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8話 忍者はエルフの里に住む
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あらためて目覚めるとちょうどお昼前だった。
「おはようございます。ぐっすり眠れましたか?」
ディナは可愛らしいピンクのエプロンを巻いて、こちらを振り返ってそう尋ねてきた。
「お陰様で。寝間着もいただいたみたいで申し訳ない」
「いいんです、いいんです、服はお洗濯に出しちゃいましたがよかったですか?」
「ああ」
俺は首肯するが、そういえば服には武器も大量に仕込んでいたのだが大丈夫だったかなと思った。
「ちなみに中に入ってたものは、壊れちゃうとよくないので、お部屋にまとめておきました」
そう指差した先には、クナイやら手裏剣やら、爆弾やらがゴロゴロと転がっていた。
「……危なかったな」
「クロウ、これ何なの?」
「カレナ様、危ないので触らないでくださいね」
俺は爆弾の起爆スイッチを押そうとするカレナ様をやんわりと諌める。
戦があった後の子供が、不発弾を触って命を散らすという絵巻を見たことがあるが、それを彷彿とさせて心臓によくない。
「しかし普段であれば失神などしないのに……」
すでに何回も言ってることだがげに恐ろしきはエルフの魅力。
こうも俺を魅了するとは、彼女たちが忍者として働けば、きっとくノ一衆の色香など一瞬で消し飛んでしまうことだろう。
「ちょうどご飯の時間ですから召し上がってくださいね」
「わーい!」
そう言って出されたのは、シンプルな野菜スープとハーブのかかったパスタであった。
味は美味しいが、どことなく違和感を覚えたのは、肉を使ってなかったからだろう。
「お口に合いませんでしたか……?」
「いや、うまい。だが、動物性タンパク質を取らないんだなと思ったんだ」
「どうぶつ?」
「お肉ですか。別に食べちゃダメとかないんですけどね。土地柄手に入らないんですよね」
「それもそうか」
確かにここに来る途中に畑はあったけど、放牧をしてる様子もなかったしな。
狩猟をしても良いのだろうが、そもそも……。
「人間さんってお肉ないと死んじゃうんでしたっけ?」
「死ぬの!?」
「いや、死にはしないが……」
「私たちって食事ってあんまりいらないんですよね。でもお料理と食べるのは好きなので作ってるんです」
なるほど生存するために食事をとるというよりも、絵を描いたり詩を創ったりするのと同じような文化としての食事、料理なのかもしれない。
「ねークロウ、お肉ってなに?」
「そもそも知らないのか」
「カレナ様はまだ生まれて10年ですからね。私は好きですよお肉。昔一度だけ里の外に出たことがありまして、その時に食べたことがありますが、とても良かったです。いいですよねお肉……」
そう言ってディナは何だか恍惚そうな表情を浮かべている。
……まあ、美食も文化なのだろう。
「そう言えば干し肉であれば所持していたはずだな」
「ほし……?」
「おそらくディナの想像しているものに比べればチープだが……」
そう言って俺は爆弾やらが転がっているところから食糧入れを見つけ出し、そこから非常食用の干し肉を取り出した。
「これはお肉を乾燥させたものですか?」
「ああ、長持ちするようにな……まあ、味は保証しないが」
「じーーーー」「じーーーーー」
「……食べます?」
ディナとカレナ様はこくこくと頷いた。
俺が二人に手渡すと、じっと見つめた後、はむっと噛みはじめた。
「……むしゃ、むしゃ……かたい」
「……むしゃ、かたいですね、でも味があります」
二人は美味しいけど、かたいなぁ、という反応だった。
まあ、長期保存した干し肉であれば妥当なリアクションだ。
本来であれば、もっとよい食事をお礼に振る舞ってあげたいところだが、今の俺ではこれが精一杯。
「外に戻ればうまいものも持ってこれるが……」
と、俺はそうつぶやいて今後のことについて考えていた。
主に関する情報がないかと訪れたエルフの里。
仮に主が生まれ変わりやってくるとしても最低数年はかかる。
(可能ならここに住みたいが、さすがに迷惑だろう……)
聞いていると本当にここは人がめったに立ち寄らぬ異境の地。
さすがに人間が住むのは掟などがあり、難しいだろう。
干し肉をむしゃむしゃと食べているお二人を見つめながら、俺が自らの今後について考えるのであった。
☆
「え、住む? いいんじゃないですか」
「いいよー」
と、思ったらあっさり了承を得られた。
「え、えぇ……い、いいんですか……?」
「むしろ何がダメなんですか?」
と素直に聞いてくるディナ。
い、いやこういう場所って、エルフの里としての維持を保つために、人間は住まわせちゃダメだとか。
「そんなルールあるのディナ?」
「大丈夫です。姫さまがこの里のルールです」
「ならオッケー」
ゆるいなエルフの里!?
