299 / 437
外伝 ヴァティールの独り言
外伝 ヴァティールの独り言11
しおりを挟む
屈辱に満ちた永い眠りから目覚めたのは、ずっと後。
目の前にシヴァ王の面影を宿した少年がいた。
年は娘よりすこし幼い。
泣きはらした瞳は、赤く腫れていた。
それでもワタシの『今の容器』をかたく抱きしめて離さない。
泣き続ける少年の魔力はあれらによく似ていたので、すぐにシヴァ王かアースラの近しき者だろうと見当がついた。
憑依した方の少年の記憶を探ってみるとやはりそうで、もう300年もの月日がたっていた。
当然、人間であるワタシの娘も……もう、とっくに死んでしまったのだろう。
結局ワタシは娘のために何一つ出来ぬまま、あの子を死なせてしまったのだ。
……目の前にいるこの金の髪の少年。
ワタシの涙と魔力を絞って繁栄してきた、あの憎いエルシオン王家ゆかりの少年。
どうしてくれようか。
「……おい、ヴァティール。本当にちゃんと聞いているのかっ!?」
ハッと現実に戻ると、エルがイライラしながらこぶしで机を叩いていた。
そうだった。
今はブルボア王宮。
エルに説教されてる最中だった。
ちなみに思い出に浸っていたので、話は全く聞いてなかった。
コイツの説教はとても長いうえ、いつも同じ内容なので聞き流す癖がついてしまっているのだ。
「なぁ、ヴァティール。俺は何も難しい事を言っている訳ではない。
多少言葉が荒いのは我慢しよう。マナーがなってないのも我慢する。だから貴賓室から出ないでくれないか?」
「嫌だ」
即答するワタシに、エルの表情が歪む。
……おっ、泣くか?
いや、こらえたか。
「その体は弟のものなのだ。
貴賓室に篭っていられないと言うのなら、弟のようにきちんとしろっ!!」
「はいはい、わかったよ」
返事を適当にすると、エルはまたハァ、とため息をついた。
「ハイは一回っ!!」
ああ、ワタシの小姑は本当にうるさいなぁ…………。
しかしまぁ、ワタシだって大切なものを失う痛みは知っている。
ワタシはあの糞ガキ魔道士が大嫌いだが、エルにとって『大切な弟』であったろう事は理解している。
全部を譲ることはできないが、一部ぐらいはこの体の代償として聞いてやってもいい。
失う痛み……アッシャを失った苦しみは、この世全てを滅ぼしてしまいたいと願うほど深かった。
なのに、この世を呪いながら目覚めてみれば……目の前で泣く子供一人を殺すことさえ出来なくて、途方にくれたのを今でもはっきりと覚えている。
それからワタシはリオンにしてやられ、エルと行動を共にすることになる。
時々イラッときて軽く苛めてみたりはしたものの、エルが泣くとワタシの受けるダメージの方がでかくて、それ以上は無理だった。
目の前にシヴァ王の面影を宿した少年がいた。
年は娘よりすこし幼い。
泣きはらした瞳は、赤く腫れていた。
それでもワタシの『今の容器』をかたく抱きしめて離さない。
泣き続ける少年の魔力はあれらによく似ていたので、すぐにシヴァ王かアースラの近しき者だろうと見当がついた。
憑依した方の少年の記憶を探ってみるとやはりそうで、もう300年もの月日がたっていた。
当然、人間であるワタシの娘も……もう、とっくに死んでしまったのだろう。
結局ワタシは娘のために何一つ出来ぬまま、あの子を死なせてしまったのだ。
……目の前にいるこの金の髪の少年。
ワタシの涙と魔力を絞って繁栄してきた、あの憎いエルシオン王家ゆかりの少年。
どうしてくれようか。
「……おい、ヴァティール。本当にちゃんと聞いているのかっ!?」
ハッと現実に戻ると、エルがイライラしながらこぶしで机を叩いていた。
そうだった。
今はブルボア王宮。
エルに説教されてる最中だった。
ちなみに思い出に浸っていたので、話は全く聞いてなかった。
コイツの説教はとても長いうえ、いつも同じ内容なので聞き流す癖がついてしまっているのだ。
「なぁ、ヴァティール。俺は何も難しい事を言っている訳ではない。
多少言葉が荒いのは我慢しよう。マナーがなってないのも我慢する。だから貴賓室から出ないでくれないか?」
「嫌だ」
即答するワタシに、エルの表情が歪む。
……おっ、泣くか?
いや、こらえたか。
「その体は弟のものなのだ。
貴賓室に篭っていられないと言うのなら、弟のようにきちんとしろっ!!」
「はいはい、わかったよ」
返事を適当にすると、エルはまたハァ、とため息をついた。
「ハイは一回っ!!」
ああ、ワタシの小姑は本当にうるさいなぁ…………。
しかしまぁ、ワタシだって大切なものを失う痛みは知っている。
ワタシはあの糞ガキ魔道士が大嫌いだが、エルにとって『大切な弟』であったろう事は理解している。
全部を譲ることはできないが、一部ぐらいはこの体の代償として聞いてやってもいい。
失う痛み……アッシャを失った苦しみは、この世全てを滅ぼしてしまいたいと願うほど深かった。
なのに、この世を呪いながら目覚めてみれば……目の前で泣く子供一人を殺すことさえ出来なくて、途方にくれたのを今でもはっきりと覚えている。
それからワタシはリオンにしてやられ、エルと行動を共にすることになる。
時々イラッときて軽く苛めてみたりはしたものの、エルが泣くとワタシの受けるダメージの方がでかくて、それ以上は無理だった。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。


思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる