滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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アースラ編・花園の神(アースラ視点番外編)

アースラ編・花園の神(アースラ視点番外編) 7

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 目の前には無垢で優しい哀れな少女。
 私にとっての名ばかりの妻。

 その命はこれから終わる。

「アッシャ……実はヴァティールが外の世界で病気になってしまったのだよ。
 このままでは死んでしまうかもしれない」

 心配そうに囁く私をアッシャは見上げた。

「病気……。私、小さい頃に熱を出したことがあるわ。
 ヴァーティが病気ならきっと苦しいはずよ。
 看病しなきゃ!」

 ヴァティールは人間ではないから病気などしない。
 寄りしろとする身体が生きていようと死んでいようとかまわぬぐらいなのだから。

 でもこの甘やかされただけの少女は、私の言葉を疑いもしない。

「さぁ、これがヴァティールだよ。お前の体で暖めておやり」

 差し出した手のひらには、青く揺らめく小さな魂。
 炎のようにゆらゆらと揺れている。

「ヴァーティ……どうしてこんな姿に……そう、病気のせいなのね。
 私、暖めるわ。でも、どうしたらいいのかしら?」

 大きな瞳に涙を溜めながら、アッシャは白い手のひらを伸ばし魂を受け取った。

「その魂を飲み込めば、ヴァティールはお前の体の中で守られる。
 ほら、お前の体はこんなに温かいだろう?
 だから私の言う通りにして、ヴァティールを暖めてやるといい。
 きっと元気な姿に戻るから」

 頬に手を当て優しくそう言うと、アッシャは涙を拭いてにっこりと笑った。
 これは私からの最後の慈悲だ。

 ヴァティールはまた元通りの姿になると、そう信じたまま逝けばいい。
 あいつの暴走に巻き込まれて魂を砕かれた私の妹より、ずっと優しい死を迎えることが出来るだろう。

 妹の体は完全に壊れた。魂だけでなく、今はその美しい体も。
 そう…………ヴァティールが壊した。

 いくら肉体を強化していようと、中に居るあいつがああまで暴れ続けたら壊れるのは当たり前だ。

 あれが壊れたら―――次は誰が贄となるか、彼は理解していなかったらしい。
 もう容れるべき体はこの娘のものしか無いというのに。

 ヴァティールは今、完全なる眠りについている。しかし、それは術による強制的な眠り。
 暗い闇と恨みを持つその魂を何の魔的修行もしていないアッシャが受け入れれば『自身の魂』は砕け散るだろう。

 自分が可愛がった娘を奴自身が殺す。
 なんと愉快なことだろう。

 そう、思っていたのに…………アッシャはアッシャのままだった。

 不思議に思い調べてみると、彼女はヴァティールの血を何度も与えらて育ってきたらしい。

 完璧なる捕縛術に捕らわれながら、何故かアッシャと共に逃げようとしていたヴァティール。
 なるほど。
 一切の魔法が使えなくとも……与えた血でアッシャの体を変化させ、その体を寄りしろとし少女の魔力をつかって封印を破るつもりだったのか。

 私以上の潜在魔力を持つアッシャなら、やりようによっては可能であったかもしれない。
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