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外伝 ヴァティールの独り言
外伝 ヴァティールの独り言2★
しおりを挟む「ちょっとここに座れ」
エルの指す長椅子に、素直に座る。
何故ならここで余計な事を言うと、やはり泣くからだ。
それも……泣き伏すという言葉がピッタリの状況に陥る。
子供に泣かれるのは、昔から苦手だ。
ある時は神、ある時は魔物と呼ばれながら森に住んでいた頃も、泣いてる子供には弱かった。
動物にせよ、人間にせよ、森で迷って泣いていたら、ついついおせっかいを焼いてしまっていたものだ。
泣いている子供を見て心が痛むのは、うんと昔……ワタシがまだ子供だった頃の出来事が心に引っかかっているからかもしれない。
あれは確か千年ぐらい前。
人間の村に初めて遊びに出かけたワタシは、母親に抱かれた人間の子供を見つけた。
年は二つか、三つぐらい。
とにかくとても可愛らしい子供だった。
あまりに可愛いので、手に入れたくてたまらなくなったワタシはその子供をさらって森に連れ帰った。
ペットにしようと思ったのだ。
しかしワタシには、人間の子供の世話なんて出来なかった。
子供は母を恋しがって泣き続けるし、餌を与えてもちっとも食べないし、困り果てて放置したら、翌日には冷たくなっていた。
人間の子供はわずかな寒さや飢えでさえ耐えることが出来ないのだと、そのとき初めて知った。
そんなつもりではなかったのに子を殺してしまったワタシは、大泣きしながら子供を土に埋め、たくさんの花を飾った。
魔法をかけておいたその場所は、今でもたくさんの花が咲いていることだろう。
以来ワタシは森で迷う子供を見つけたら、すぐに親を探し出して返すようにしていた。
あの死んでしまった子は戻らないが、生きてる子供なら……親元に返しさえすれば短い人間の寿命ながらも、それなりに幸せに生きていけるだろう。
もちろん親を探し出せない場合や、酷い親だったりしたこともある。
その時は善良そうな人間を探して、それなりの礼をして引き取ってもらうこともした。
約束を反故にして子を粗末に扱ったら『呪い』が降りかかるようにしておいたから、大抵は無事に育ったことだろう。
その頃には人間に対する知識もそこそこあったので、ワタシが育てようと思えば、多分出来た。
でも同属の元で育つのが一番だろうし、また死なせてしまうのではないかという怖れにも似た思いを持っていた。
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*イラスト背景は無料公開中の背景素材集を利用させていただきました。
ありがとうございます。
元素材集はこちら→http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=31515067
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