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抗えない愛
しおりを挟む「あ、ん……」
エルネストの口付けに、アイシャははしたなく反応してしまった。顔に熱が集まり、全身が痺れる。
頭の隅で、理性が必死に叫ぶ。
離れなさい。離れなさいと。
アイシャは理性に従って、エルネストの肩口を押す。きっと何の抵抗にもならないとアイシャは思っていた。すると、思いのほか簡単に、エルネストが離れていった。
「……あっ」
初めて出会った日のように、体の奥から痺れるキスをされると思っていた。口から漏れた声には、明らかな懇願が隠れていた。
「……キスはいいの?」
「え……?」
「僕が、アイシャに。キスをしてもいいの?」
「……だめ、です」
「そう」
そう言ってエルネストは吐息の混ざる距離でアイシャをじっと見つめる。頭を大きな手で撫でられる。そして、髪を掬っては落とし、掬っては落とし。そんな戯れが続いた。
「アイシャ」
漆黒の目がアイシャをじっと見つめている。アイシャの名を紡ぐ唇に、どうしても視線がいってしまう。
「……どうしたの?」
「っ、」
「キスしてほしい?」
柔らかな声が鼓膜を揺らす。耳元のすぐ側で囁かれたが、唇はアイシャのどこにも触れなかった。ほんの少しの距離がもどかしい。アイシャは知らず知らず、エルネストの服を掴んでいた。
「アイシャ、キスが欲しい?」
エルネストにもう一度問われる。アイシャはどうしたらいいのか分からず、ただ首を横に振った。
「僕は君にキスがしたいよ」
鼻先が触れ合う。漆黒の瞳に、流されそうになるアイシャが映し出されている。物足りないものをねだるような顔だった。
理性が足元から崩れ落ちる。優しい声で囁かれ、全て受け入れてしまいたい。そんな思いを込めて、アイシャは服を握る手に力を込める。
「エルネストさ、ま」
「アイシャ、キスがしたい。僕のために諦めて」
エルネストが望むのであれば。アイシャの中に狡い考えが浮かぶ。
「わたしが諦めれば……エルネスト様は嬉しいの?」
全てをエルネストのせいにしてしまえばいい。
自分が望んだのではない。
そうすれば、足りない何かが埋まる。
そんな狡い考えだった。
「いつも言っているだろう?僕のために諦めてって」
「……そんな」
「いいんだよ。アイシャ……僕のためなんだから。迷わないで」
甘く、そして淫らな誘いに、アイシャはついに陥落してしまった。首を少しだけ、傾げる。そして、薄く口を開いた。
「キス、したいです」
言った自分にも聞き取れない声だった。
しかし、かすれ声の諦めは、エルネストの耳にだけには届いたようだ。
アイシャの耳元で誘惑し続けた唇が今、目の前にある。そして、大きな喉仏が上下したのを確信したと同時に、肉厚の舌が口内に入り込んできた。
「ん、むっ」
全てを貪るような舌の動きだった。初めての時と同様にアイシャは翻弄される。食べられてしまうのではないかと疑うほど、激しいキスだった。歯列をなぞられ、隅々まで舐られる。アイシャの舌に出番はなく、ただ誘導されるままエルネストのものに絡めるだけだった。
「僕もキスをしたかったから、アイシャも同じで嬉しい」
「っ、あ、ん……」
頬や額、先程触れ合った鼻先、それから。エルネストの唇の動きを追っていたが途中で諦める。むず痒いような、痺れるようなそんな感覚に恐れたからだ。
「沢山キスしよう」
そう言ってエルネストはアイシャの首筋に顔を埋めた。疑問に思う暇もなく、一層強く吸いつかれた。
「っ、」
「ほら、綺麗な赤い花が咲いた」
ちゅ、ちゅ、となおもエルネストがアイシャの首に花を咲かせていく。これは何?と震える声で尋ねると、本当に花でも咲き誇りそうな笑顔が返ってくる。
「僕がアイシャにキスをした証だよ」
「……そうなの?」
「そうだよ」
翻弄されるばかりで何も分からないアイシャは、素直にエルネストの言葉を受け取る。下を見ると、エルネストの言うとおり、真っ赤な花が咲いていた。
「ほんとに花が咲いてるみたいね」
「だろう?もっと咲かせてあげよう。アイシャの白い肌にきっと良く似合うだろう」
そう言って、エルネストがアイシャの服に手をかける。
「この服はアイシャに似合わない」
