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リオン編 明日を歩く
リオン編 明日を歩く3
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そうして僕は、闘技場関連の出店で働き出した。
働くことは楽しい。
仕事はそう難しいものではなく、細かいところにまで気配りされたマニュアルがあったので、すぐにこなせるようになった。
もちろん失敗もした。
どうやら『笑顔』が足りなかったようだ。
お給金の中には『笑顔』に対する報酬も含まれているらしく、ソレをやらないと手取りは半額になると王から厳しく言い渡された。
僕の目的はお金ではなく、兄の姿を一日中チラ見することだったので「それでも良いです」と言ったのだけど、王はため息をついたあと、僕の目の前に一冊の本を差し出した。
それは兄様たち親衛隊を特集した本だった。
見本誌は部屋にもあるので、すでに読んで知っている。
「4冊分の応募券を送ると、親衛隊メンバーいずれか一名の非売品ポスターが手に入るのだが、君はお兄さんのポスターを欲しくはないかね?」
「欲しいです」
僕は即答した。
欲しいに決まっている。
「では稼ぎたまえ。
稼げば稼ぐほど、君の欲しいものは何でも手に入るようになる。
もちろん兄にねだって買ってもらうことも出来るだろうが、自分の力で手に入れてこそ『男』というものだ」
王はそう言って力強く頷いた。
へえ、そうなんだ。
『ずぼん』をはけば、それで『男』そして『弟』になれると思っていたのに、どうやら知識が不足していたらしい。
兄さんの望む『弟』でいるためには『男』でないといけない。
『女の子』だと、自動的に『妹』になってしまう。
そのぐらいの知識は世間知らずの僕にもあった。
女の子になってしまうのは困る。それでなくてもアリシアに「もっと男らしく!」と日々言われているのに。
言うのがアリシアだけなら無視できた。
兄様は「大丈夫だよ。リオンはリオンのまま、可愛い弟でいれば良いのだから、アリシアの言うことなんか気にしてはダメだ」とおっしゃっていたし。
しかし王にまで言われると、段々不安になってくる。
もしかしたら、男らしくない僕は、いつの間にか女の子になってしまうのではないだろうか?
それに気がつき、真っ青になった。
前に兄さんは、はっきりと言った。
「俺は弟のお前を、世界一大切に思っていてるからな!!」
……と。
ヤバイ。マズイ。
ちゃんと笑って『自分で』稼がないと、僕はそのうち女の子になってしまうかもしれない。
しかし笑い方がわからない。
僕には、兄以外の全ての人間が敵に見えるのだ。
それでも僕は、その問題をクリアすることができた。
王が『笑い方のコツ』を直々に教えて下さったのだ。
以後、僕は十分なお給金をもらうことが出来るようになった。
そのうち売上が店一番となり、特別手当もついた。
僕は本当に、頑張ったのである。
そのお金で僕は、いっぱい兄の本を買った。グッズも買った。
兄限定で買いまくった。
お給金のほぼ全てを突っ込んだ。
よし、これで僕も『男の中の男』の仲間入りだ。
兄もきっと、喜んでくれることだろう。
お金があればいろんなものが好きに買えて楽しい。
これは、僕が知らなかった楽しみ方だ。
兄が『好意』で僕に何かを買ってくださることは多々あったけど、それともまた違う。
なるほど、大人たちが「お金、お金」と言うはずだ。
時々アースラ様のお遺しになった『クロス神官は欲を持ってはいけない』という教えが頭をかすめるけど、今の僕はもう神官ではない。
ちょっとぐらい……許してもらってもいいよね。今まで何も望まなかったのだから。
兄はそのうち僕のお金の使いすぎを心配するようになったけど、兄さんだって僕と同じような状況だと知っているのでやめるつもりは無い。
ああ……楽しいなっ!
お金を稼ぐ楽しみがわかるようになると、王のスゴさもわかるようになってきた。
王の考えた独創的な企画や商品は次々とヒットしていて、もう闘技やブロマイドがメインの収入と言うわけではなくなっている。
いくつもの主力産業が育っていて、それぞれが急成長を続けていた。
アルフレッド王は想像以上にやり手のようだ。
この王に協力するのは、僕にとっても利がある。
僕は兄さんのブロマイドをもっといっぱい買うために、一生懸命働いた。
ニコニコ笑いながら頑張った。
忙しいけど楽しくて、とても充実した日々だった。
働くことは楽しい。
仕事はそう難しいものではなく、細かいところにまで気配りされたマニュアルがあったので、すぐにこなせるようになった。
もちろん失敗もした。
どうやら『笑顔』が足りなかったようだ。
お給金の中には『笑顔』に対する報酬も含まれているらしく、ソレをやらないと手取りは半額になると王から厳しく言い渡された。
僕の目的はお金ではなく、兄の姿を一日中チラ見することだったので「それでも良いです」と言ったのだけど、王はため息をついたあと、僕の目の前に一冊の本を差し出した。
それは兄様たち親衛隊を特集した本だった。
見本誌は部屋にもあるので、すでに読んで知っている。
「4冊分の応募券を送ると、親衛隊メンバーいずれか一名の非売品ポスターが手に入るのだが、君はお兄さんのポスターを欲しくはないかね?」
「欲しいです」
僕は即答した。
欲しいに決まっている。
「では稼ぎたまえ。
稼げば稼ぐほど、君の欲しいものは何でも手に入るようになる。
もちろん兄にねだって買ってもらうことも出来るだろうが、自分の力で手に入れてこそ『男』というものだ」
王はそう言って力強く頷いた。
へえ、そうなんだ。
『ずぼん』をはけば、それで『男』そして『弟』になれると思っていたのに、どうやら知識が不足していたらしい。
兄さんの望む『弟』でいるためには『男』でないといけない。
『女の子』だと、自動的に『妹』になってしまう。
そのぐらいの知識は世間知らずの僕にもあった。
女の子になってしまうのは困る。それでなくてもアリシアに「もっと男らしく!」と日々言われているのに。
言うのがアリシアだけなら無視できた。
兄様は「大丈夫だよ。リオンはリオンのまま、可愛い弟でいれば良いのだから、アリシアの言うことなんか気にしてはダメだ」とおっしゃっていたし。
しかし王にまで言われると、段々不安になってくる。
もしかしたら、男らしくない僕は、いつの間にか女の子になってしまうのではないだろうか?
それに気がつき、真っ青になった。
前に兄さんは、はっきりと言った。
「俺は弟のお前を、世界一大切に思っていてるからな!!」
……と。
ヤバイ。マズイ。
ちゃんと笑って『自分で』稼がないと、僕はそのうち女の子になってしまうかもしれない。
しかし笑い方がわからない。
僕には、兄以外の全ての人間が敵に見えるのだ。
それでも僕は、その問題をクリアすることができた。
王が『笑い方のコツ』を直々に教えて下さったのだ。
以後、僕は十分なお給金をもらうことが出来るようになった。
そのうち売上が店一番となり、特別手当もついた。
僕は本当に、頑張ったのである。
そのお金で僕は、いっぱい兄の本を買った。グッズも買った。
兄限定で買いまくった。
お給金のほぼ全てを突っ込んだ。
よし、これで僕も『男の中の男』の仲間入りだ。
兄もきっと、喜んでくれることだろう。
お金があればいろんなものが好きに買えて楽しい。
これは、僕が知らなかった楽しみ方だ。
兄が『好意』で僕に何かを買ってくださることは多々あったけど、それともまた違う。
なるほど、大人たちが「お金、お金」と言うはずだ。
時々アースラ様のお遺しになった『クロス神官は欲を持ってはいけない』という教えが頭をかすめるけど、今の僕はもう神官ではない。
ちょっとぐらい……許してもらってもいいよね。今まで何も望まなかったのだから。
兄はそのうち僕のお金の使いすぎを心配するようになったけど、兄さんだって僕と同じような状況だと知っているのでやめるつもりは無い。
ああ……楽しいなっ!
お金を稼ぐ楽しみがわかるようになると、王のスゴさもわかるようになってきた。
王の考えた独創的な企画や商品は次々とヒットしていて、もう闘技やブロマイドがメインの収入と言うわけではなくなっている。
いくつもの主力産業が育っていて、それぞれが急成長を続けていた。
アルフレッド王は想像以上にやり手のようだ。
この王に協力するのは、僕にとっても利がある。
僕は兄さんのブロマイドをもっといっぱい買うために、一生懸命働いた。
ニコニコ笑いながら頑張った。
忙しいけど楽しくて、とても充実した日々だった。
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