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第十一章 独孤皇后と二人の乞食女 

第十一章 独孤皇后と二人の乞食女 十

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 一方、伽羅は憤怒に燃え立ちながら部屋へと戻った。

「おやめ下さりませ」「どうぞ尉遅氏にお情けを」と、宮女たちは口々に叫びながらその足元にすがったが、病人とは思えぬ足取りでこれを振り払った。
 そうして腹心の宦官を部屋に呼びつける。

 宦官も騒ぎを知っていたので何を言いつけられるやらと青ざめて参上したが、伽羅から持ってくるように命じられたのは、毒酒でも、拷問の道具でもなかった。

「そなた、密かに刑場に行って、尉遅熾繁によく似た肢体の死刑囚を探してはくれぬか。
 その遺骸を密かに求めたい。
 顔の方はどうでも良い。良馬を貸与える故、ただちに行ってまいれ。
 く戻ってくるのじゃぞ」

 そう言って、かつて見せたことも無いような、ぞっとするような笑みを浮かべた。
 何とするかは、おそらく想像に難くないだろう。
 夫に『強烈なお仕置』きをしてやろうと思ったのだ。

 さて、政務に疲れた皇帝堅は、いつものように若き華のうるおいを求めて後宮を訪れた。
 あの美しい娘は今日も泣いているのだろうか。
 口が利けぬ者らしく、侍女に聞いてもその素性はわからない。
 ただ、なんとも上品な美貌であることから、高貴な生まれであることだけは察しがついた。

 いや、生まれなどはどうでもよい。
 いつか自分こそが、美しく儚げなあの女人の涙を止めてみせるのだ。
 皇帝たる自分に出来ぬはずはない。

 楊堅の心中は、男の傲慢と庇護欲でいっぱいになっていた。
 しかし、部屋の中で仁王立ちしていたのは、なんと、病の床についているはずの皇后――伽羅であった。

「……伽羅……ど、どうしてここに……」

 絶句し、仰天する楊堅であったが、それだけでは済まされない。
 伽羅は手に何かを持っていたのだ。

 それは女の生首であった。
 面相は血にまみれ、もはや、誰かわからぬほどに変わり果てている。
 髪も短く切られ、そこらに散らばっている。
 地に伏したままの胴体に改めて目をやれば、まとっているのは果たして愛妾に与えた衣であった。

「……嗚呼ああ!!」

 楊堅は全てを察し、一声呻くと、散らばっていた髪を一筋掴んで部屋を飛び出した。
 そうして単騎で皇宮の御苑から飛び出し、山奥深く駆け入ってしまったのである。
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