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第二章 動乱の世と新妻

第二章 動乱の世と新妻 四

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 宇文護は以降、宮廷の巨大勢力を引き継いだ。
 元々、中山公でしかなかった宇文護に反発する者は多かったが、彼は『宇文泰の遺言』を盾に次々と粛清を行った。
 一方、宇文泰の遺言を重んじて彼に従う者は厚遇したので、人々の心は徐々にこの善人顔の男の元に集まった。

 確たる地位を安定させた宇文護は、次第に野心を膨らませ、次に西魏王朝の――主君である『拓跋廓たくばつ かく』の始末をたくらんだ。
 その最初の一手として、皇帝に禅譲ぜんじょうを迫ったのである。
 この間、宇文泰が没してたった一年弱。
 廃された拓跋廓たくばつ かくは若く凡庸で、しかもあまり人望がなかったので出来たことだ。

 次の皇帝には、宇文護の独断で宇文泰の嫡子『宇文覚うぶん かく』を立てることとした。
 宇文護の叔父・宇文泰がその将来を託した、くだんの『若き嫡男』である。

 そもそも、中国において帝位は『血統にるもの』ではない。
 神話の頃より禅譲ぜんじょうは、しばしば行われてきた。
 帝位とは、天に住まう『天帝』が用意したものに過ぎず、傑出した人物であれば誰がその席に座っても良いのだ。 

 したがって皇帝が『天意』に背く愚人であるなら、天帝はその王朝を見限ってしまう。
 具体的に言うと、人界に密かに干渉し、革命を起こさせて気に入らぬ王朝を倒すのだ。

 そうなると革命の余波を受け、多くの人民の血が流れることとなる。その前に『徳や才のない皇帝』は引退して有能な太子に座を譲るか、適当な跡継ぎがいなければ『傑出したの者(血縁では無い者)』に帝位を譲る『禅譲ぜんじょう』が良しとされていた。

 中国神話時代に登場する聖天子『ぎょう』はその座を凡庸な息子には譲らず、異姓の有徳有能な『しゅん』という男に譲った。
『舜』もまた息子には譲らず、国難に大いに貢献した『』という男に禅譲した。

』は存在した可能性が高いと言われている中国最古の王朝『王朝』の創始者である。
 王朝末期には『末喜ばっき』という悪女が現れて国乱れ、『いん』を建てたとう王に倒された。
 妖女『末喜ばっき』は九尾狐の化身であったとして妲己だっきと共に語られることが多い。

 ちなみに近年まで『ぎょう』『しゅん』『』は伝説上の人物とされていたが、西暦1997年に、紀元前300年頃のの貴族の墓からある竹簡が発見された。
 それは堯舜について書かれた竹簡であった。
 続いて2015年には山西省の『陶寺遺跡』が『堯の都』であった可能性が高い、との発表があった。

 伝説通りの行いをした『堯舜禹ぎょう しゅん う』が存在したかどうかは不明だが、神話の中に一片の真実が潜む例は枚挙にいとまがない。
王朝』も、古代の大洪水の痕跡が発見されるまでは『伝説上の王朝』であると考えられていた。
 神話上の人物であっても、モデルとなった人物が居た可能性は否定できないのである。

 さて『禅譲ぜんじょう』に話を戻そう。

「どうか、朕に代わって有徳有能な貴殿が天下を治めて下され。
 いやいや、辞退などは認めぬぞ。これは命令である」

 現皇帝に何度も懇願される形で異姓の者に譲り渡されるのが『禅譲』であり、そうでなければ、世間的にはただの『簒奪者さんだつしゃ』である。
 宇文護は歴史上の先人たちに習い『禅譲』という『美しい形』を演出して、宇文泰の若き嫡子に『帝位』を簒奪させた。
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