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あいよ! 生いっちょう!
しおりを挟む「なま、生ください~! おっきいナマ~!」
大きな声が店に響く。初めてこの注文を聞いた時に、顔を赤らめたのは高城だけではなかった。周りにいた男性客もみな一様に顔を赤らめていた。
「あいよ! なま、いっちょーう!」
気にしていないのは大将、あんただけだよ。と高城は心の中で呟く。下手をすると勘違いされそうな注文をした女は誰だと視線を配る。カウンターの端に座っている小柄な女性が声の主とわかった時には少々引いた。
可もなく不可もない。美貴子を見た時の印象はその程度だった。けれども、大将に生大ジョッキを注文する時の甘ったるい声が妙に耳に残った。注文の仕方を誰か注意しろよと思いつつも一人で来ている美貴子を注意する勇気ある人物など誰もいなかった。
同じ店で飲む者同士だった高城と美貴子の関係が変化したのは、真夏日と呼ばれる暑い日だった。
「美貴子ちゃん? 美貴子ちゃん?」
女将の好美が美貴子の肩を叩いている。閉店間際まで飲んでいたせいか、周りには高城と大将夫婦と机に突っ伏している美貴子しかいなかった。
「……どうしました?」
女将の困った様子に、思わず声をかけてしまった。
「あら、高城さん。ごめんなさいね。美貴子ちゃん、今日仕事で嫌なことがあったのか飲みすぎたみたいで……寝ちゃったのよ」
「……はぁ」
大人のくせして自分の飲める量も分からないのか。思わず口に出そうになった言葉を高城はぐっと飲み込んだ。美貴子の座る席に近づき、不躾ながらバッグの中を漁る。
「ちょ! 高城さん!」
「ああ、家は近いようですね。僕が送りましょう」
「……え? でも」
「大丈夫ですよ。手を出すようなことはしません」
女将が美貴子に視線を配る。その表情には『助かる』という言葉がありありと浮かんでいた。自身の出自はこういう時に最大級の効力を発揮するのだ。テレビCMを持つほどよアプリ開発会社。ゲーム、ビジネスソフト……日本国内に留まらず、海外でも配信されるような有名な会社だ。高城はその会社の代表取締役を勤めていた。学生の頃に趣味で作ったアプリが思いの外ヒットし、大学卒業と同時に起業した。トントン拍子とまではいかなかったが、酔いつぶれた女を何事もなく送るくらいの社会的地位も金銭もそして、女もすべて手に入れた。放っておく事も出来たが、居心地のいいこの店に少しのしこりも残したくない。高城の打算的な考えからだった。
「僕もタクシーに乗りますから。ついでです」
「……そぉ? いいの?」
「はい。安心してください。何かしでかしてここに来れなくなる方がよっぽど困りますから」
高城の言葉に嘘はなかった。人相が悪いと言われることもある表情をめいいっぱい緩める。その微笑みに、女将は頬を赤らめる。ちょろいもんだと思いながら、高城は美貴子の財布から数枚の札を取り出す。奢ってやる義理などないと、高城の潔癖さが現れた行動だった。
「なんか勝手にいいのかねぇ?」
「僕に奢られたと知るよりよっぽどいいでしょう? 彼女もこの店を気に入っているようだし、しこりは残さない方がいいと思いますよ」
完全に寝落ちたのか、力の抜けた体を背負う。すると、背中に思いの外柔らかい感触を感じた。
(これは……Fくらいありそうだ)
このくらいの役得がないとやっていられないな。高城は年齢相当のいやらしい考えを抱えながらタクシーに乗り込んだ。
□□
「さて、鍵は……」
美貴子の自宅は、タクシーで五分ほどの距離にある可愛らしい外観のアパートだった。すぐに戻るとタクシー運転手に告げ、高城はまた美貴子を背負う。予め用意しておいた鍵をシリンダーに差し込み、ドアを開ける。このまま玄関に放置しても良かったが、朝起きた時に可哀想だと思い直す。ズカズカと遠慮なく室内に入り込むと、ベッドはすぐに見つかった。1LDKの、いかにもな作りのアパートだ。目的の場所はすぐに見つかり、背負っていた美貴子を下ろそうとした時。あの、甘ったるい声が高城の耳をくすぐったい。
「……おっ、きいの。なま、ください……」
寝ぼけていたせいもあるのか、かすれ声だった。
おっきいの。
ナマ、ください。
健全な思考を持った男なら盛大な勘違いをするところだ。女に困らない高城は、不埒な考えを必死に追い出そうと頭を降る。
「なま、がいいの……おっきなの……」
今度はダイレクトに耳に入り込んできた。ここのところ忙しかったせいか、女日照りだった高城の理性を焼き切るには十分だった。
狭い寝室に、酔った男と女。ことが起きるには十分な条件が揃っていた。
背負っていた美貴子をそっとベッドに下ろす。『ナマがいい』と呟いた唇はてらてらと怪しく光っている。そう言えば大将特製の角煮を食べていたなと思い出した。あまりに美味しそうに食べていたため、高城もつられて注文してしまった。
美貴子のあまりに無防備な姿は、高城の興奮を呼び起こす材料にしかならなかった。ぺろり、と美貴子の唇を縁どるように舐める。起きるか? とドキドキしたが、美貴子は少し身じろぎしただけで、起きる気配は無かった。そうと分かると、高城の行動は大胆さを増した。
甘辛い醤油風味の唇を、これでもかと舐め回す。閉じられた口内をこじ開けるのは簡単だった。お世辞にも爽やかとは言えない酒臭いキスだったが、美貴子の無防備さを改めて感じてひどく興奮した。
