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リオン編   転機

リオン編   転機9

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 勝負は一瞬だった。

 魔剣は服の中に入ったまま。
 でも、兄様から渡された模造刀も使わなかった。

 うっかり手が滑ると、殺してしまうと思ったから。

 それでもブラッディは地に臥した。
 エドガーさんの時のように殺してしまったかと心配したけれど、ちゃんと生きていたことにホッとする。

 ただし、ブラッディの腕は変な方向に曲がっていた。

 剣を叩き落とすときに、ちょっとやりすぎてしまったのだろうか?
 おかしいな。まだ手加減がたりなかったのかな。

 肋骨も何本か折れているようだけど、そんなに強く叩き込んだっけ?
 クロスⅦだけを相手に長年組手をやってきたので、まだ加減がよくわからない。

 だが、初めて死なせずにやっつける事が出来た。
 エドガーさんの時は失敗だったのに。

 僕はここしばらく兄様から『てかげん』と言うものを教わっていた。

 でも、これが中々難しい。
 つい反射的に体が動いてしまうのだ。

 実践は今回が初めてで『普通の人間相手じゃ失敗するかも』とかなり心配していたけれど、僕はやり遂げた。
 奇跡的に成功した。

 そうだよ。
 アリシアはケチばかりつけていたけど、僕だってやれば出来る子なんだよ!

 アッサムはブラッディの様子を見て、じりじりと下がりだした。

「なによぉ。男の子でしょ。頑張りなさい、この根性無し君☆」

 アリシアらしい臓腑をえぐるような罵倒に、今度はアッサムが切れた。
 そして見物していたアリシアに剣を向ける。

 どうするのかな~?
 どさくさにまぎれて、殺っちゃってくれたらいいのにな~。

 ……と暖かい眼差しで見守っていたら、なんとアリシアは兄様から剣を奪い取るように借り、彼に向けた。

 結論から言うと勝者はアリシアだった。

 多分喧嘩をふっかけたのもワザとで、今後の地位を最上に上げるためにやったのではと思われる。
 アースラ様のお遺しになった御本にも、そのようなやり方を手ほどきした文章が残っていたのだ。

 それにしてもコイツら、どんだけ弱いんだ。
 僕は真面目に心配した。

 学んだところによると、親衛隊とは『王の警護役』を指し、それ相応の腕を望まれる。
 なのにこんな腕で、敵が来た時、本当に王を守れるのだろうか?

 確かにその辺のならず者たちよりはマシなようだったが、頭のいかれた邪悪女すら成敗出来ないなんて、情けないにも程がある。

 これじゃ、僕の幸せな目論見が台無しだ。

 アリシアの方は息も乱さず勝ち誇っていた。更には、

「ふふん。3歳の時から宿の重い食器を運び、お屋敷の侍女となってからは人手が足りなくて、男二人で抱えるような大きな水瓶も一人で運んだわ。
 体力と力なら、その辺の男に負けはしないわよ♪ オホホホホ!!!」

 と邪悪に高笑いした。
 恐るべし、邪悪女パワー。

 その一件以来、親衛隊候補生の中に幼い僕と女性のアリシアも入る事となった。
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