英独脱走兵物語

わかめの味噌汁

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過去

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初めに
このお話はメインキャラクターである、ジョニーとフィーアの過去の話です。別にご覧頂かなくとも支障はありませんが、是非ご一読をお願い致します。

ジョニー編
「...ジョニー!おい、ジョニー!」
どこからか、自分を呼ぶ声がする。フィーアでは無い。基地司令殿でも無さそうだ。
朦朧とした意識の中で、何とか体を起こす。そこで彼は信じられない光景を見た。
そこは、彼が生まれ育った、バーミンガム郊外の小さな街。そして目の前の家の屋根の上に、親子と思しき二人が寝転んでいた。
「父ちゃんな、今度はマンチェスターの屋敷に仕掛けてみようと思ってるんだ!成功したら、この街の人と一緒にお祝いしような!」
「わーい!とーちゃんかっけー!オレも、大きくなったらとーちゃんみたいなかっこいい大人になる!」
そうやって無邪気にはしゃぐ子供を見る父親の目は、どこか陰っているようだった。どうか、お前だけは...と言いたそうな目で。
次に映ったのは、マンチェスターの近郊にある、とある富豪者の屋敷だった。その扉の前には、胸から血を流し倒れた先程の父親と、それを取り囲む警官隊がいた。
「チ、クソッタレの強盗風情め、やっとくたばりやがったか」
盾を構える警官の一人が、既に息絶えた父親の死体に向かって罵る。周りでも口々に罵詈雑言が飛び交い、それを押しかけた新聞社やラジオ関係者の取材の声が推し退ける。
発行された新聞には、でかでかと
[天下の義賊、エリク・マクスウェル死す!]
の文字が踊り、その事実はやがて先程の子供にも伝わる事になる。
「とーちゃん、死んじゃったの?なんで?」
目に涙を浮かべて、震える声で尋ねる少年に、母親は涙を堪えて言う。
「あの人はね、仲間の人を庇って...。それで...」
そこから先の言葉が紡がれることは無かった。小さな家に二人分の嗚咽が響き渡り、小さな街は静寂に包まれることとなった。
やがて月日は流れ、15年後。一回りも二回りも大きくなったと思える青年が、夜のロンドンを駆け抜ける。その手には大きなキャリーバッグと、父親の写真が握られていた。
父の死後、彼に憧れた少年は強盗としてのスキルを磨き、やがてロンドン1と呼ばれる強盗になっていた。
その後も幾度となく権力者の屋敷に忍び込んでは、大金を掴んで去っていくのを繰り返し、その金は貧しい人々に配っていた。
しかしそんな彼にも、遂に終わりが来たのだ。バッキンガム宮殿に忍び込んだ彼は、程なくして衛兵に発見され、そのまま捕らえられた。最初は死刑、もしくは終身刑が妥当だと検察側は言ったが、そこに軍部が干渉し、彼は懲罰部隊の隊長として軍に編入されることになった。というのも、当時のイギリスは来たるドイツとの戦争に備えて、有能な人材を掻き集めていたのだ。そこで、警官隊から何度も逃げ延びた彼にも白羽の矢が立ったわけだ。

その後訓練を受けた彼は、前線の地雷処理や危険地帯への強行など、いかにも懲罰部隊らしい処遇を受けたがその度に生還し、いつからか彼の部隊は、古代ペルシア軍の精鋭部隊に習って不死隊と呼ばれるようになった。
その後も各地を転戦、武名を馳せてきたが...。その後突如味方からの砲撃を喰らい、吹き飛ばされたところで意識がハッキリとした。
「夢...か...」
目に映るのは、ここ数日ですっかり慣れてしまった牢の天井。硬い床に背をつけ寝るのは昔から慣れっこだ。
「フィーアちゃぁん?起きてるぅ?」
返事は無かった。帰ってはいるはずなのだが、寝ているのだろう。
「明日...か」
憲兵が来るまでのタイムリミットを口ずさむ。それにしても、嫌な夢だった...。
「今の俺を見たらとーちゃん、なんて言うかな...」
解けるはずもない疑問を呟いた彼は、苦笑の後、再び眠りに落ちるのであった。

フィーア編
忌み子。幼い頃の私を表現するには、この三文字が適している。
私は生まれつき白い髪で、親族からは「悪魔の子だ」と言われ、両親諸共迫害され続けていた。
そんな中でも、両親は必死に私を愛そうとしてくれていた。行きたいと言った場所には連れて行ってもらえたし、欲しかったものは頑張ってお手伝いをしたら買ってもらえていた。多分、あの頃が人生で1番幸せな時期だった...と思う。
でも、とある事故で両親を亡くし、施設に入ってから、私の人生は急落して行った。施設では白髪のせいでいじめられ、教師からは邪険にされ挙句に暴力を振るわれたり...。
正直、何度も死のうと思った。でもその度に、両親からかけてもらっていた言葉が頭によぎった。
「貴方の白い髪は、誠実で優しい子の証明。恥じることなんてない。その髪に見合う人間になるよう、努力を惜しんではダメ。」
この言葉は今でも覚えている。だから私は今まで生きてこれたんだ。
でも施設からは逃げた。やってられなかったんだ。逃げた私が行ける所なんて、軍隊しか無かった。
でも軍隊も辛かった。男所帯に女が混じってきたらどうなるか、想像はつくだろう?何とか躱してはいたんだけどな...。
話を戻そう。そんな中、唯一私に屈託なく接してくれるヤツがいた。その人はもう老人で、退役も近い老兵だった。でも彼は私の髪を侮蔑するどころか、
「綺麗な髪だね」
と褒めてくれた。その後私は彼と共に行動を共にすることになった。何度も激戦をくぐり抜けた。酒の味を教えてもらったのも彼からだった。いつしか両親に加え、彼も精神的支柱になっていた。
でも、彼はあの時の砲撃で私の目の前でバラバラになった。飛翔音から察したらしく、最後まで私に逃げるように言い、庇うように死んでしまった...。
「......」
先程から押し黙ったジョニーの表情が見えないのがもどかしかった。重い話を聞いて、ショックを受けたのかもしれない。
「これが私の半生だ。何も言うことは無い」
そう言い残し、溶けるように眠る。ここ最近は連中に慰め物にもなっていないし、良く眠ることが出来た。
しばらくすると、隣の牢から啜り泣く声が聞こえてきた。ジョニーのものだろう。
フィーアはあえて声をかけず、眠る振りをした。啜り泣くだけが、夜の営倉の空気を揺らした。
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