241 / 437
リオン編 転機
リオン編 転機1
しおりを挟む
「行くならラフレイム帝国でしょうね」
馬車の中でアリシアが口を挟んだ。
ちょうど次の行く先について、兄様と話し合っているときだった。
「元々この馬車は私が乗って来たんだからっ! それに私は役にたつわよ~?」
と言って、当たり前のようくっついてきた『邪悪女』と僕達は、しばらくの間 一緒に旅をすることになってしまった。
しかし実際、その方が都合がいいので反対はしない。
いつか隙を見て、兄様にばれないように殺してやる。
あの世であの優しい母親に謝らせてやる。
僕は殺気を押さえつけながら、兄様の後ろに隠れるようにして奴を睨みつけた。
いろいろあった後、僕らはアリシアの希望通りラフレイム帝国に向かって進んでいる。
どうしてこうなってしまったのだろう?
思い出してみても、よくわからない。
とにかく、あっという間にアリシアに丸め込まれてしまったのだ。
ラフレイムは正式な国などではなく、ならず者が多く集う物騒な所らしかった。
兄様を危険な目になど合わせたくないのに、アリシアはそれでも自分の都合を押し通した。
しかも僕らの力を利用する気満々だ。
馬の調整や料理などをして協力的なふりをしていたが、僕にはわかっている。
「いくら強くたって、ずるさが無きゃこの世界では生き残れないのよ」
氷のような瞳をして今言った、あの言葉こそが『本音』なのだ。
「……そうかも……」
僕もアリシアの言葉に応じるように呟いた。
あんな女に同意するのは少々悔しくもあったけれど、納得できる部分もあったからだ。
兄様と僕は、信じた人に何度も何度も裏切られてきた。
それもこれも、純粋に『善意』というものを信じすぎたからに違いない。
この女も今は協力的なふりをしているけど、隙を見せたとたん、裏切るだろう。
昔はわからなかったけど、僕だってそれなりには学んだし、進歩した。
それぐらいの予測は出来る。
「……というわけで死んでくださいアリシアさん。ずるさを誇るあなたなど、危険なだけです。
まだ奴隷の刻印を押されてない僕たちだけなら、そのような危ない国に行かずとも何とかなります」
あとでこっそりと思ったけれど、やはりこの女を生かしておくのは危険すぎる。
兄様だってアリシアという女がどんなに危険か、今の言葉で分かったはず。
エラジーを抜いたとたん、兄様が手を広げ、彼女をかばう。
「お、おい待て!! 駄目だ!!
母親を殺して、その上娘まで殺すなんて非道にも程がある。
やったら許さないからなっ!!」
同じ気持ちでいて下さると思っていたのに、兄様の考えは、僕とは全く逆だった。
そのことにガッカリする。
僕は兄様の優しいところがとても好きだ。
でも何回邪悪な獣どもに利用され、裏切られたら目が覚めるのだろう。
傷つくのは結局兄様なのに。
アリシアの方は動揺もせずに、
「あら素敵ぃ! 弟君!!
これぐらいでなきゃラフレイムではやっていけないわ!
頼もしいこと。オホホホホ♪」
なんて言っている。
結局こういう邪悪で厚顔無恥な人間が、優しい人間を踏みつけてのさばっていくのが『外の世界』なのだ。
なめられた時点で、もう終わりなのだ。
「お褒めにあずかり光栄です。今は兄様のお言いつけを守って危害は加えません。
でも、もし兄様を騙すようなことがあったら、命以外の機能は全て諦めて下さいね」
内気で、善良で、世間知らず。ついでに語彙も貧困な僕が今吐けるのは、この程度の控えめな台詞だけだ。
ちゃんとアリシアに脅しが効いたかどうか、ちょっと自信がない。
チラリとアリシアを見ると、やっぱりケロリと笑んでいた。
どこか魔獣と性格の似たアリシアと共にラフレイムに行くのは気が進まない。
でも兄様がそれを了承したのなら、それに従うしか、僕には道がない。
馬車の中でアリシアが口を挟んだ。
ちょうど次の行く先について、兄様と話し合っているときだった。
「元々この馬車は私が乗って来たんだからっ! それに私は役にたつわよ~?」
と言って、当たり前のようくっついてきた『邪悪女』と僕達は、しばらくの間 一緒に旅をすることになってしまった。
しかし実際、その方が都合がいいので反対はしない。
いつか隙を見て、兄様にばれないように殺してやる。
あの世であの優しい母親に謝らせてやる。
僕は殺気を押さえつけながら、兄様の後ろに隠れるようにして奴を睨みつけた。
いろいろあった後、僕らはアリシアの希望通りラフレイム帝国に向かって進んでいる。
どうしてこうなってしまったのだろう?
