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第九章 隋王朝
第九章 隋王朝 二
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楊堅――彼は即位してすぐに様々な政策を行い、確固たる地位を築いた。
もう人々は、悪皇帝の頃の悪夢に悩まされることはない。
治安も良くなり、国は急激に豊かになっていった。
もちろん、女のために『国財』がつぎ込まれることもない。
後宮にかける予算は倹約家であった皇帝邕のそれよりもはるかに下回る。
后妃が一人しかいないのだから、それもうなずける。
皇帝堅が後宮にこもるのは政務が全て終わった後であった。
上奏文はすべて目を通し、時には個人的休息を得る場所である後宮にまで持ち帰る。
その働きぶりが皇城内外でも大評判となっていた。
皇帝が一心に政務に励む。
中国においての皇帝の役目は『天帝の代理』であるから、当たり前と言えばそうである。
しかし、ここ数年その『当たり前』がなくて人民は苦労を重ねたのだ。
当たり前のことが戻ってきたことに臣民は歓喜した。
天候は伽羅の言ったとおり順調で、収穫もまずまずだ。
収穫物は、民間への流通が優先された。だが、備蓄もゆるやかに開始されている。
流通していた銭も統一した。北周、北斉時代の銭が混合して流通していたため種類が多く、更には民間の私鋳銭も使われていたため、はなはだ不便であったのだ。
楊堅が新たに作らせた『隋五銖銭』は重さが統一されており、銭の価値を素材価値が支える良質のものであった。
一方、いい加減な規格で、両面の模様も頼りなく、孔もしっかりとしていない古銭や私銭の流通を禁じたので人民は喜んだ。
隋王朝が開かれて以来、この地の様相はがらりと変わった。
豊かに、そして暮らしやすくなった。
それでも楊堅は、変わらずに質素を好んだ。
帝位を狙ったのは、富貴を目指してのことではない。
人民のためであるからだ。
まして、彼が愛する皇后は豪奢を喜ばない。
それでいて、楊堅が質素な染の衣を着ていると、
「徳がある方は衣服が質素でも、内から輝くような光がありますわね」
などと言って喜ばせるのだ。
元々楊堅は質素好みであったが、絶世の名を欲しいままにした妻からそう言われ続けると、益々その気になるのも無理はない。
また、周りを見ると着飾っている女はたくさんいたが、質素で化粧の薄い妻の方がとびぬけて美しかった。
妻の言葉のみに目じりを下げる日々を送るうち、楊堅はすっかり質素好みを極めて、もはや趣味の域である。
もし伽羅が贅沢好みの残虐な女であったなら、どうであったろう。
楊堅は、それでも美妃の微笑みにたぶらかされて『違う趣味』にはまったのかもしれない。
さて、質素好みなこの夫妻。共に大変な倹約家であったが、ケチではなかったらしい。
逸話としては、こんな話が残っている。
あるとき、幽州の総監管、陰寿が、
「突厥帝国に素晴らしい宝玉があるので、これを買い取って、皇后様へ献上したい」
と、申し出た。
宝玉の種類については記載が見られないが、突厥は『突厥玉』と呼ばれる玉の生産地である。
そのことから、おそらくこの『突厥玉』であったのだろう。
『突厥玉』とはさて、どういうものか。
これは绿宝石ピンインと呼ばれるものであるが、なじみのある言い方で言えば『エメラルド』である。
おそらく史書に出てくる『宝玉』は大型で質の良い『エメラルド』であったのだろう。
前にも少々出てきたが『幽州』は北方と隋を結ぶ陸路交通の要所である。(後の世では『北京』と呼ばれる)
楊堅は突厥帝国とも巧みに和睦を結んでおり、交易はそれなりにあった。
幽州総監管であれば、当然突厥の情報にも耳ざとい。
宝玉の情報などにも通じていたのであろう。
また、この陰寿という男は伽羅の父、独孤信の昔なじみでもあり、尉遅迥の討伐を楊堅より命ぜられたうちの一人でもあった。
その時の功績により出世したので恩を返すべく、このようなことを思いついたとのことであった。
当然それは建前である。
更なる出世への下心があったのだ。
当時、極上の宝玉はいくつもの城に相当するだけの価値があるとされ、大変高価なものであった。
大国の皇后を喜ばせるのにふさわしい品と言えるのだ。
しかし伽羅は、
「そのような宝玉を買い入れるだけの大金があるのなら、功績を立てた将兵たちに分け与えてねぎらうべきでございましょう」
と返し、陰寿は己の下心を恥じた。
また、皇后の言に従って、その通りに分配したので将兵たちは皆、大いに喜んだ。
楊堅もまた、歴史の表に現れている通りの質素ぶりである。
しかし皇后同様、功ある者への褒賞は惜しまなかった。
血濡れた赤い道を踏みしめて『帝位』に就いた楊堅であったが、占いの後半部分も当たっていたのである。
いや、そうではなく――――占いの通りになるように、ひたすらな努力を続けたと言うべきであろう。
