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アースラ編・花園の神(アースラ視点番外編)

アースラ編・花園の神(アースラ視点番外編) 4

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 禁忌。

 何年たとうと私はこの言葉が嫌いだ。
 一族の目がなんなのだ。助ける力があいつにはあったのに使わなかった。

 あれから6年が経つ。

 妖魔に送られ遠い国に逃げ延びた私とシヴァは、それぞれ別の道を歩んだ。
 シヴァは国を再興するため縁戚の王の元に身を寄せ剣の腕を磨き、私と妹は魔道を学ぶためリルドルーンに行った。

 リルドルーンは魔人のごとく強いアレス王が育った魔法都市だ。
 奴はすでに破門されていたが、私は奴と同じ師に仕えて死に物狂いで修行した。

 もう死んだものと思っていた妹はヴァティールが助けたようで「餞別に」と言って、あれから間もなく私に寄越した。

 その時のヴァティールの衣服や顔は綺麗なままで、彼にとって人間の戦に割り込んでひょいと少女一人をつまみあげて帰るぐらいは蟻の荷を横取りするような気安さなのだと思い知った。

 シヴァは初恋でもある私の妹と思いがけなく再会できてヴァティールに泣いて感謝していたが、私の思いは違う。

 あれだけの魔力があるのに。

 その気になりさえすれば、国ごと助けることだって出来たのに。

 彼は、やらなかった。

 戦が終わった後、晒された兵士の首は数千。
 川に投げ込まれた罪無き祖国の民たちの死体を食べて、国中の魚は超え太ったと噂に聞いた。

 回収できなかった私の父母の遺骨もどのように朽ちていったのか……今はもう知るすべは無い。

 あいつが力を貸してくれたなら、起こらずにすんだ悲劇が数え切れないほどあった。
 神のごとき力を持ちながら、森で遊んで過ごすことにしか使わないあいつ。

 憎い……憎い。

 あいつが憎い。
 皆を見殺しにしたあいつが憎い。

 もし私があいつだったなら…………。
 そうだ、簡単な事だ。

 私があいつに成り替われば良いのだ。

 禁忌などクソ食らえ。
 私なら民を幸せにしてやれる。

 全ての禁忌を犯してでも、私は神の力を手に入れる。

 いつの日かあの憎い妖魔のすべてを奪ってやるのだ。
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