赤い花の余韻に浸る暇もなく。唯一の服と言っていいワンピースが、エルネストの手によって引きちぎられた。ビリッと絹を引き裂くような高い音が寝室に響いた。
「……っ、え」
「似合わないものをいつまでも着ていて欲しくない。だから、諦めて」
「ちょっ!待ってください!」
ただの布の塊となったワンピースを引き抜かれる。コルセットなど大層なものをつけていないアイシャは、ほとんど全裸に近い状態だった。慌てて両腕で体を隠す。
「む、無理です」
「無理?どうして」
「こんな、こんなの……」
ぽろぽろと涙が零れる。唇をかみ締め、アイシャは必死に羞恥に耐えた。
「アイシャ、ダメだよ。傷がつく」
「わたし、こんな」
「ああ、泣かないで。大丈夫だよ」
エルネストの親指が型どるようにアイシャの唇を撫でる。すると、驚くほど力が抜けていく。目の前の相手を信じてはいけない。そう思っているのに、触られたり、優しくされたりするとアイシャはすっかり絆されてしまう。
「僕は君が欲しいんだ。だから……」
「また、諦めて?ですか」
「そう。僕は譲れない。今日アイシャの全てを僕のものにするんだ」
「……そこに私の意思はあるのでしょうか」
「だから、言ってるだろう?」
あきらめて、と。
低い低い声だった。エルネストの決意を理解したアイシャは体を強ばらせた。そんなアイシャを見越して、エルネストは体を隠していた腕を掴む。
「大丈夫。きっと諦められるよ」
不敵な笑みを浮かべたエルネストに、アイシャの胸がどうしようもなく高鳴る。
体を隠していた腕は、薄汚れたシーツに縫い付けられた。
そして、エルネストは宣言通り、アイシャの全身にキスを落とした。
□□
「あっ、あ……っ、んんっ、んぅ」
「可愛らしく立ち上がってるね。気持ちいいのかな?」
「っ、い、やぁ……っ、ダメ……」
ちゅ、ちゅ、と啄むような音を立てて、エルネストがアイシャの乳房に吸いつく。先端は赤く色づき、アイシャの首に咲く花と同じ色になっていた。膨らんだ先端を片方は吸われ、もう片方は指で捏ねられる。
絶え間ない刺激に、アイシャの口からは甘い声が零れた。
「える、えるねすと……」
「なんて可愛らしい声で鳴くのだろう……アイシャ、もっと聞かせて」
かり、と乳首を甘噛みされる。アイシャは一層高い声で喘ぐ。すると、気を良くしたエルネストが同じように甘噛みを続ける。
アイシャの理性はもう、崩れ落ち、跡形もなくなっていた。
首筋に始まり、胸、腹、足、ふくらはぎ、背中。全身に赤い花が咲いている。
エルネストの執着心が見て取れ、アイシャはうっそりとした悦びをかんじていた。
今エルネストが執心している乳房も、あちこちに赤い花が咲いている。
もう、アイシャはエルネストに問われる度、ただ頷くしかないほどに快楽に溺れていた。
「僕の手のひらに収まるかわいらしい、乳房だ」
「……っ、やだ、言わないで」
「どうして?」
その答えをアイシャは持ち合わせていなかった。きっとエルネストは、数多くの令嬢と閨を共にしたのだろう。豊満で柔らかい令嬢達と比べられると思ったら、アイシャの口からは何も言えなかった。
快楽の奥から湧きあがる感情の名前をアイシャは知らない。けれども、アイシャの胸の内をぐるぐるとかき乱す感情が、決して良いものではないことはすぐにわかる。
「……僕は本来騎士だから」
「んっ」
アイシャが知らない感情に振り回されていると、ぐにゃり、とエルネストの手で乳房が揉まれる。寄せて上げて、最後に先端を弾かれた。
「っあん!」
アイシャが甘い快楽の余韻に浸っていると、きしりとベッドが軋む音が聞こえた。
「こうして、跪く方が性に合ってるな」
「え……?える、ネストさま?」
先程までアイシャの上にのしかかっていたエルネストがいなくなる。赤い花を咲かせた体が横たわるベッドから降りたエルネストは、アイシャの足元に跪いていた。
「初めてだ。こんなにも、可愛がりたいと思ったのは」
「……エルネスト様」
「嫉妬されるのも、悪くない」
「……嫉妬?」
そうだよ。とエルネストが微笑む。
「僕がほかの令嬢とアイシャを比べたと思ったんだろう?」
「……そう、かもしれません」
「それを嫉妬と言うんだよ」
アイシャをかき乱す感情の名前を知った瞬間。アイシャの両足がこれでもかと広げられる。
「っ、なにを!」
「心配ない。一生の忠誠をここに誓おう」
ここに?どこに?忠誠?
