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第十二章 獣人の平原 Anthro's Meadow
第12-4話「Killer Queen」
しおりを挟む日が沈み、夜になっていた。
早苗は獣人たちを1か所に集め、7日後に敵が侵攻しに来ることを伝えた。
「そんな……もうおしまいだ……」
「違う。共に、敵を撃退する」
早苗は言うが、獣人たちに不安の視線を向けられる。
「僕の世界の武器を作り、君たちに与える。だがそれには、生産拠点が必要だ」
パッと思いつく、定住地の基準は五つある。
① 半永続的な清潔な水(川の上流など)
② 肥えた土壌(ミミズの多さ等で確認)
③ 合理的で安定した気温
④ 資源へのアクセスしやすさ
⑤ 敵襲に気づきやすい高地
それを聞いた獣人たちの多くが、誉の泉の周辺がいいと言っていた。
「……泉の周辺か。すぐに調査隊を編成して、調査に向かおう」
ララとラルク、そして数人の獣人兵たちを、早苗は調査隊に加えた。
そして調査に向かう。が、森林を歩いているそのとき――
「閣下。話が変わりますが……」
「どうした?」
「……本当に姉さんが、王妃でよかったのですか?」
小声で恐る恐る、ラルクは聞いてきた。
「ララは優秀だよ。問題ない」
「そうでしたか」
嬉しい、のだろう。
ラルクは微笑を隠して、先頭を歩いていった。
◇
その頃、王国の元王妃、ゴルディは――
王都エフレで、評議会を終わらせたばかりだった。
「ふふ、母上。大丈夫ですか?」
「……いえ。本当、頭が痛みますわ」
王のオズソンは笑っているが、ゴルディは疲れ果てていた。
今日も、ろくな話がなかった。
属国の公国が、帝国と繋がっているかもしれない、ですって?
(……ネルソン公爵は確かに、野心や欲望が強い)
だが彼とのパイプは、確かなものだ。裏切りなど考えられない。
「……公国は人口と土地に恵まれています。冬の食糧に問題が出ないか」
「所詮は属国。殺して奪えばいいのです」
「オズソン、いけません」
貴族らしい考え方だが、被害が大きすぎた。
「母上、公国は軍隊すら持てない。脅威ではないでしょう」
「そうですね。ただ――」
ゴルディは、静かに笑った。
「鎖は、つけなければ」
「母上?」
「余っている勇者を使うのです」
ゴルディは専属メイドに、ノエミを呼ぶように伝える。
そして王と一緒に、謁見の場で待った。
駆け足でやってきたノエミは、ぎこちない笑顔で一礼する。
『……お、オズソン陛下。ゴルディ様。どのようなご用件で?』
『ノエミ』
オズソンは大げさに、遺憾の意を表した。
『お前はいつまで経っても魔力に目覚めない』
『申し訳ありません……』
ゴルディが追い打ちをかける。
『魔力に目覚めないのは、ノエミ様の罪のせい。鞭に打たれ、贖いをするべきかと』
『そ、そんな……!』
『そして、それでも目覚めなければ、首を刎ねるべきでしょう」
『ちょ、ちょっと待ってください! ゴルディ様――』
ゴルディは、ニヤリとした。
『では、公爵と婚姻を結びなさい』
『……ええ? け、結婚ですか?』
『そうです。そして男子を生みなさい。その後、王都に戻るのです』
くすくすと、我慢できず王座のオズソンが笑う。
ノエミに公爵の子供を産ませ、その子供を王国が管理する。
裏切れば、息子の首を刎ねる、言わば人質なのだ。
『こ、困りましたね……ワタシじゃ、力不足かと……』
『貴女の価値は、勇者という肩書きだけですので、大丈夫ですわ』
『そうですか……』
『王国の勇者と、公国のトップの婚約。国家同士が強い関係を結ぶには十分でしょう』
きっと健康な子供を産めますよ、と伝えると、ノエミは泣きそうになっていた。
『その無駄に発育した体で、公爵を喜ばせてあげなさい。今日中に支度して、出発するように』
『はい……』
ノエミは一礼すると、メイドに強制的に部屋に戻され、支度をさせられた。
(……はぁ。カーミットや、あの日本の男の子に、ついていけばよかったかな)
わたしにもっと、勇気があれば。ノエミはそう思う。
だがその頃、ノエミはまだ知らなかった。
これから向かうであろう、その公国が、早苗のいる亜人の島に侵攻しようとしていること。
そして逃げたカーミットも、その公国に隠れ潜んでいることを。
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