滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
240 / 437
リオン編   シリウスという国

リオン編   シリウスという国12

しおりを挟む
 僕たちはおばさんの葬儀を済ませたあと、宿の庭を掘って埋めた。

 アリシアは母親の死体をそのまま置いて行こうとしたけれど、あまりにおばさんが哀れで、僕が申し出たのだ。

 死者を弔うのは神官の役目。
 裏神官である僕は『表の世界』ではその任に着いたことがない。

 でも、儀式の執り行い方は知っている。
 だから兄様に頼みこんで、僕にその役目を果たさせてもらった。

 実の娘にも罵られ、哀れに命を落としたおばさんをどうしても天に送ってあげたかったのだ。

 無念の表情のまま開いていた血走った瞳を魔力で弛緩させ、閉じさせる。
 そうするとおばさんは――――ただ眠っているかのような、安らいだ表情となった。

 僕が大好きだった、優しいあの顔。
 クロスⅦほどの美しさがあったわけではなかったけれど、それでも笑うとますます深くなるそのシワさえ、僕は好きだった。

 おぼろげだったおばさんの声がよみがえってくる。

『よく頑張ってくれたね。おかげで宿がピカピカになったよ』 

『遠慮なんかしないで、いっぱいお食べ!』

 いつも僕にかけてくれた、あの優しい声も……笑顔も……もう二度と目にすることはない。

 血をふき取り、腕を祈りの形に組ませ、綺麗なシーツにくるみ、3人がかりで掘った穴にそっと横たえて土をかけた。

 埋まっていくおばさんを見て涙が落ちた。

 さようなら……僕に『母』の夢を見せて下さった人。
 どうぞ神の愛に包まれて、安らかにお眠りください。

 そして育ててもらい、助けてもらった恩も忘れてあなたを罵ったクズの始末は僕に任せてください。
 今は兄様が止めるから何も出来ないけれど、いつか思い知らせてみせます。

 祈りを捧げ、身支度を整えた僕たちは宿を出発した。
 辺りは闇。手にしたランプの炎だけがユラユラと揺れている。
 深夜であることも幸いして、他に人影はない。

 アリシアを連れてきた質素な黒い馬車は持ち主を失ってずっと門の前につながれていた。その綱を取って僕たちは馬車を走らせた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

愛おしいほど狂う愛

ゆうな
BL
ある二人が愛し合うお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

処理中です...