隠れんぼは終わりにしよう

ぐるもり

文字の大きさ
9 / 31
見つけてくれて、ありがとうございました

ゆめのなかのわたし

しおりを挟む




 誰かの腕に抱かれて眠る事など、物心ついた時から一度もなかった。
 祖母は、厳しい人だった。小さな頃から料理、洗濯、掃除。一通りの家事をしこまれた。小さな頃は、それが嫌で泣いたこともあった。でも、祖母は考えを変えなかった。

 それは、いつか私が『ひとり』で生きていけるようにするためだったのかもしれない。
 『ひとり』になって、初めてそう思った。
 『ひとり』になって、理解しても、教えてくれた人にお礼も言えない。
 『ひとり』になって、悔やむのだ。



 真っ白い病室の中の、 白いベッド。
 クリ一ム色の力一テンが風でゆらゆら揺れる、夕方。独特の消毒臭は看護学生の私にも居心地が悪いものだった。


「唯子、 人の集まる家にしなさい。人の集まる家は、いい家よ。居心地のいい家にしなさい」
「私、おばあちゃんみたいに社交性無いから……」
「まぁ、そんなこと言って。私が老人会の旅行へ行った時彼氏を連れ込んだの、知ってるのよ?」

お見舞いのお饅頭をほんの一欠片を口にして、祖母は笑った。

「……なんでバレたの? もう、とっくの昔に別れたよ」
「あら、そうだったわね」

 細くなった手を私の方に差し出す。視線で手を出すように促される。そして、出した私の手に、祖母はお饅頭を一つ、乗せた。

「今はいい人いないの?」
「いないよ。そんな人」
「あら、心配ねぇ。私がいなくなった後、どうするのかしら?」
「……っ」

 お饅頭の包みを開けていた手が止まる。ヒヤリとした汗が背中を伝った。
 そんなこと言わないで。
 私の気持ちが表情に出ていたのか、 深い雛をさらに濃くして 「冗談よ」 と祖母が笑った。その笑顔にまだ、 大丈夫。 と、自分に必死に言い聞かせる。
 祖母の笑顔に釣られるように、私も笑う。

 まだ、私は『ひとりではない』


「楽しそうな話をしてますね。 小村さんの家なら俺も是非行ってみたいな」
「あら、先生。 本気にしますよ」
「いやぁ、小村さん、目が怖いですよ」

 私たちの会話に、違う声が聞こえて我に返る。声の主は、祖母の主治医。回診の時間かと思い、時計を見ると既に十六時を回っていた。夕飯の支度、学校の準備など思い出す。

「おばあちゃん、ごめん。私もう帰らないと」
「あら、唯子。先生がいらっしゃったんだから。まだ居なさいな。ね? ……先生?」


 お饅頭を三人で食べた。
 あの日食べた、お饅頭が今まで一番美味しかった。消毒臭のする、無機質な部屋が、おばあちゃんの終のすみかだった。



「っ、は……っ!」
 息苦しさと共に目が覚める。夏も終わり、秋めいてきた季節だったが、全身びっしょりと汗をかいていた。
 ……夢?
 ぐ、ぱ、と手を開き、しっかりと動くことを確認する。どうやら、祖母の最期間近の夢を見ていたようだ。汗をかいたせいか、喉の乾きを覚えた。水を飲みたいと身体を起こそうとした。

「……ん?」

 体幹に纒わり付く、二本の腕。その主は言わずもがな。

「……有志、離して」
「……ん、んー……」

 離れるどころか、一層強く、体幹に巻き付かれる。小さな声で、名前を呼ばれる。

「……」

 先程までカラカラだった喉の乾きが、消え去ってしまった。私は有志の背中に腕をまわし、再度眠ることにした。


 『ひとり』で生きていけるようにしてもらったことが、『ふたり』になった時に、役に立ったよ。

 おばあちゃん。

 人が住む家になったよ。

 またいつか、『ひとり』になるかもしれない。けれども、今はこの温もりを味わっていたかった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...