アイシャの理解が追いつかないまま、エルネストは足の間に顔を埋めた。制止は届かなかった。
「っああぁっ」
ぴちゃ、と水音が狭い寝室に響く。味わったことの無い感覚に、アイシャは体を震わせた。思わず、縋るようにエルネストの髪を掴んだ。その間も、エルネストはアイシャの足に顔を埋め、卑猥な水音を立てている。何をしているのか分からないアイシャは、知らぬ快楽にただ鳴くことしか出来なかった。
「甘い蜜が、沢山出てきている」
「っ、な、な、ぅ、なにを……」
「アイシャの小さな蕾にキスをしたんだよ。ほら、ぷっくら膨らんで、僕にキスしてほしいって主張してる」
何が膨らんでいるの?と、アイシャは何も分からず、ぽろぽろと涙を流す。
「大丈夫。きっと気持ちいいよ」
「っ、あああん!」
エルネストがまた、アイシャの蜜壷に顔を埋めた。肉厚の舌に、溢れる蜜を舐め取られる。
溢れ出る愛液を一滴も零さない勢いで、エルネストが蜜を吸い上げていく。
エルネストの勢いに合わせて、アイシャも高い声で鳴く。それに気を良くしたエルネストが、愛撫を続ける。
「あぁ……やだ、も、う……」
「さて、次はどうしようか」
まるでおもちゃで遊んでいるかのような弾んだ声が聞こえる。
そして、エルネストの言う膨らんだ蕾に太い指が添えられた。
「可愛らしい蕾だ」
「っ、ん!」
小さな蕾を擦られる。ちりちりとした刺激に加え、腹の奥底から湧き上がるかき混ぜられる感覚にアイシャは翻弄されていた。
「っ、あっあっだめ、へんになる!」
「大丈夫。そのまま、身を任せて」
「んっんんんっ、うぅっ、あぁぁぁっ!」
言われた通りに与えられた刺激に身を任せる。すると、一層強い快楽の波にのまれた。どろり、と陰部から蜜が溢れでて、アイシャの体は大きく震えた。獣のような大きな声で喘ぎ、与えられる快楽に全身で溺れた。
「っ、は、は、はぁ……っ」
「アイシャ……とても良かった。可愛かったよ」
霞みがかかったぼんやりとした頭では考えが纏まらなかった。太ももを伝う自分から出た愛液が、空気に触れヒヤリと冷たい。
その冷たさと一緒に冷静になれればよかった。けれども、エルネストが再び蜜壷に指を添えた。
「すごく濡れている」
ぴちゃ。わざと水音を立てたエルネストが、アイシャに見せつけるように濡れた指を見せつけてくる。
「っ、やめ、て」
「どうして?アイシャが喜んでいる証だよ」
漆黒を纏うエルネストが、アイシャに見せつけるように指を舐る。壮絶な色気を放つエルネストに、アイシャの胸はまた高鳴る。
「そろそろ、本番だ」
「え、待って?本番って?」
「……僕を受け入れてくれる?」
「受け入れる……?」
分からない、とアイシャが首を横に振る。すると、舐っていた指が、蜜壷に添えられた。
「まずは、一本」
「……っ、い、た!」
蜜壷の中に、異物が侵入してくる。先程まで、快楽に翻弄されていた体に、痛みが走った。
「ごめんね?最初は痛いと思う。だからこそ、きちんと解さないと」
「ほぐ、す」
「そうだよ。ここに僕のモノが入るからね?」
「……はい、る」
そうだよ、と言ってエルネストは中に埋めた指をゆっくりと動かし始める。時折走る痛みに耐えていると、頬に唇が落ちてくる。
「力を抜いて。もう1本入れるよ」
「っ、ん、んん」
先程のような痛みはなかったが、それでも消えない異物感。アイシャは歯を食いしばり、耐える。
異物感と痛みに耐えていたが、次第に腹の奥底に感じる小さな快楽。混じる喘ぎ声に気づいたのはエルネストだった。
「気持ちいい?」
「あ、ち……が」
ふうん、と不遜な笑みに、アイシャはエルネストの新しい一面を見た気がした。エルネストの違う一面を見つける度に高鳴る胸。何故だろうと思っても誰も教えてくれない。
「嘘つきだな。アイシャは」
「んんっ、ふ、ふうう……」
異物感に心地よさを感じ始めた頃、中に入っていた指をエルネストが勢いよく引き抜いた。
「……中でイクのなら、初めては僕のモノであって欲しいな」
急に訪れた喪失感に、アイシャは戸惑う。荒い息を整えていると衣擦れの音が聞こえた。
「アイシャ。僕は君を抱きたい」
「……エル、」
「しっ。言葉にすると、君は素直になれないから」
アイシャの蜜で濡れた指で言葉を制される。唇に触れる人差し指から、伝わるアイシャの欲望。かっと頬に熱が集まる。すると、薄く開いた口に、濡れた指が差し込まれた。
「……んっ」
「自分の蜜の味を楽しみながら、頷くんだ」
「ふ、ぁ……」
僕が欲しい?