だ、大丈夫か。
俺はこれまでの人生、いくつもの村に任務で忍び込んで住んだことがあるが、こんなガードがゆるゆるの村は初めて見たぞ!
「あ! やっぱり一つだけ条件があります!」
「――――ッ!」
俺はカレナ様の台詞に安堵にも似た反応を示した。
お、おお、そうか良かった。そりゃそうだよな。流石に試練の一つも超えなければ。
何をすれば良い。里の奥地にある秘宝を取ってくるか。それとも大切な宝物を一つ担保として奉納するか。
「私のことはカレナ様ではなく、カレナと呼びなさい!」
ゆるいなぁ、もう!
「それは名案ですね。カレナ様、私も気になっていたところなんです」
「いや、ディナもカレナ様って呼んでるじゃん」
「私はメイドだからいいのです」
何その謎論理。
「カレナちゃんでも許してあげます」
そんな右耳の代わりに片目でいいですみたいな厳かな口調で言われても困るのだが。
「……では、カレナ……ちゃん」
「はい、里の仲間けってーい!」
「おめでとうございますー!」
嬉しそうに拍手する二人に、これでいいのかエルフの里と不安を禁じ得ずにはいられなかった。
「おはようございます。ぐっすり眠れましたか?」
ディナは可愛らしいピンクのエプロンを巻いて、こちらを振り返ってそう尋ねてきた。
「お陰様で。寝間着もいただいたみたいで申し訳ない」
「いいんです、いいんです、服はお洗濯に出しちゃいましたがよかったですか?」
「ああ」
俺は首肯するが、そういえば服には武器も大量に仕込んでいたのだが大丈夫だったかなと思った。
「ちなみに中に入ってたものは、壊れちゃうとよくないので、お部屋にまとめておきました」
そう指差した先には、クナイやら手裏剣やら、爆弾やらがゴロゴロと転がっていた。
「……危なかったな」
「クロウ、これ何なの?」
「カレナ様、危ないので触らないでくださいね」
俺は爆弾の起爆スイッチを押そうとするカレナ様をやんわりと諌める。
戦があった後の子供が、不発弾を触って命を散らすという絵巻を見たことがあるが、それを彷彿とさせて心臓によくない。
「しかし普段であれば失神などしないのに……」
すでに何回も言ってることだがげに恐ろしきはエルフの魅力。
こうも俺を魅了するとは、彼女たちが忍者として働けば、きっとくノ一衆の色香など一瞬で消し飛んでしまうことだろう。
「ちょうどご飯の時間ですから召し上がってくださいね」
「わーい!」
そう言って出されたのは、シンプルな野菜スープとハーブのかかったパスタであった。
味は美味しいが、どことなく違和感を覚えたのは、肉を使ってなかったからだろう。
「お口に合いませんでしたか……?」
「いや、うまい。だが、動物性タンパク質を取らないんだなと思ったんだ」
「どうぶつ?」
「お肉ですか。別に食べちゃダメとかないんですけどね。土地柄手に入らないんですよね」
「それもそうか」
確かにここに来る途中に畑はあったけど、放牧をしてる様子もなかったしな。
狩猟をしても良いのだろうが、そもそも……。
「人間さんってお肉ないと死んじゃうんでしたっけ?」
「死ぬの!?」
「いや、死にはしないが……」
「私たちって食事ってあんまりいらないんですよね。でもお料理と食べるのは好きなので作ってるんです」
なるほど生存するために食事をとるというよりも、絵を描いたり詩を創ったりするのと同じような文化としての食事、料理なのかもしれない。
「ねークロウ、お肉ってなに?」
「そもそも知らないのか」
