上 下
260 / 437
リオン編   分かれ道

リオン編   分かれ道7

しおりを挟む
 もったいなかったけど、シャンデリアは破壊して階段に向かう。
 この建物から、人が逃げにくいようにするためだ。

 決して、僕が『持ち帰りたい』という欲望から逃れるために破壊したのではない。

 本当っ!!
 砕けていくガラスを、最後までいじましく見てたりなんかしてないからっ!!

 これは、アースラ様のお遺しになった教本通りのやり方だ。

 人間は明かりがないと、何も見えない。
 けれど僕は『魔獣の瞳』を使って、夜間でも真昼のように識別できる。
 だから、光源を絶つとかなり戦闘に有利になる。

 ひとり残らず殺すなら、この方法が一番良いに違いない。

 階段から、明かりを手にした大勢の男たちが駆け下りてきた。
 この中にボスはいるだろうか?

 魔剣を抜いて、顔を見ながら切り殺していく。
 でも、どうも雑魚ばかりのようでそれらしい人が居ない。

 二十人程切り殺して、今度は階段を上る。

 そこにも男たちが居た。
 最初に向かってきた雑魚よりは幾分マシな腕だったけど、これならブラディたちの方が強い。

 同じように顔を確かめながら、上って行く。
 生かして捕らえておかなくても、あとで念写真を見せてもらえば、ちゃんと確認できるだろう。

 最上階まで上ると、ある一室の前にバリケードを築くように男たちが固まっていた。
 きっとボスは、あの部屋に居るに違いない。

 そう思うと笑みがこぼれた。

 これでもう、兄は『王の依頼』を受けなくて済む。
 その身に危険が迫ることは無い。

 ふと見ると、部屋のドアを背にした護衛の男たちの足が震えていた。
 死ぬことが恐ろしいのだろう。

「逃げたいのなら、逃げてもいいですよ?
 かわりにボスを引き渡してください。僕の目的は彼だけです」

 目的は達成できそうだし、気持ちは晴れやかだった。
 広い心で許してやろう。
 兄さんならこんな時、きっとこうする。
 だから僕も……。

 売り子で鍛えた笑顔でにっこりと友好的に笑ってみたけれど、男たちは動かなかった。

 そっかぁ……しょうがないね。
 兄さんを見習って殺人は最小限にしようと思ったけれど、どきたくないなら死んでもらうのみ。

 僕は兄さんのために、この中に居る人の首を取らなければならない。

 全員一閃で切り殺し、大きな扉に手をかける。
 中には高そうな服を着た男が一人居た。

 部屋の隅で、頭を抱えてうずくまっている。

 昔の僕は、どんな服が高いかなんて全然わからなかった。
 でも大丈夫。
 長く城に住んでいると、さすがにわかってくるものだ。

 王より上等な服を着ている、こいつがボスだ。

「ひぃ……」

 腰が抜けたのか、その男は這うようにして逃げ出した。

 情けない。

 僕らクロス神官は「死ぬときも誇り高く」と教えられてきた。
 こんな無様な姿を晒して、恥ずかしくはないのだろうか?

 ゆっくりと歩を進め、後ろから服を掴んで引き起こす。首を切りやすいように。
 血が大げさに吹き上がるけど、痛みを感じる暇も無く死んだはずだから、感謝して欲しい。

 ふと振り返ると大鏡に、僕の姿が映っていた。

 頭から血を被り、朱金だったはずの僕の瞳が真っ赤に染まっていた。

しおりを挟む

処理中です...