滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
274 / 437
リオン編   願いの日

リオン編   願いの日4

しおりを挟む
 その後は王に賜った地下神殿で、一日のほとんどを過ごした。

 どうせ部屋に戻っても、兄は居ない。
 それなら幸せだった昔を思い出しながら、ここで修行したほうが良い。

 心を澄まし、クロスⅦの言葉を思い出す。

 2年もの間サボってしまったが、今からだって遅くはない。いずれは師のように立派な神官になれるよう、努力するのみだ。

 この場所は元々、王族の廟となる場所の一つだったらしい。
 まだ死ぬ予定は無いからと、王はポンと無料で10年間の使用権利を下さった。
 その後の使用権はまた、要相談らしい。

 この部屋は、とても広く快適だ。
 元々物はほとんど無かったから、王が買ってくださった、祭祀に必要な道具が少々置いてあるのみ。

 兄さんは、

「え!? 廟予定地? そんな陰気な場所で?」

 と驚いていたけれど、それで十分。

 なんたって、タダなのだし。
 それに、兄さんに暇が出来たときに通いやすい立地。これだけは外せない。

 大理石で出来た白い壁や高い天井は、僕が幼い頃を過ごした思い出深いあの場所にとてもよく似ていた。
 だから正直、不快どころか、とても懐かしい気がして嬉しくなる。

 そうやって気分良く過ごすうちに、兄さんはある日突然、親衛隊長を辞めてきた。

 あの王がよく兄を手放したとは思うけど、やっぱり嬉しい。
 だって兄さんと、一日中一緒に過ごすことが出来るようになったのだから。

 元々僕は、多くの事を望んでいたわけじゃない。

 公務の間に、昔みたいに嬉しそうに僕に会いに来て下さったらいいな……そう思っていただけだったのに、兄さんはずっと僕と一緒に居て下さる。

 こんな幸せなことがあるだろうか?

 やっぱり、辛くても仕事を頑張ってきてよかったのだ。
 だから、今の幸せがあるのだ。

『リオンが一番大切だよ。一番大好きだよ』

 死神と称されるようになってからも、そう言い続けて下さった優しい兄さん。
 その言葉は真実だった。
 仕事よりも、他の人との付き合いよりも、僕と過ごすことだけを最優先して下さる。

 だからもう、誰に忘れられようと、嫌われようといいのだ。

 僕に冷たかったこの国の人々の仕打ちだって、恨んではいない。
 兄と幸せに過ごせさえすれば、他はどうだって良いのだから。


 僕は毎日修行を続けた。 
 兄さんは多分、『祈りの歌』を捧げているだけだと思っていらっしゃる。
 その誤解は解かない。

 兄さんは今でも、僕が魔術を使うことを快くは思っていないから。

 高レベルの『善の結界』を全国土に張り続ける程の力は、今の僕には無い。
 けれど、薄く広く、ゆうるりと結界を延ばしていくことなら出来る。

 このぐらいの力だと、結界の効力は薄くて、善人化はほぼ望めない。
 それでもまずは、結界の範囲を広げる訓練をすることが大切だ。

 僕にかかっている封印は年毎に解け、力は20歳になればすべて解放される。
 それまでにコントロール力を上げておかないと、上手く範囲が操れない。

 でも、今から頑張れば、国境に沿うような形でそれなりの結界を張れるようになるだろう。

 この国の人々は今よりうんと優しくなり、エルシオンの人々のように心の平安を得るはずだ。そうして平和な世は、ずっとずっと続くのだ。

 この国が、少しでも昔のエルシオンに近づけば嬉しいな。

 そうしたらきっと、アースラ様や……今は亡きクロスⅦも喜んでくださると思うから。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

処理中です...