滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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リオン編   分かれ道

リオン編   分かれ道2

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 王の私室を訪れた事は、何度もある。

 大抵は兄と一緒だったけど、売り子の件のときのように僕単独で行くことも、もちろんあった。

「王にお目通りをお願いしたいのですが……」

 僕の『心の中の王』は兄一人だけだが、『この国での王』はアルフレッド王。
 きちんとわきまえ、服もフォーマルなものに着替えてから出かけた。

 もちろん、警護の人たちにも失礼の無いよう、丁寧に頼む。

 しかし何故か、聞き入れてはもらえなかった。

 致し方ないので気絶させて通してもらう。
 何しろ僕は、とても急いでいるのだ。

 ああ、手加減の練習をしていて良かった!!
 さすがに殺して通るわけにはいかないし。

『手加減』は『殺す』よりうんと難しい。
 けれど、けっこう役に立つように思う。
 どうして師は『殺す』ことしか教えてくれなかったのだろうか?


 部屋には先客が居た。

 兄と組むはずだった他の暗殺者たちに違いない。
 彼らも王同様、突然現れた僕に驚いていた。

 けれど僕は、かまわず王に訴えた。

「暗殺の仕事は僕でも出来ます。いえ、僕のほうが向いています。
 どうぞ僕を『兄の代わり』に使ってください!」

 一生懸命訴えたけれど、王は了承しては下さらなかった。
 子供に『暗殺』を任せるわけにはいかないらしいのだ。

 周りに居た大人たちは、僕の話を聞いてゲラゲラと下品に笑いだした。
 僕はこんなに真剣なのに、いったい何がおかしいというのだろう?

 でも、こんな事で腹を立てて時間をつぶしているわけにはいかない。
 薬の量は少なめだし、もしも兄さんが目覚めてしまったら大変だ。

 僕は再び王に訴えた。

 夜目がきくこと。
 兄と同じか、それ以上の成果が出せること。

 でも無駄だった。
 どんなに言葉をつくしても、わかってはもらえない。 

 暗殺者の一人が言った。

「可愛い売り子のお嬢ちゃん。勇ましいことを言う前に、俺らを倒してみな?
 そうしたら、俺から王に推薦してやってもいいぜ?」

 僕は首を傾げた。
 何を言っているのだろう。

 まず、僕は『お嬢ちゃん』ではない。
 ちゃんと『ずぼん』をはいている。
 男らしく『仕事』もしている。

 それに兄から禁じられてるので、多少腹が立っても同国人に危害を加える訳にはいかない。
 たとえ本人が望んだとしても。

「ホラホラらどうした。かかってこいよ!! 
 ったく近頃のガキは力も無いくせに、口だけは一丁前なんだから……」

 黙り込んだ僕をからかうように、一人の男が大げさに手をひらひらと振った。

「本当、本当!! 力の無い奴に暗殺隊は務まらねーよ!!
 あぁ、ウゼーっっ!!」

 大げさに両手を上げて肩をすくめた別の男の言葉に、周囲がまたどっと笑う。

 王はその様子を複雑そうに見ていたが、とうとう口を開いた。

「リオンよ。この者たちの言い方は悪いが、言っている内容まで間違っているわけではない。
 君の実力が高いのは私も知っているが、練習試合と実践では大きく違う。
 君に人の首が狩れるのかね?」

「もちろんです」

 胸を張ってそう答えると、王は困った顔をし、回りの男たちはまたドッと笑った。

 僕は別に面白いことを言ってるわけでもないのに、何故あの人たちは笑うのだろう?

「お嬢ちゃん、果物狩りに行くわけじゃないんだぜ?
 首を切るとこう、ぴゅーと血が吹き上がって……」

「よさないかっ!! 子供の前で!!!」

 いつもは穏やかな王の叱責に、僕を揶揄した男が首をすくめて黙る。

「なぁリオンよ。
 お前の兄を取り立てたことについては、本当にすまないと思っている。
 君が心配するのも無理は無い。
 しかし我が組織は今、存亡の危機に立たされている」

「ですから僕に……」

 なお言いつのる僕に、王はさすがに眉根を寄せた。

「私は『無理だ』と言っている。いい加減に引かないか。
 この任務を達成するためには、人を殺さねばならない。一瞬でもためらったら、やられるのはお前のほうだ。
 私はお前に、そんな危険なことをさせたくはないのだよ」

 最初は威圧的でさえあった言葉が、最後になるにつれ、懇願のような響きを含んでいった。
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