「カレナ様はまだ生まれて10年ですからね。私は好きですよお肉。昔一度だけ里の外に出たことがありまして、その時に食べたことがありますが、とても良かったです。いいですよねお肉……」
そう言ってディナは何だか恍惚そうな表情を浮かべている。
……まあ、美食も文化なのだろう。
「そう言えば干し肉であれば所持していたはずだな」
「ほし……?」
「おそらくディナの想像しているものに比べればチープだが……」
そう言って俺は爆弾やらが転がっているところから食糧入れを見つけ出し、そこから非常食用の干し肉を取り出した。
「これはお肉を乾燥させたものですか?」
「ああ、長持ちするようにな……まあ、味は保証しないが」
「じーーーー」「じーーーーー」
「……食べます?」
ディナとカレナ様はこくこくと頷いた。
俺が二人に手渡すと、じっと見つめた後、はむっと噛みはじめた。
「……むしゃ、むしゃ……かたい」
「……むしゃ、かたいですね、でも味があります」
二人は美味しいけど、かたいなぁ、という反応だった。
まあ、長期保存した干し肉であれば妥当なリアクションだ。
本来であれば、もっとよい食事をお礼に振る舞ってあげたいところだが、今の俺ではこれが精一杯。
「外に戻ればうまいものも持ってこれるが……」
と、俺はそうつぶやいて今後のことについて考えていた。
主に関する情報がないかと訪れたエルフの里。
仮に主が生まれ変わりやってくるとしても最低数年はかかる。
(可能ならここに住みたいが、さすがに迷惑だろう……)
聞いていると本当にここは人がめったに立ち寄らぬ異境の地。
さすがに人間が住むのは掟などがあり、難しいだろう。
干し肉をむしゃむしゃと食べているお二人を見つめながら、俺が自らの今後について考えるのであった。
☆
「え、住む? いいんじゃないですか」
「いいよー」
と、思ったらあっさり了承を得られた。
「え、えぇ……い、いいんですか……?」
「むしろ何がダメなんですか?」
と素直に聞いてくるディナ。
い、いやこういう場所って、エルフの里としての維持を保つために、人間は住まわせちゃダメだとか。
「そんなルールあるのディナ?」
「大丈夫です。姫さまがこの里のルールです」
「ならオッケー」
ゆるいなエルフの里!?
だ、大丈夫か。
俺はこれまでの人生、いくつもの村に任務で忍び込んで住んだことがあるが、こんなガードがゆるゆるの村は初めて見たぞ!
「あ! やっぱり一つだけ条件があります!」
「――――ッ!」
俺はカレナ様の台詞に安堵にも似た反応を示した。
お、おお、そうか良かった。そりゃそうだよな。流石に試練の一つも超えなければ。
何をすれば良い。里の奥地にある秘宝を取ってくるか。それとも大切な宝物を一つ担保として奉納するか。
「私のことはカレナ様ではなく、カレナと呼びなさい!」
ゆるいなぁ、もう!
「それは名案ですね。カレナ様、私も気になっていたところなんです」
「いや、ディナもカレナ様って呼んでるじゃん」
「私はメイドだからいいのです」
何その謎論理。
「カレナちゃんでも許してあげます」
そんな右耳の代わりに片目でいいですみたいな厳かな口調で言われても困るのだが。
「……では、カレナ……ちゃん」
「はい、里の仲間けってーい!」
「おめでとうございますー!」
嬉しそうに拍手する二人に、これでいいのかエルフの里と不安を禁じ得ずにはいられなかった。
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