優しく、甘く、低い声が脳髄を刺激する。甘い誘惑はアイシャの腹の奥底に響いて、疼きを産む。エルネストの指を咥えながら、アイシャは言われるがまま頷く。
「アイシャ、ありがとう」
再度足を思い切り広げられる。何に頷いたのかもハッキリしないまま、何かを蜜壷に擦り付けられた。
「える、」
エルネストの指が口から引き抜かれた。何をするのか確認するよりも前に、体を中心から引き裂かれるような痛みが全身を穿いた。
「っ、ぁ、かっ、」
呼吸がままならず、音にならない悲鳴が口から漏れる。痛みに慣れていないせいか、生理的な涙がぼろぼろと零れ、アイシャのまつ毛を濡らした。
「ああ、泣かないで。ごめん。どうしてもアイシャの中に刻みつけておきたかったんだ」
「……いた、いです」
「うん、ごめんね。痛いよね」
赤子をあやす様にエルネストがアイシャの頭を撫でる。そして、心許なくさ迷っていた手を取られる。
「ほら、繋がったよ。さわってごらん?」
エルネストの繋がったという場所に導かれる。アイシャの陰部に、貫くように挿入しているもの。どくどくと脈打ち、なぞるだけでも硬さがあると分かる。
「これが僕だよ。アイシャと繋がりたくて仕方がなかった」
「あ……っ」
小さく揺すられて、痛みに交じる快楽にすぐに気づいた。エルネストの動きに合わせて漏れる嬌声に、アイシャは耳を塞ぎたくなる。
「アイシャ」
「んっ、ぅっ、あぁ……」
「アイシャ。愛してる」
初めて囁かれた愛の言葉に、アイシャは目を見開く。そして、蘇る、アイシャの奥底にある、記憶。
『こんなんでも、愛してるからね。アイシャ……あなたも見つけるのよ。本当の愛を』
呪いのようにアイシャを蝕み続けた、最期の言葉。
愛など、ない。
両親は自分を愛してくれなかった。
大切だった人も別の人を愛していた。
けれども、愛を知っている人を羨ましいとも思っていた。
「本当、に?」
「ああ、アイシャ。僕の片割れ。愛すべき人」
エルネストの愛の言葉に、アイシャの奥底の疼きが再燃する。どろりと蜜が溢れ出る。熱を帯び、エルネストのゆるい動きでは物足りなさを覚えてしまった。
「あっ……ん、エルネスト……」
「ん、締まった……ナカもすごく濡れているね」
ゆるゆる動くエルネストに合わせて、強請るような動きを無意識にしてしまう。愛を求められた喜びをアイシャは知ってしまった。
「動くよ。アイシャ」
「あっ、きて、きてくださいっ」
アイシャの言葉を合図に、エルネストは抽迭を開始する。先程とは違って激しい動きに、アイシャはだらしなく口を開き、翻弄された。
肉のぶつかり合う音が響き、ベッドが軋む。白い足を持ち上げられ、奥底を暴くように突かれる。
「ん、んんぅ、あぁんっ、あっあっあっ、すごい……」
「アイシャ……アイシャ……っ!」
何度も名前を呼ばれ、アイシャは幸せに浸っていた。いつの間にか痛みは消え失せ、快楽だけが残った。時折唇を合わせ、漆黒に囚われた。
エルネストの腕に閉じ込められれば幸福を感じ、離れれば寂しさを覚える。
「アイシャ、アイシャ……っ、リシャーナ!」
エルネストがアイシャの真名を呼んだ瞬間、アイシャは意識を飛ばすほどの絶頂に襲われた。
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――
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