滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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リオン編   その日

リオン編   その日2

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 どうして?

 何をしているの兄様?

 僕がいないというのに、何故そんなに幸せそうなの?

 どうして僕にじゃなくて、アリシアに微笑みかけているの?


 アリシアの手には、小さなぬいぐるみが握られていた。
 僕が小さい頃兄様からいただいた、大事な大事なぬいぐるみ。

 嫌だ。それに触らないで。

 兄様、僕がいない間にアリシアにあげてしまったの?
 酷い、酷いよ……。
 僕がどんなにそれを大切にしていたか、兄様もアリシアも知っていたよね。

「汝病めるときも健やかなる時も……」

 アルフレッド王の低く厳かな声が、朗々と湖畔に響く。まるで呪いのように。

 兄様とアリシアは、愛を誓い合った。
 固く、深く、その愛は『死が二人を分かつまで』有効なのだという。

 皆が口々に祝辞を述べる。憎かった。

 僕を忘れて幸せそうな皆が。
 僕に気づかず、兄様とアリシアの愛を穏やかに祝福する皆が。

 ……そうか。きっと今日は僕の20歳の誕生日。

 その日、僕の封印は自動的に解け、継承が完全になされる。
 全ての力が解放される。
 だから、僕は魔獣の力を凌駕して『今』目覚めたのだ。

 ふと見ると、僕の手には白いバラの花束が握られていた。

 魔獣は他の皆がしたように、これをアリシアにあげるつもりだったようだ。

 なんだ。魔獣はけっこう皆と上手くやっていたんだ。
 僕がいない間に、僕の体を使って楽しく暮らして、皆と友達になっていたんだね。

 ……そう。

 それなら僕が『魔獣の代わりに』花束をアリシアに渡してあげるよ。
 せっかく用意したのだものね。

 ただし僕が渡すのは、白薔薇ではなく、赤い薔薇だ。


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