがやってくる。
「兄ちゃん。肉片を拾って、焼いてもいいか? 今のままじゃかわいそうでな……」
「……ああ、僕もやる」
「あ、あノ! わたしモ」
ララに続き、周囲に集まっていた獣人たちも、手伝いはじめる。
彼らには、大量の麻の布を作ってもらっていたが、騒音で集まったらしい。
20分後には、火を起こして、バラバラの死体を焼いた。
◇
「こんな兵器ってありなのかよ。味方が3人も……」
「ギガさんが、腕を失っちまったんだぞ!」
「なんでドワーフだけ死んだんだ! 陛下は俺たちをなんだと思っている!」
ざわざわと、ドワーフたちに不満が広がる。
早苗が何かを言おうとしたその時……
「うるせんだよテメェら!!」
声を上げたのは、グレイだった。
「こいつらが死んだのは事故だ!! 兄ちゃんに罪を擦り付けるんじゃねぇ!!」
「ですがグレイさん!!」
ドワーフたちの反発は収まらない。
「その男の作り出すものは、危険です!」
「そうだそうだ! まるで悪魔の知識だ!」
「許されるのか! その男は、ドワーフの命を奪った!」
テメェ、と言ったグレイが殴りかかろうとする。
だがそれを早苗は止めた。
その後、すぐにララの声が聞こえる。
「もうやめてヨ!! わたしたち亜人を救えるのは、早苗さまだけなんだヨ!!」
「うるせえよ!! 獣人!!」
「こいつの女だから、そう言ってるだけだろ!」
「そうだ! この男は最初から、獣人たちを贔屓してたんだ! 犬みたいに従順だからな!」
その言葉がきっかけとなる。
「なんだと、このきたねぇ小人どもがッ!」
「獣人が今までどれだけ、王国に殺されたと!」
周囲の獣人たちが反発しだす。
次々大声で罵り合う亜人たち。
険悪な空気だ。このままだと――
「もういい、やめるんだ!」
早苗が声を上げるが、全く止まらない。
「……このままだと、本当に」
内部から崩壊して、全てが終わってしまう。
刹那――破裂音が宙に響いた。
ラルクがゆっくりと、この場に歩み寄ってくる。
「閣下、すみません。弾を一つ使いました」
「……いや、構わない」
「もう一つ、勝手な真似ですが、完成したアレをお持ちしました」
瞬間――
その場にいるドワーフたちも、獣人たちも、空を見上げた。
そして全員が声を失い、一部の者は腰を抜かしだす。
「ウ、嘘だろ……」
「こんなことが……ありえるのか……?」
それを見て、涙する者すら現れる。
ララが、彼らに向かって言う。
「……早苗さまの知識は、兵器だけじゃない。わたしたちの夢を、叶えるんだヨ」
そうだよね? とララに優しい瞳を向けられた。
「……僕らはたしかに、あれを戦争に使う」
上空を見上げていた視線を、亜人たちに戻した。
「だがこれは本来、未知の世界に旅立つためのものだ。獣人たちが新しい国家を選び、ドワーフたちが勇敢に、洞窟の外を選んだのと同じように」
静まり返った亜人たちに続ける。
「僕たちは共存できる。外敵を恐れる時代を終わせよう」
その言葉を聞いた者たちの中に、文句を言うものは既にいなかった。
ダイナマイトの制作を、すぐにでも再開する。
心菜の処刑まで、あと3日となった。
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