上 下
262 / 437
リオン編   死神

リオン編   死神1

しおりを挟む
 更に1ヶ月がたった。

「兄さん!!」

 仕事を終えた僕は、兄のいる執務室に飛び込んだ。
 今の僕は、暗殺部隊ドゥルガーの隊長。
 そして兄は実力を認められ、王の親衛隊長となった。

 公務のときはそれなりの態度をとらねばならないけど、極秘とされている僕の報告を聞くときだけは人払いをなさるから、つい素に戻って『兄さん』と呼んでしまう。

「今日はαーz地区を落としてきました。簡単でしたっ!」

 僕はわざと嬉しそうに言う。

 だって兄さんは僕を不憫がって、いつも葬式みたいな顔で報告を受けるから。
 兄さんは、僕がドゥルガー隊に入った頃から笑わなくなった。

 元々兄さんは、僕をその任に就けたくなくて大反対していた。
 でも僕は、その任についた。

 この難しい仕事に就ける実力があるのは、国中探しても僕か兄さんだけ。
 そして僕と兄さんなら、僕の方が向いている。

 いざとなれば魔法も組み合わせて戦える僕は、炎術で屋内の敵を焼き殺してから隊員たちを突入させる事が出来る。
 それに僕は、幼いときから定期的に魔的処理を受けている。今は魔獣と融合しているせいか体もますます頑丈で、傷の治りも普通の人間よりうんと早い。

 対して兄さんは1対7ぐらいまでならまず負けないだろうが、魔剣士ではないのでそれ以上は厳しい。
 それにお優しいから、絶対にどこかで足をすくわれる。

 兄を暗殺部隊などに入れるわけにはいかないのだ。

 幸い王は、誠意を持って丁寧にお願いしたら、3秒で認めて下さった。

 アースラ様は『説得の時は誠意をつくせ』とお遺しになっておられたけれど、やはり人間、誠意が一番なのだと実感する。

 扉の修理代が気になったけど、結局前回の時の修理代は、功績と引き換えにチャラになった。
 僕はこれからだって、国のため、兄さんのために功績を積み上げる。
 きっと、扉代ぐらいはチャラにしてもらえるだろう。


 暗殺隊を任された僕は、どんな場所であっても、相手が十数倍であっても、絶対にしくじらなかった。

 任を降ろされたら、次は兄さんが戦わなければならなくなる。
 それだけは絶対に嫌だ。

 隊員の事も完璧に守り、どこからも文句が出ないよう、任務を速やかに遂行する。
 ずっとこの仕事を任せてもらうために。

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

帰宅

papiko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

処理中です...