隋王朝は楊堅が皇帝として立ってから興隆し、民たちには待ちに待った安寧が与えられた。
もう人々は、悪皇帝の頃の悪夢に悩まされることはない。
治安も良くなり、国は急激に豊かになっていった。
もちろん、女のために『国財』がつぎ込まれることもない。
後宮にかける予算は倹約家であった皇帝邕のそれよりもはるかに下回る。
后妃が一人しかいないのだから、それもうなずける。
皇帝堅が後宮にこもるのは政務が全て終わった後であった。
上奏文はすべて目を通し、時には個人的休息を得る場所である後宮にまで持ち帰る。
その働きぶりが皇城内外でも大評判となっていた。
皇帝が一心に政務に励む。
中国においての皇帝の役目は『天帝の代理』であるから、当たり前と言えばそうである。
しかし、ここ数年その『当たり前』がなくて人民は苦労を重ねたのだ。
当たり前のことが戻ってきたことに臣民は歓喜した。
天候は伽羅の言ったとおり順調で、収穫もまずまずだ。
収穫物は、民間への流通が優先された。だが、備蓄もゆるやかに開始されている。
流通していた銭も統一した。北周、北斉時代の銭が混合して流通していたため種類が多く、更には民間の私鋳銭も使われていたため、はなはだ不便であったのだ。
楊堅が新たに作らせた『隋五銖銭』は重さが統一されており、銭の価値を素材価値が支える良質のものであった。
一方、いい加減な規格で、両面の模様も頼りなく、孔もしっかりとしていない古銭や私銭の流通を禁じたので人民は喜んだ。
隋王朝が開かれて以来、この地の様相はがらりと変わった。
豊かに、そして暮らしやすくなった。
それでも楊堅は、変わらずに質素を好んだ。
帝位を狙ったのは、富貴を目指してのことではない。
人民のためであるからだ。
まして、彼が愛する皇后は豪奢を喜ばない。
それでいて、楊堅が質素な染の衣を着ていると、
「徳がある方は衣服が質素でも、内から輝くような光がありますわね」
などと言って喜ばせるのだ。
元々楊堅は質素好みであったが、絶世の名を欲しいままにした妻からそう言われ続けると、益々その気になるのも無理はない。
また、周りを見ると着飾っている女はたくさんいたが、質素で化粧の薄い妻の方がとびぬけて美しかった。
妻の言葉のみに目じりを下げる日々を送るうち、楊堅はすっかり質素好みを極めて、もはや趣味の域である。
もし伽羅が贅沢好みの残虐な女であったなら、どうであったろう。
楊堅は、それでも美妃の微笑みにたぶらかされて『違う趣味』にはまったのかもしれない。
さて、質素好みなこの夫妻。共に大変な倹約家であったが、ケチではなかったらしい。
逸話としては、こんな話が残っている。
あるとき、幽州の総監管、陰寿が、
「突厥帝国に素晴らしい宝玉があるので、これを買い取って、皇后様へ献上したい」
と、申し出た。
宝玉の種類については記載が見られないが、突厥は『突厥玉』と呼ばれる玉の生産地である。
そのことから、おそらくこの『突厥玉』であったのだろう。
『突厥玉』とはさて、どういうものか。
これは绿宝石ピンインと呼ばれるものであるが、なじみのある言い方で言えば『エメラルド』である。
おそらく史書に出てくる『宝玉』は大型で質の良い『エメラルド』であったのだろう。
前にも少々出てきたが『幽州』は北方と隋を結ぶ陸路交通の要所である。(後の世では『北京』と呼ばれる)
楊堅は突厥帝国とも巧みに和睦を結んでおり、交易はそれなりにあった。
幽州総監管であれば、当然突厥の情報にも耳ざとい。
宝玉の情報などにも通じていたのであろう。
また、この陰寿という男は伽羅の父、独孤信の昔なじみでもあり、尉遅迥の討伐を楊堅より命ぜられたうちの一人でもあった。
その時の功績により出世したので恩を返すべく、このようなことを思いついたとのことであった。
当然それは建前である。
更なる出世への下心があったのだ。
当時、極上の宝玉はいくつもの城に相当するだけの価値があるとされ、大変高価なものであった。
大国の皇后を喜ばせるのにふさわしい品と言えるのだ。
しかし伽羅は、
「そのような宝玉を買い入れるだけの大金があるのなら、功績を立てた将兵たちに分け与えてねぎらうべきでございましょう」
と返し、陰寿は己の下心を恥じた。
また、皇后の言に従って、その通りに分配したので将兵たちは皆、大いに喜んだ。
楊堅もまた、歴史の表に現れている通りの質素ぶりである。
しかし皇后同様、功ある者への褒賞は惜しまなかった。
血濡れた赤い道を踏みしめて『帝位』に就いた楊堅であったが、占いの後半部分も当たっていたのである。
いや、そうではなく――――占いの通りになるように、ひたすらな努力を続けたと言うべきであろう。
隋王朝は楊堅が皇帝として立ってから興隆し、民たちには待ちに待った安寧が与えられた。
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