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リオン編 願いの日
リオン編 願いの日1
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隊に復帰してから二月足らず。
毎日頑張った甲斐があり、僕は念願の日を迎えた。
対立組織は二つとも完全に消滅し、元々の領地すべてを掌握した王は、今、正式な戴冠式を行っている最中だ。
アルフレッド王は、兄を除けば僕が出会った人間の中で一番優秀だし、新ブルボア王朝は正式な国家として、これからも更に発展していくことだろう。
あと8年この王朝が続けば、僕はすべての力を得て完全体になる。
その後は『善の結界』なども使ってこの国を守ることが出来るから、この王朝は長く続く。
兄と幸せに暮らしていくことができるだろう。
戴冠式の間、僕は大嫌いな黒い隊服を着たまま、兄の帰りを一人部屋で待っていた。
兄は親衛隊長となったので、今は王の側近くで警護に勤めている。
きらびやかな式服を着た兄は益々美しく、きっと皆の注目を浴びていることだろう。
僕も兄さんの晴れ姿を見たかったなぁ……。
でも、仕方がない。
僕は表には出られない身なので、自室待機を命じられた。
王や兄は、なんとか僕も参列できるよう取り計らいたかったようだけど、他の家臣たちが揃って大反対したので叶わなかった。
僕だってわかってるよ。
裏の仕事を請け負っていた僕が、公の場に出られないぐらい。
あのクロスⅦだって、国の公式行事に出たことは一度だって無い。
大丈夫。
王や兄さんが苦しい立場になるのはそもそも僕の本意じゃない。そんなことで我侭を言うほど『わきまえのない子供』ではないから、ちゃんとお利口に部屋で待てるよ。
兄が好む服で兄の帰りを待つことも出来たけど、大嫌いな黒い隊服を着たままでいるのは、僕なりの儀式。
この服で待たなくてはならないのだ。
兄の帰りを待ちながら、前に兄が読んでいた本を本棚から探し出して手に取る。
あまり面白いとは思えない内容だったけど、兄が好んで読んでいたのだから、きっと僕も大人になれば面白いと感じるようになるに違いない。
しばらく本を読んでいると、聞きなれた足音が長い廊下を通過しながら近づいて来た。
ドアのノックと共に聞こえるのは、僕を呼ぶ最愛の兄の声。
鍵を開ける間ももどかしく感じながら、ノブを回す。
「お帰りなさい、兄さん……」
「ただいま、リオン」
いつものように抱きしめてくれる兄の口から、いつもの言葉が向けられるのを心待ちにしながら身を預ける。
「リオン……暗殺隊を降りてくれるな」
僕は兄の言葉にうなずいた。
その瞬間、兄がたまらなく嬉しそうな笑みを見せる。
この笑顔が見たかった。
輝くような、優しい笑顔。
もうずっと見ていなかった、兄の、その顔。
僕の胸が温かいもので満ちていく。
ああ、終わった。
兄さんに悲しい顔をさせてまで貫いた『僕の戦い』は終わったのだ。
自然と涙があふれて、そういえば涙は嬉しいときにも流れるのだったと思い出した。
毎日頑張った甲斐があり、僕は念願の日を迎えた。
対立組織は二つとも完全に消滅し、元々の領地すべてを掌握した王は、今、正式な戴冠式を行っている最中だ。
アルフレッド王は、兄を除けば僕が出会った人間の中で一番優秀だし、新ブルボア王朝は正式な国家として、これからも更に発展していくことだろう。
あと8年この王朝が続けば、僕はすべての力を得て完全体になる。
その後は『善の結界』なども使ってこの国を守ることが出来るから、この王朝は長く続く。
兄と幸せに暮らしていくことができるだろう。
戴冠式の間、僕は大嫌いな黒い隊服を着たまま、兄の帰りを一人部屋で待っていた。
兄は親衛隊長となったので、今は王の側近くで警護に勤めている。
きらびやかな式服を着た兄は益々美しく、きっと皆の注目を浴びていることだろう。
僕も兄さんの晴れ姿を見たかったなぁ……。
でも、仕方がない。
僕は表には出られない身なので、自室待機を命じられた。
王や兄は、なんとか僕も参列できるよう取り計らいたかったようだけど、他の家臣たちが揃って大反対したので叶わなかった。
僕だってわかってるよ。
裏の仕事を請け負っていた僕が、公の場に出られないぐらい。
あのクロスⅦだって、国の公式行事に出たことは一度だって無い。
大丈夫。
王や兄さんが苦しい立場になるのはそもそも僕の本意じゃない。そんなことで我侭を言うほど『わきまえのない子供』ではないから、ちゃんとお利口に部屋で待てるよ。
兄が好む服で兄の帰りを待つことも出来たけど、大嫌いな黒い隊服を着たままでいるのは、僕なりの儀式。
この服で待たなくてはならないのだ。
兄の帰りを待ちながら、前に兄が読んでいた本を本棚から探し出して手に取る。
あまり面白いとは思えない内容だったけど、兄が好んで読んでいたのだから、きっと僕も大人になれば面白いと感じるようになるに違いない。
しばらく本を読んでいると、聞きなれた足音が長い廊下を通過しながら近づいて来た。
ドアのノックと共に聞こえるのは、僕を呼ぶ最愛の兄の声。
鍵を開ける間ももどかしく感じながら、ノブを回す。
「お帰りなさい、兄さん……」
「ただいま、リオン」
いつものように抱きしめてくれる兄の口から、いつもの言葉が向けられるのを心待ちにしながら身を預ける。
「リオン……暗殺隊を降りてくれるな」
僕は兄の言葉にうなずいた。
その瞬間、兄がたまらなく嬉しそうな笑みを見せる。
この笑顔が見たかった。
輝くような、優しい笑顔。
もうずっと見ていなかった、兄の、その顔。
僕の胸が温かいもので満ちていく。
ああ、終わった。
兄さんに悲しい顔をさせてまで貫いた『僕の戦い』は終わったのだ。
自然と涙があふれて、そういえば涙は嬉しいときにも流れるのだったと思い出した。
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