思い出してみても、よくわからない。
とにかく、あっという間にアリシアに丸め込まれてしまったのだ。
ラフレイムは正式な国などではなく、ならず者が多く集う物騒な所らしかった。
兄様を危険な目になど合わせたくないのに、アリシアはそれでも自分の都合を押し通した。
しかも僕らの力を利用する気満々だ。
馬の調整や料理などをして協力的なふりをしていたが、僕にはわかっている。
「いくら強くたって、ずるさが無きゃこの世界では生き残れないのよ」
氷のような瞳をして今言った、あの言葉こそが『本音』なのだ。
「……そうかも……」
僕もアリシアの言葉に応じるように呟いた。
あんな女に同意するのは少々悔しくもあったけれど、納得できる部分もあったからだ。
兄様と僕は、信じた人に何度も何度も裏切られてきた。
それもこれも、純粋に『善意』というものを信じすぎたからに違いない。
この女も今は協力的なふりをしているけど、隙を見せたとたん、裏切るだろう。
昔はわからなかったけど、僕だってそれなりには学んだし、進歩した。
それぐらいの予測は出来る。
「……というわけで死んでくださいアリシアさん。ずるさを誇るあなたなど、危険なだけです。
まだ奴隷の刻印を押されてない僕たちだけなら、そのような危ない国に行かずとも何とかなります」
あとでこっそりと思ったけれど、やはりこの女を生かしておくのは危険すぎる。
兄様だってアリシアという女がどんなに危険か、今の言葉で分かったはず。
エラジーを抜いたとたん、兄様が手を広げ、彼女をかばう。
「お、おい待て!! 駄目だ!!
母親を殺して、その上娘まで殺すなんて非道にも程がある。
やったら許さないからなっ!!」
同じ気持ちでいて下さると思っていたのに、兄様の考えは、僕とは全く逆だった。
そのことにガッカリする。
僕は兄様の優しいところがとても好きだ。
でも何回邪悪な獣どもに利用され、裏切られたら目が覚めるのだろう。
傷つくのは結局兄様なのに。
アリシアの方は動揺もせずに、
「あら素敵ぃ! 弟君!!
これぐらいでなきゃラフレイムではやっていけないわ!
頼もしいこと。オホホホホ♪」
なんて言っている。
結局こういう邪悪で厚顔無恥な人間が、優しい人間を踏みつけてのさばっていくのが『外の世界』なのだ。
なめられた時点で、もう終わりなのだ。
「お褒めにあずかり光栄です。今は兄様のお言いつけを守って危害は加えません。
でも、もし兄様を騙すようなことがあったら、命以外の機能は全て諦めて下さいね」
内気で、善良で、世間知らず。ついでに語彙も貧困な僕が今吐けるのは、この程度の控えめな台詞だけだ。
ちゃんとアリシアに脅しが効いたかどうか、ちょっと自信がない。
チラリとアリシアを見ると、やっぱりケロリと笑んでいた。
どこか魔獣と性格の似たアリシアと共にラフレイムに行くのは気が進まない。
でも兄様がそれを了承したのなら、それに従うしか、僕には道がない。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説


思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる