滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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リオン編   分かれ道

リオン編   分かれ道1

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 ある夜、いつものように過ごす僕らの元に、王からの使者が来た。
 せっかくの二人の時間を邪魔されて不満だったけど、兄様は行ってしまわれた。

 兄さんが居なくなると、僕の世界は急に色あせる。
 浮き浮きした気持ちも今は沈んでしまった。

 ……兄様、何の御用かな?
 いつ帰ってきて下さるのかな?

 エルシオンの地下にいたころは、外界の音は一切聞くことが出来なかった。
 修行の妨げとなるからだ。
 でも今は結界がないから、かなりの範囲の音が拾える。

 魔術を使用することは兄さんに止められていた。
 けれど寂しいとつい、耳を澄ませて兄の行動を追ってしまう。

 聞こえてきたのは王の声。

「申し訳ないが、暗殺隊『ドゥルガー』の隊長を務めてくれないか?」

 続く王の説明から、その職務がとても危険なものだと察しがついた。

 冗談じゃないっ!!!
 そんな危険な職務は、アリシアあたりにでもやらせておけば良いのだ。

 しかし兄は引き受けた。
 お優しい兄さんは、もう王子でもないのに民衆のために引き受けてしまったのだ。 

 兄さんは意外と頑固だ。
 僕が言っても、おそらく暗殺隊を降りはしないだろう。

 まして兄さんは、僕に心配をかけないよう王に口裏あわせを頼んでいた。
 決心は相当固いはず。

 となると、僕が取れる手段はただ一つだ。

 僕は以前『睡眠薬』というものを盛られて、さらわれた事がある。
 普通の人間なんかに負けるわけがないと思っていたけれど『睡眠薬』には勝てなかった。
 以降、それについてはしっかり調べ用心している。

 そうだ、アレがいい。
 傷もつけず、争うことも無く、兄の足を止めることができる。
 眠っている間に僕が敵ボスの首を落とせば、兄さんが危ない目に合わなくても済むに違いない。

 兄さんが『隠せ』とおっしゃったので、僕はこの国に来てからは魔剣も戦闘魔術も使ったことは無い。
 しかし今使わずに、いったいいつ使うと言うのだ。

 僕は城医の所から誘眠作用のある薬草を手に入れた。
 城には治癒師もいるが、そもそも、使い物になるレベルで魔力を有する者はそう多くない。

 ここでも王のお抱え治癒師が一人いるだけで、一般人は余程重症でない限り、城医の方を利用する。

 以前店のお客さんが、城医から『睡眠薬』をもらっていたのを思い出し、そこに向かった。
 子供なので少ししかくれなかったけど、兄を数時間足止め出来たらそれでいい。

 作戦は上手くいった。
 店のお客さんから頂いた異国の紅茶……と嘘をついて出したら、何も気づかずに全て飲み干して下さった。

 味はきっと不味かったと思う。
 けど兄さんは、僕が出したものはなんでも「おいしい」っておっしゃってニコニコ飲んで下さる。

 効果はすぐに現れた。
 一日中気を使いながら戦っている兄さんは、夜はけっこう疲れている。

 思った通り薬が呼び水となって、すぐに目がトロンとなった。
 そしてそのまま、コトンと机に突っ伏した。

 ごめんね兄様。
 でも薬は少量しか使ってないし、体を痛めることは無いはず。

 明日の朝には厄介事はすべて片付いているから、ゆっくりとお休みになって下さいね。

 そっと上着をかけて、部屋から出る。

 向かう先は王の部屋。
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