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リオン編 転機
リオン編 転機1
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「行くならラフレイム帝国でしょうね」
馬車の中でアリシアが口を挟んだ。
ちょうど次の行く先について、兄様と話し合っているときだった。
「元々この馬車は私が乗って来たんだからっ! それに私は役にたつわよ~?」
と言って、当たり前のようくっついてきた『邪悪女』と僕達は、しばらくの間 一緒に旅をすることになってしまった。
しかし実際、その方が都合がいいので反対はしない。
いつか隙を見て、兄様にばれないように殺してやる。
あの世であの優しい母親に謝らせてやる。
僕は殺気を押さえつけながら、兄様の後ろに隠れるようにして奴を睨みつけた。
いろいろあった後、僕らはアリシアの希望通りラフレイム帝国に向かって進んでいる。
どうしてこうなってしまったのだろう?
思い出してみても、よくわからない。
とにかく、あっという間にアリシアに丸め込まれてしまったのだ。
ラフレイムは正式な国などではなく、ならず者が多く集う物騒な所らしかった。
兄様を危険な目になど合わせたくないのに、アリシアはそれでも自分の都合を押し通した。
しかも僕らの力を利用する気満々だ。
馬の調整や料理などをして協力的なふりをしていたが、僕にはわかっている。
「いくら強くたって、ずるさが無きゃこの世界では生き残れないのよ」
氷のような瞳をして今言った、あの言葉こそが『本音』なのだ。
「……そうかも……」
僕もアリシアの言葉に応じるように呟いた。
あんな女に同意するのは少々悔しくもあったけれど、納得できる部分もあったからだ。
兄様と僕は、信じた人に何度も何度も裏切られてきた。
それもこれも、純粋に『善意』というものを信じすぎたからに違いない。
この女も今は協力的なふりをしているけど、隙を見せたとたん、裏切るだろう。
昔はわからなかったけど、僕だってそれなりには学んだし、進歩した。
それぐらいの予測は出来る。
「……というわけで死んでくださいアリシアさん。ずるさを誇るあなたなど、危険なだけです。
まだ奴隷の刻印を押されてない僕たちだけなら、そのような危ない国に行かずとも何とかなります」
あとでこっそりと思ったけれど、やはりこの女を生かしておくのは危険すぎる。
兄様だってアリシアという女がどんなに危険か、今の言葉で分かったはず。
エラジーを抜いたとたん、兄様が手を広げ、彼女をかばう。
「お、おい待て!! 駄目だ!!
母親を殺して、その上娘まで殺すなんて非道にも程がある。
やったら許さないからなっ!!」
同じ気持ちでいて下さると思っていたのに、兄様の考えは、僕とは全く逆だった。
そのことにガッカリする。
僕は兄様の優しいところがとても好きだ。
でも何回邪悪な獣どもに利用され、裏切られたら目が覚めるのだろう。
傷つくのは結局兄様なのに。
アリシアの方は動揺もせずに、
「あら素敵ぃ! 弟君!!
これぐらいでなきゃラフレイムではやっていけないわ!
頼もしいこと。オホホホホ♪」
なんて言っている。
結局こういう邪悪で厚顔無恥な人間が、優しい人間を踏みつけてのさばっていくのが『外の世界』なのだ。
なめられた時点で、もう終わりなのだ。
「お褒めにあずかり光栄です。今は兄様のお言いつけを守って危害は加えません。
でも、もし兄様を騙すようなことがあったら、命以外の機能は全て諦めて下さいね」
内気で、善良で、世間知らず。ついでに語彙も貧困な僕が今吐けるのは、この程度の控えめな台詞だけだ。
ちゃんとアリシアに脅しが効いたかどうか、ちょっと自信がない。
チラリとアリシアを見ると、やっぱりケロリと笑んでいた。
どこか魔獣と性格の似たアリシアと共にラフレイムに行くのは気が進まない。
でも兄様がそれを了承したのなら、それに従うしか、僕には道がない。
馬車の中でアリシアが口を挟んだ。
ちょうど次の行く先について、兄様と話し合っているときだった。
「元々この馬車は私が乗って来たんだからっ! それに私は役にたつわよ~?」
と言って、当たり前のようくっついてきた『邪悪女』と僕達は、しばらくの間 一緒に旅をすることになってしまった。
しかし実際、その方が都合がいいので反対はしない。
いつか隙を見て、兄様にばれないように殺してやる。
あの世であの優しい母親に謝らせてやる。
僕は殺気を押さえつけながら、兄様の後ろに隠れるようにして奴を睨みつけた。
いろいろあった後、僕らはアリシアの希望通りラフレイム帝国に向かって進んでいる。
どうしてこうなってしまったのだろう?
思い出してみても、よくわからない。
とにかく、あっという間にアリシアに丸め込まれてしまったのだ。
ラフレイムは正式な国などではなく、ならず者が多く集う物騒な所らしかった。
兄様を危険な目になど合わせたくないのに、アリシアはそれでも自分の都合を押し通した。
しかも僕らの力を利用する気満々だ。
馬の調整や料理などをして協力的なふりをしていたが、僕にはわかっている。
「いくら強くたって、ずるさが無きゃこの世界では生き残れないのよ」
氷のような瞳をして今言った、あの言葉こそが『本音』なのだ。
「……そうかも……」
僕もアリシアの言葉に応じるように呟いた。
あんな女に同意するのは少々悔しくもあったけれど、納得できる部分もあったからだ。
兄様と僕は、信じた人に何度も何度も裏切られてきた。
それもこれも、純粋に『善意』というものを信じすぎたからに違いない。
この女も今は協力的なふりをしているけど、隙を見せたとたん、裏切るだろう。
昔はわからなかったけど、僕だってそれなりには学んだし、進歩した。
それぐらいの予測は出来る。
「……というわけで死んでくださいアリシアさん。ずるさを誇るあなたなど、危険なだけです。
まだ奴隷の刻印を押されてない僕たちだけなら、そのような危ない国に行かずとも何とかなります」
あとでこっそりと思ったけれど、やはりこの女を生かしておくのは危険すぎる。
兄様だってアリシアという女がどんなに危険か、今の言葉で分かったはず。
エラジーを抜いたとたん、兄様が手を広げ、彼女をかばう。
「お、おい待て!! 駄目だ!!
母親を殺して、その上娘まで殺すなんて非道にも程がある。
やったら許さないからなっ!!」
同じ気持ちでいて下さると思っていたのに、兄様の考えは、僕とは全く逆だった。
そのことにガッカリする。
僕は兄様の優しいところがとても好きだ。
でも何回邪悪な獣どもに利用され、裏切られたら目が覚めるのだろう。
傷つくのは結局兄様なのに。
アリシアの方は動揺もせずに、
「あら素敵ぃ! 弟君!!
これぐらいでなきゃラフレイムではやっていけないわ!
頼もしいこと。オホホホホ♪」
なんて言っている。
結局こういう邪悪で厚顔無恥な人間が、優しい人間を踏みつけてのさばっていくのが『外の世界』なのだ。
なめられた時点で、もう終わりなのだ。
「お褒めにあずかり光栄です。今は兄様のお言いつけを守って危害は加えません。
でも、もし兄様を騙すようなことがあったら、命以外の機能は全て諦めて下さいね」
内気で、善良で、世間知らず。ついでに語彙も貧困な僕が今吐けるのは、この程度の控えめな台詞だけだ。
ちゃんとアリシアに脅しが効いたかどうか、ちょっと自信がない。
チラリとアリシアを見ると、やっぱりケロリと笑んでいた。
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