307 / 437
アースラ編・花園の神(アースラ視点番外編)
アースラ編・花園の神(アースラ視点番外編) 7
しおりを挟む
目の前には無垢で優しい哀れな少女。
私にとっての名ばかりの妻。
その命はこれから終わる。
「アッシャ……実はヴァティールが外の世界で病気になってしまったのだよ。
このままでは死んでしまうかもしれない」
心配そうに囁く私をアッシャは見上げた。
「病気……。私、小さい頃に熱を出したことがあるわ。
ヴァーティが病気ならきっと苦しいはずよ。
看病しなきゃ!」
ヴァティールは人間ではないから病気などしない。
寄りしろとする身体が生きていようと死んでいようとかまわぬぐらいなのだから。
でもこの甘やかされただけの少女は、私の言葉を疑いもしない。
「さぁ、これがヴァティールだよ。お前の体で暖めておやり」
差し出した手のひらには、青く揺らめく小さな魂。
炎のようにゆらゆらと揺れている。
「ヴァーティ……どうしてこんな姿に……そう、病気のせいなのね。
私、暖めるわ。でも、どうしたらいいのかしら?」
大きな瞳に涙を溜めながら、アッシャは白い手のひらを伸ばし魂を受け取った。
「その魂を飲み込めば、ヴァティールはお前の体の中で守られる。
ほら、お前の体はこんなに温かいだろう?
だから私の言う通りにして、ヴァティールを暖めてやるといい。
きっと元気な姿に戻るから」
頬に手を当て優しくそう言うと、アッシャは涙を拭いてにっこりと笑った。
これは私からの最後の慈悲だ。
ヴァティールはまた元通りの姿になると、そう信じたまま逝けばいい。
あいつの暴走に巻き込まれて魂を砕かれた私の妹より、ずっと優しい死を迎えることが出来るだろう。
妹の体は完全に壊れた。魂だけでなく、今はその美しい体も。
そう…………ヴァティールが壊した。
いくら肉体を強化していようと、中に居るあいつがああまで暴れ続けたら壊れるのは当たり前だ。
あれが壊れたら―――次は誰が贄となるか、彼は理解していなかったらしい。
もう容れるべき体はこの娘のものしか無いというのに。
ヴァティールは今、完全なる眠りについている。しかし、それは術による強制的な眠り。
暗い闇と恨みを持つその魂を何の魔的修行もしていないアッシャが受け入れれば『自身の魂』は砕け散るだろう。
自分が可愛がった娘を奴自身が殺す。
なんと愉快なことだろう。
そう、思っていたのに…………アッシャはアッシャのままだった。
不思議に思い調べてみると、彼女はヴァティールの血を何度も与えらて育ってきたらしい。
完璧なる捕縛術に捕らわれながら、何故かアッシャと共に逃げようとしていたヴァティール。
なるほど。
一切の魔法が使えなくとも……与えた血でアッシャの体を変化させ、その体を寄りしろとし少女の魔力をつかって封印を破るつもりだったのか。
私以上の潜在魔力を持つアッシャなら、やりようによっては可能であったかもしれない。
私にとっての名ばかりの妻。
その命はこれから終わる。
「アッシャ……実はヴァティールが外の世界で病気になってしまったのだよ。
このままでは死んでしまうかもしれない」
心配そうに囁く私をアッシャは見上げた。
「病気……。私、小さい頃に熱を出したことがあるわ。
ヴァーティが病気ならきっと苦しいはずよ。
看病しなきゃ!」
ヴァティールは人間ではないから病気などしない。
寄りしろとする身体が生きていようと死んでいようとかまわぬぐらいなのだから。
でもこの甘やかされただけの少女は、私の言葉を疑いもしない。
「さぁ、これがヴァティールだよ。お前の体で暖めておやり」
差し出した手のひらには、青く揺らめく小さな魂。
炎のようにゆらゆらと揺れている。
「ヴァーティ……どうしてこんな姿に……そう、病気のせいなのね。
私、暖めるわ。でも、どうしたらいいのかしら?」
大きな瞳に涙を溜めながら、アッシャは白い手のひらを伸ばし魂を受け取った。
「その魂を飲み込めば、ヴァティールはお前の体の中で守られる。
ほら、お前の体はこんなに温かいだろう?
だから私の言う通りにして、ヴァティールを暖めてやるといい。
きっと元気な姿に戻るから」
頬に手を当て優しくそう言うと、アッシャは涙を拭いてにっこりと笑った。
これは私からの最後の慈悲だ。
ヴァティールはまた元通りの姿になると、そう信じたまま逝けばいい。
あいつの暴走に巻き込まれて魂を砕かれた私の妹より、ずっと優しい死を迎えることが出来るだろう。
妹の体は完全に壊れた。魂だけでなく、今はその美しい体も。
そう…………ヴァティールが壊した。
いくら肉体を強化していようと、中に居るあいつがああまで暴れ続けたら壊れるのは当たり前だ。
あれが壊れたら―――次は誰が贄となるか、彼は理解していなかったらしい。
もう容れるべき体はこの娘のものしか無いというのに。
ヴァティールは今、完全なる眠りについている。しかし、それは術による強制的な眠り。
暗い闇と恨みを持つその魂を何の魔的修行もしていないアッシャが受け入れれば『自身の魂』は砕け散るだろう。
自分が可愛がった娘を奴自身が殺す。
なんと愉快なことだろう。
そう、思っていたのに…………アッシャはアッシャのままだった。
不思議に思い調べてみると、彼女はヴァティールの血を何度も与えらて育ってきたらしい。
完璧なる捕縛術に捕らわれながら、何故かアッシャと共に逃げようとしていたヴァティール。
なるほど。
一切の魔法が使えなくとも……与えた血でアッシャの体を変化させ、その体を寄りしろとし少女の魔力をつかって封印を破るつもりだったのか。
私以上の潜在魔力を持つアッシャなら、やりようによっては可能であったかもしれない。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる