卒業した姉とこれから入学するのではしゃぐ妹

月輝晃

文字の大きさ
4 / 101

ババ抜き

しおりを挟む
「おやつターイム!」

 そう言って、私はソファに崩れ落ちた。

「しおりん、チョコいる?」

「欲しい欲しい!」

 数分後、かおりんはチョコとクッキーをお盆に乗せて戻ってきた。ついでに紅茶まで入れてある。こういう気が利くところが、妹の可愛いところだ。

「にしても、最近遊びまくってるなあ。受験終わった後の開放感ってやつ?」

「うん。なんか、心がヒラヒラする感じ!」

「……なにそれ詩人?」

「ふふっ、じゃあ次は何して遊ぶ?」

 妹の目がキラキラしてる。まるで飼い主と遊びたいワンちゃんのようだ。

……こういうところが可愛いんだよねえ……
 
「もう勘弁してほしいけど……」

 その時、台所の奥から物音がして、ぱたぱたとスリッパの音が近づいてきた。

「おやつタイムですか~?」

 ふわっと台所のカーテンが揺れ、姿を現したのは――母だった。 エプロン姿で、手には袋入りのスナック菓子、でもまだ20代にしか見えない容姿は大人の色気を感じさせた。
 
 「お母さん、何その入り方……」

「ちょうどお菓子が余ってたのよ~。それに、なんだか楽しそうな声が聞こえてきたから混ぜて欲しいな~って」

  顔にはいつもの穏やかな笑み。けどその目は、どこか獲物を狙うハンターのようでもある。
  
「えー、珍しい。どうしたの?」

「たまにはね、家族で遊ぶのも大事かなって思って。受験お疲れさま会ってことで」

「……それ、つまり……」

「ババ抜き、しましょ!」

 母はどっかりとソファに腰掛けると、にっこり笑って言った。

「えっ?」

「ルールもシンプルだし、年齢関係なく楽しめるでしょ?」

 かおりんと私は顔を見合わせ、同時にうなずいた。

「じゃあ、決まり!」



 3人で円になって、カードを配る。

「……ババ抜きって、地味に心理戦だよね」

「そうだよ、しおりん。これでも昔は家族旅行のたびにやってたんだから」

「懐かしい~。あのとき、私めっちゃ負けた記憶しかない……」

「記憶は上書きできるわよ、かおりん」

 母が意味深に微笑む。

「でも、せっかくやるんだし、何か賭けようか」

「えー、また?」

「うんうん、負けた人は勝った人の言う事を一つ聞くってどう?」

 母は既に勝つ気満々の目をしていた。これが“母の本気モード”――私も、何度か痛い目を見てきた。

「まあいいよ、面白そうだし」

「私も乗った!」

「それじゃ、始めましょ!」



 ババ抜きの戦いは、静かに、そして激しく幕を開けた。

 カードを引くたび、誰かの顔が微妙にひきつり、笑いが漏れ、時には沈黙が支配する。油断するとすぐにババをつかまされる。誰がジョーカーを持ってるのか、何度もフェイントが繰り返される。

「しおりん、そのニヤニヤ怪しい」

「ち、違うって。これはただの“しおりんスマイル”です」

「完全にババ持ってる顔だよ……!」

「ふふふふ……」

 母は終始ポーカーフェイスだ。どれだけ引かれても、どれだけカードが減っても、顔色一つ変えない。まさに座道の師範。

「……さて、残りは3枚ね」

「いや、これ、緊張感やばすぎ」

 そして――ついに、最後の一枚を引く瞬間。

 かおりんが、私の前に手を差し出した。
 
 可愛らしい手をしてる。握りたい……でも一枚選ばないといけない。

「……これ!」

 その瞬間。

「ババだったあああ!」

「うわー!!」

「しおりん、また負けたね」

「な、なにぃぃ……!」

 そして、勝者は――なんと母。

「ふふふ、やっぱり人生経験の差が出ちゃうのよね~」

「くそぉ……」

「それじゃあ、お約束通り。これから私のことは、“ママりん”って呼んでね♪」

「えっ……ママry……ママりん?」

 嚙んだ。

「そう。かおりん、しおりん、そしてママりん。完璧な三人組の完成よ!」

「なんか、語感強すぎる……」

「でも、ママりんってちょっと可愛いかも……?」

 かおりんは苦笑いしながら、素直に口にした。

「……ママりん、お茶のおかわりある?」

「はいはい、今すぐ用意しますよ、かおりん」

 なんだこれ。妙に可愛らしい会話が展開されている。

  たしかにママりんも可愛い……

「……じゃあ、私も言うのか」

 口をもごもごさせながら、私はぽつりと。

「……ありがと、ママりん」

「うふふ、はいよ、しおりん」

 その瞬間、家の中がふわっと柔らかくなったような気がした。笑い声と紅茶の香りと、お菓子の甘さと。何も特別じゃない一日。
 
 しおりん、かおりん、ママりん。
 呼び名はちょっと変だけど、これが我が家の、ちょうどいいかたち。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合活少女とぼっちの姫

佐古橋トーラ
青春
あなたは私のもの。わたしは貴女のもの? 高校一年生の伊月樹には秘密がある。 誰にもバレたくない、バレてはいけないことだった。 それが、なんの変哲もないクラスの根暗少女、結奈に知られてしまった。弱みを握られてしまった。 ──土下座して。 ──四つん這いになって。 ──下着姿になって。 断れるはずもない要求。 最低だ。 最悪だ。 こんなことさせられて好きになるわけないのに。 人を手中に収めることを知ってしまった少女と、人の手中に収められることを知ってしまった少女たちの物語。 当作品はカクヨムで連載している作品の転載です。 ※この物語はフィクションです ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ご注意ください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...