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見つけてくれて、ありがとうございました
ゆめのなかのわたし
しおりを挟む誰かの腕に抱かれて眠る事など、物心ついた時から一度もなかった。
祖母は、厳しい人だった。小さな頃から料理、洗濯、掃除。一通りの家事をしこまれた。小さな頃は、それが嫌で泣いたこともあった。でも、祖母は考えを変えなかった。
それは、いつか私が『ひとり』で生きていけるようにするためだったのかもしれない。
『ひとり』になって、初めてそう思った。
『ひとり』になって、理解しても、教えてくれた人にお礼も言えない。
『ひとり』になって、悔やむのだ。
真っ白い病室の中の、 白いベッド。
クリ一ム色の力一テンが風でゆらゆら揺れる、夕方。独特の消毒臭は看護学生の私にも居心地が悪いものだった。
「唯子、 人の集まる家にしなさい。人の集まる家は、いい家よ。居心地のいい家にしなさい」
「私、おばあちゃんみたいに社交性無いから……」
「まぁ、そんなこと言って。私が老人会の旅行へ行った時彼氏を連れ込んだの、知ってるのよ?」
お見舞いのお饅頭をほんの一欠片を口にして、祖母は笑った。
「……なんでバレたの? もう、とっくの昔に別れたよ」
「あら、そうだったわね」
細くなった手を私の方に差し出す。視線で手を出すように促される。そして、出した私の手に、祖母はお饅頭を一つ、乗せた。
「今はいい人いないの?」
「いないよ。そんな人」
「あら、心配ねぇ。私がいなくなった後、どうするのかしら?」
「……っ」
お饅頭の包みを開けていた手が止まる。ヒヤリとした汗が背中を伝った。
そんなこと言わないで。
私の気持ちが表情に出ていたのか、 深い雛をさらに濃くして 「冗談よ」 と祖母が笑った。その笑顔にまだ、 大丈夫。 と、自分に必死に言い聞かせる。
祖母の笑顔に釣られるように、私も笑う。
まだ、私は『ひとりではない』
「楽しそうな話をしてますね。 小村さんの家なら俺も是非行ってみたいな」
「あら、先生。 本気にしますよ」
「いやぁ、小村さん、目が怖いですよ」
私たちの会話に、違う声が聞こえて我に返る。声の主は、祖母の主治医。回診の時間かと思い、時計を見ると既に十六時を回っていた。夕飯の支度、学校の準備など思い出す。
「おばあちゃん、ごめん。私もう帰らないと」
「あら、唯子。先生がいらっしゃったんだから。まだ居なさいな。ね? ……先生?」
お饅頭を三人で食べた。
あの日食べた、お饅頭が今まで一番美味しかった。消毒臭のする、無機質な部屋が、おばあちゃんの終のすみかだった。
「っ、は……っ!」
息苦しさと共に目が覚める。夏も終わり、秋めいてきた季節だったが、全身びっしょりと汗をかいていた。
……夢?
ぐ、ぱ、と手を開き、しっかりと動くことを確認する。どうやら、祖母の最期間近の夢を見ていたようだ。汗をかいたせいか、喉の乾きを覚えた。水を飲みたいと身体を起こそうとした。
「……ん?」
体幹に纒わり付く、二本の腕。その主は言わずもがな。
「……有志、離して」
「……ん、んー……」
離れるどころか、一層強く、体幹に巻き付かれる。小さな声で、名前を呼ばれる。
「……」
先程までカラカラだった喉の乾きが、消え去ってしまった。私は有志の背中に腕をまわし、再度眠ることにした。
『ひとり』で生きていけるようにしてもらったことが、『ふたり』になった時に、役に立ったよ。
おばあちゃん。
人が住む家になったよ。
またいつか、『ひとり』になるかもしれない。けれども、今はこの温もりを味わっていたかった。
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