滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
271 / 437
リオン編   願いの日

リオン編   願いの日1

しおりを挟む
 隊に復帰してから二月足らず。
 毎日頑張った甲斐があり、僕は念願の日を迎えた。

 対立組織は二つとも完全に消滅し、元々の領地すべてを掌握した王は、今、正式な戴冠式を行っている最中だ。

 アルフレッド王は、兄を除けば僕が出会った人間の中で一番優秀だし、新ブルボア王朝は正式な国家として、これからも更に発展していくことだろう。

 あと8年この王朝が続けば、僕はすべての力を得て完全体になる。
 その後は『善の結界』なども使ってこの国を守ることが出来るから、この王朝は長く続く。
 兄と幸せに暮らしていくことができるだろう。

 戴冠式の間、僕は大嫌いな黒い隊服を着たまま、兄の帰りを一人部屋で待っていた。

 兄は親衛隊長となったので、今は王の側近くで警護に勤めている。
 きらびやかな式服を着た兄は益々美しく、きっと皆の注目を浴びていることだろう。

 僕も兄さんの晴れ姿を見たかったなぁ……。
 でも、仕方がない。

 僕は表には出られない身なので、自室待機を命じられた。

 王や兄は、なんとか僕も参列できるよう取り計らいたかったようだけど、他の家臣たちが揃って大反対したので叶わなかった。

 僕だってわかってるよ。
 裏の仕事を請け負っていた僕が、公の場に出られないぐらい。
 あのクロスⅦだって、国の公式行事に出たことは一度だって無い。

 大丈夫。

 王や兄さんが苦しい立場になるのはそもそも僕の本意じゃない。そんなことで我侭を言うほど『わきまえのない子供』ではないから、ちゃんとお利口に部屋で待てるよ。

 兄が好む服で兄の帰りを待つことも出来たけど、大嫌いな黒い隊服を着たままでいるのは、僕なりの儀式。
 この服で待たなくてはならないのだ。

 兄の帰りを待ちながら、前に兄が読んでいた本を本棚から探し出して手に取る。
 あまり面白いとは思えない内容だったけど、兄が好んで読んでいたのだから、きっと僕も大人になれば面白いと感じるようになるに違いない。

 しばらく本を読んでいると、聞きなれた足音が長い廊下を通過しながら近づいて来た。
 ドアのノックと共に聞こえるのは、僕を呼ぶ最愛の兄の声。

 鍵を開ける間ももどかしく感じながら、ノブを回す。

「お帰りなさい、兄さん……」

「ただいま、リオン」

 いつものように抱きしめてくれる兄の口から、いつもの言葉が向けられるのを心待ちにしながら身を預ける。

「リオン……暗殺隊を降りてくれるな」

 僕は兄の言葉にうなずいた。

 その瞬間、兄がたまらなく嬉しそうな笑みを見せる。
 この笑顔が見たかった。

 輝くような、優しい笑顔。
 もうずっと見ていなかった、兄の、その顔。

 僕の胸が温かいもので満ちていく。

 ああ、終わった。

 兄さんに悲しい顔をさせてまで貫いた『僕の戦い』は終わったのだ。
 自然と涙があふれて、そういえば涙は嬉しいときにも流れるのだったと思い出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

処理中です...