滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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リオン編   その日

リオン編   その日4

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 『母の愛』も『兄の愛』も、全て僕から奪って幸せそうにしていたこの女が憎い。

 この女を祝福し、僕を忘れ去った皆も。

「……皆、皆殺してやる!!
 恩知らずなアルフレッド王もウルフも、そこの冠をかぶった知らない女も!!!
 兄様以外、皆死ねばいいんだっ!!!!!」

 僕は魔剣を振り上げた。

 ……いったい何なんだ、この結末は。
 知らず知らずのうちにこぼれたのは、涙ではなく、乾いた笑い声。

 国のために命がけで戦った僕は、兄の中にも、皆の中にも、欠片すら存在していなかった。

 僕の誕生日なのに、皆は僕を忘れて微笑んでいた。

 僕なんか『最初から居なかった』かのように、楽しげに過ごし、世界で一番憎いアリシアを幸せそうに祝福していた。

 もう自分を止めることは出来なかった。

 僕が本当に望んでいるのは、多分こういうことじゃない。
 城で過ごしたころの幸せだった思い出が、浮かんでは消える。

 でもその思いとはうらはらに、僕は血まみれの魔剣を掲げて哂い続けた。

「リオン……止めてくれリオンっ……!!」

 悲鳴のような、兄の声。
 でも、それさえも疎ましい。

「うるさい!! 兄様も僕を裏切った!!!
 だれも僕を必要としてくれなかった!!
 覚えて……いてさえ…………」

 そう、たった一人の兄でさえ、僕を覚えていてはくれなかった。

 アレス帝国を退け平和を手にした兄は、誕生日のその日に、僕を偲ぶことすらも無かった。

 他人との愛を幸せそうに誓って……僕の体を奪った魔獣とも、きっと仲良く笑っていたに違いない。

 ……全てが憎い。

 この世界そのものが憎い。

 見つめる僕に、兄様が叫んだ。

「そんなことは無い!!
 俺はちゃんとお前の事を覚えていた!!
 誰よりも大切だと、ずっとずっと思っていた!!!」

 それは、僕が、心から欲しかった言葉。

「……本当……ですか?」

 僕は哂うのをやめて、兄様を見た。

 まだ希望は残されているのだろうか?
 我ながら単純だとは思うけど、なんだか嬉しくなってきた。

 でも喜びに身を任せる前に、確かめなければならないことがある。
 そうしないと、結局また同じ目に合うだろう。

「では、ここに居る人たち全員を兄様が殺して下さい。そうしたら信じます」

 言って僕は、魔剣を差し出した。

 兄様はしばし考え……それを黙って受け取った。

 ああ。兄様を信じてよかった。
 やっぱり兄様が一番大切なのは、この僕なのだ。

 この世で最も深い幸せに微笑んだとき、兄様はおっしゃった。

「なあリオン……こんなのは間違っている。止めよう……。
 すぐにアリシアの血止めをしてくれ。まだ息がある」

 兄様は『皆を殺すための剣』を受け取ったにもかかわらず、そうおっしゃった。


 そうか。

 兄様は、

 最初から、

 皆を殺す気など――――無かったのだ。


 剣を受け取ったのは、僕から武器を取り上げるため。
 ただそれだけのため。

 でも兄様。
 僕が命がけで守ってこなかったら、この国はもうとっくに無かったんだよ?

 アルフレッド王も、アリシアも、ウルフも……きっと死んでいた。
 なら今度は、皆が僕のために死んでくれたっていいはずなのに、それは駄目なんだよね?

 僕は、皆のために命を落としたのに。




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