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外伝 ヴァティールの独り言

外伝 ヴァティールの独り言6

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 何度も言うが、アースラは本当にえげつない奴だった。
 魔族のワタシですら、ドン引きするような奴だった。

 幼い頃、森で死に掛けていたところをシヴァ共々助けてやったこともあったというのに、孤児を使って私を捉えた挙句『伏せ籠に捕まった鳥みたいだ』と抜かしやがった事は一生忘れない。

 そんなあいつは表では聖人の顔を通し、悪行はすべて隠蔽したため国民には熱狂的に慕われていたっけ。
 でも、リオンはずいぶん不器用な性格だったようで、アースラとは全然違う。

 もしこれがアースラであったなら、あのやり手の王すら手玉にとって、この国どころか近隣国まで支配していたことだろう。
 もちろん、国民たちには熱狂的に慕われながら。

 アースラは顔だけは良かったので、立っているだけで様になった。
 どちらかというと、リオンのような中性的な優しげな容姿で、その腹の中が真っ黒だなんて、普通の人間は思いもしない。

 暮らしぶりも質素で、私財は魔道具だけ、着るのは質素な神官服だけ。
 女をはべらせることも遊びにふけることも一切ない、つつましい暮らしぶりだったから、そういうのも馬鹿な国民どもにはウケたのだろう。

 しかし奴の本性は悪。
 二重人格のアースラにこき使われる奴隷生活は、これ以上ないぐらいに悲惨だった。

 それこそ、同属に白い目で見られる『ひゃっはー』を強いられるは、空を飛べなくて窓から落ちるはで散々だ。

 失敗をすればそれがどんなに些細でも、イヤミ×1000。

 本体は取り上げられて行方知れず。

 人間に私の本体を壊せるとは思わないが、多分魔道の研究には使われたことだろう。

 おかげで結構好きだった人間が大嫌いになった。
 ワタシを縛る王家の存在も憎い。

 ただ、シヴァ王は好きだった。
 唯一ワタシに優しかったのが彼だったからだ。

 森で助けてやったことも覚えていたし、アースラの所業も詫びてくれた。
 裏表の無い、優しい奴だったのだ。

 シヴァ王自体はアースラほどの力は無い。
 剣技はたいしたものだったが、それでも人間の範疇。

 目先の国民を導いていかねばならぬ身だったので、アースラと決別してまでワタシを救うことは出来なかったが、考えうる限りすべての配慮はしてくれたと思う。

 それに、養女が可愛かったので何とか耐えられた。


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