滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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リオン編   転機

リオン編   転機5

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 アリシアの提案に乗って『姉兄弟のフリ』をする事を了承したのは、一にも二にも兄様のためだ。
  兄様に降りかかる火の粉が少しでも少なくなると言うのなら、僕はその条件を飲むしかない。

  そして実戦で全く役に立たないウルフのフォローは、僕と兄様でするよう、あらかじめ打ち合わせがされている。

  でも、『愛する姉さんのため』というのだけは、本当にやめてほしい。
  気持ちが悪くて倒れそうだ……ホラ、もう鳥肌が立ちまくっている。

 「え……と。姉……さん。
  僕がやってもあの人は死ぬ事になりそうですが、それでも良いですか?」

  ぶっきらぼうに言う僕に、アリシアがにこやかに答える。

 「ええ。かまわないわよ。
  子供のあなたに負けるような男、生きている価値も無いもの。
  でも食堂で剣を振り回すのは無粋なので『アレ』は使わないでね。
  そのぐらいのハンデ、あなたにはなんでもないでしょ?」

  アリシアの言葉を聞き、男が怒り始めた。

 「くそ。舐めるな!!」

  そう言って殴りかかってくる男から、ひょいと身を沈めてかわす。
  勢い余って体勢を崩した男の足を、今度は低い位置から払う。

  男が派手に転んだ。

  クロスⅦとの手合わせなら、こんなことには絶対ならない。
  外の人間は、本当に弱い。

  男が慌てて振り向いた時にはもう、喉元に食卓ナイフを突きつけていた。

  ……食卓ナイフじゃ、ちょっとサマにならないなぁ?
  僕はちょっと心配した。
  兄様だって、僕のこの様子をご覧になっているというのに。

  けれど、「魔剣は使ってはダメ」とアリシアから言われている。
  使えるモノはこんなのしかないけど、素手よりは汚れなくて良いだろう。

 「では死んで下さい」

 「待って!!」

  アリシアがまたしても、僕を押しとどめた。

  殺してイイって言ったじゃないか!!
  いったいどっちなんだっっ!!

  憮然とする僕に、アリシアは言った。

 「まあ、殺しちゃってもいいんだけど、私たちこの町の中、不案内なの。
  だからこの町の実力者のところに連れて行ってくれないかしら?
  出来たら『ガルーダ』という組織に入りたいの。
  ここはガルーダ領域だから、あなただって知っているでしょ?」

  男はしばらくためらっていたが、僕のナイフの刃先に、ごくりと喉を鳴らした。

 「……わかった。『ガルーダ』ならツテがある。それにあんたらぐらい強ければ、あそこのボスも喜んで迎えるさ。ついてきな」

  精一杯虚勢を張っているが、実は震え声の男がアリシアをうながした。
  しかし彼女の返答は『否』だった。

 「ヤダ。まだご飯食べてないもの。
  私に誘いをかけたのだから、当然ここの食事もおごって下さるわよねぇぇぇえ?」

  にっこりと微笑む悪魔のようなアリシアに、男がコクコクと首を縦に振った。

  もう誰にも同情なんてしないと決めていたけど……さすがにちょっと気の毒だった。
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