(男の目の前で、ナマが欲しいなんて)
なんて無防備なんだ。
つい三十分ほど前に女将と約束したことなど、とうに忘れ去っていた。高城はそのくらい美貴子の唇に夢中になっていた。少し汗ばんだ髪を撫でていた手は、いつしか美貴子のシャツのボタンをすべて外していた。上から三番目と四番目のボタンが他の場所に比べてやたらとキツそうだった。ボタンを下から押してやるだけで、ぷつん、とすぐに外れた。
(こんなにきついシャツを着るなんて……ちゃんとしたものを買ってやらないといけないな)
美貴子の無防備さに触れる度に、高城は底なし沼に沈んでいくような感覚を覚える。ズブズブとはまって抜けられない。麻薬にも例えられるような快楽に、高城の陰茎は、スーツスラックスの中で爆発しそうなほど存在を主張していた。
シャツの下に着ていた肌着をめくる。すると、ぷるんと音がしそうな程の瑞々しい乳房が顕になった。思わず高城は揺れる乳房を凝視してしまう。じっくり観察していると、また美貴子の無防備さを見つけてしまった。わざとなのだろうか? ブラジャーのサイズが目に見えて合っていない。乳房とカップ布の境目に段ができている。それに加えて、カップから今にも乳首が飛び出しそうになっている。
(……もったいない。こちらもきちんと買い揃えてやらないと)
いつしか高城の頭の中は、美貴子との未来でいっぱいになっていた。完全に熟睡しているのか、美貴子が起きる様子はない。なんのためらいもなく、カップ布を人差し指でずらす。ぷるり、と乳房が震えて可愛らしいピンクの乳首が顕になった。そのまま人差し指で、乳輪を縁取る。小さな円の中心には、固く閉じられた蕾があった。
いたずらに引っ掻いてやろうかとも思ったが、まずは美貴子の柔らかい乳房を堪能することにした。高城の手の動きに合わせて形を変える乳房を揉んでいると時間が経つのも忘れてしまう。次第に存在を主張してきた小さな蕾を指の腹でしごく。気持ちいいのか、周囲の肌が粟立つ。
(どんな風に喘ぐのだろうか。あの甘ったるい声で、もっと、とせがむのだろうか)
起きてほしい。けれども、起きて欲しくない。高城は葛藤する。けれども、手の動きを止めることは出来ない。そして、吸いよせられるように花開いた蕾を口に含む。まず真っ先に感じたのは、汗の塩気。暑かったし仕方が無いだろうと、美貴子の味を堪能する。舌で転がし、時に押しつぶし、時に甘噛みをする。ぴくん、ぴくんと震えるような仕草を見せたが、美貴子は起きなかった。
(起きないのだったら……)
スラックスの中で早く出してくれと懇願する分身を解放しようとした時だった。下から短めのクラクションの音が聞こえた。その瞬間、高城の理性が一気に戻ってくる。慌てて美貴子の服を整え、持っていたメモ帳に事の顛末を簡潔に書き込む。すっかり萎えた分身を哀れに思いつつも、鍵を閉め、役割を終えた鍵をポストに入れる。
(おれは、いったい)
寝ているのをいいことに、好き勝手してしまった。自分はこんなにも我慢の効かない男だったかと高城は肩を落とした。
□□
手を出したことを気がつかれていないか、柄にもなくビクビクしながら店を訪ねた。本当ならば行くのをやめようかとも思ったが、急に出入りしなくなったのなれば逆に疑われるのでは? と考えに考え抜いた結果だった。しかし、それは杞憂に終わった。俺を出迎えたのは、土下座せんばかりの美貴子だった。
ごめんなさいと何度も謝られ、これでもかと酒を奢られた。話してみると、意外と聞き上手な美貴子とはウマがあった。いつしか毎週金曜日、美貴子と飲む日を心待ちにしている自分がいた。初日に送った日は美貴子の財布から金を出したが、それ以来会うと先に会計を済ませておく。美貴子は毎度毎度注意されたが、「では、次回」と濁しておくに留めた。それで高城の存在を焼き付けることが出来るならば。ここでも打算が働いた。
それから、何度か美貴子を送る機会に恵まれた。つまり、あの日した卑猥ないたずらを仕掛ける機会に恵まれたら、いけないと思いつつもいたずらをやめることは出来なかった。
すっかり濡れそぼり、高城の指を飲み込む蜜壷の中を探る。ひだが指に絡みつく。指先の末梢神経を通して、全身で美貴子を味わっていた。じゅくじゅくと卑猥な水音を立てても美貴子が目覚める気配はない。
目覚めるなと願った日もあった。しかし、今は違う。ここまで目覚めないと、逆に目覚めさせてやりたくなる。驚くと真ん丸になる美貴子の目に、自身を映してやりたかった。高城は驚きに飛び上がるであろう美貴子を想像するだけで反射的に笑みを浮かべてしまう。美貴子の好意は自覚していた。高城もわかりやすく好意を示していたが、美貴子には伝わっていない。高城は好きでもない女を何度も何度も送ったりするような優しさを持ち合わせてない。
「無防備なのも考えもんだな……」
そこにつけ込んだのは誰だ? と理性に語りかけられる。僕だな、と自嘲的な笑みを浮かべて、声もなく達する美貴子を見下ろす。
「……はやく、鳴かせたいな」
今日の美貴子は天ぷらを食べていたな。酸化した油臭い唇を味わいながら、高城はまた美貴子を責め立てた。
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