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リオン編 シリウスという国
リオン編 シリウスという国8
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僕と兄様は夜の闇に紛れて歩き、元居た宿にたどり着いた。
気配を消してミランダおばさんの部屋に行き、所々ゆがんだ木のドアに耳を押し当て中の様子を探る。
ちゃりんという音が響き、小さな押し殺したような笑い声が聞こえた。
お金がたまった事を喜ぶ独り言と共に。
あのおばさんにとって、僕らはただの商品だった。
後悔などは一切なく、お金がたまったことをただ、喜んでいるだけだった。
僕らが誰かに使われることになっても、酷い目にあっても、貯まったお金の方が大事。
そういうことなのだ。
「リオン。あの金は子供たちを売って手に入れたお金だ。
あんな女の手元にあって良いものじゃない」
兄様は小声で僕に言った。
「はい。僕もそう思います。
それに兄様を売り飛ばすなんて……生きてる資格さえありません」
素直にそう思った。
「何だ……お前もそう思うのか。じゃあ決まったな」
兄様が暗い笑みを浮かべる。
いつも優しげな兄様のその表情に、少し胸が痛んだ。
けれど『強いものが弱いものを虐げる事』がこの国の真理というのなら、僕達もこの国流にやればいい。
それだけのこと。
僕らの心を踏みにじったおばさんは、僕らより弱い。
だから殺しても良いのだ。
兄様はドアを開けて踏み込み、迷うことなくおばさんを切り殺した。
おばさんはかつて僕が『母』のように思い慕った人。
でももう、その死に何も感じない。
兄様は硬く握り締めたおばさんの指を小さな金壷から引きはがし、中身を取り出した。
そうしていくつかのポケットに分けて収めた。
これでしばらくは、働かなくても過ごせるだろう。
おばさんがそうだったように、僕も『おばさんの死と引き換えに得たお金』を喜んだ。
だってこの国では、それこそが『正義』なのだから。
そのときコツコツという微かな音が聞こえた。
早くこの宿を出ようとしていたところだったのに……。
どうやら誰かが訪ねてきて、宿のドアをノックしているようだった。
しばらくは無視していたが、止む気配はない。
こんな夜中にいったい誰が?
兄様に続いて外に出てみると、両手に金属の戒めをつけられた美しい人間が人買いらしき男と立っていた。
すかあとをはいているので多分女の人なのだろう。
背は女の人としては高めで、師と同じぐらいに見える。
「おい小僧。この宿の主人を呼んできてくれ。
待ち望んだ商品が到着したと伝えればわかるはずだ」
僕は直感した。
この美しい人は奴隷で、この宿に売られてきたのだと。
「宿の主人は今日は不在なのです。
俺が預かっている代金をお支払いしますので、その方をこちらにお渡し下さい」
兄様の対応に男が戸惑っている間に、僕は音も無くエラジーを引き抜き、振り下ろした。
「ぐ……あぁ……」
奴隷商人など皆悪党に決まっている。殺されて当然だ。
ただ女の人に騒がれると少々まずいと思っていたけれど、その人はまったく騒がなかった。
「あら……? お金が貯まったって聞いたのだけど、足りなかったのかしら?」
女の人は血まみれの男をちらっと見ただけで僕たちのほうに視線を戻すと、にっこりと微笑んだ。
助けた事に感謝してくれているのだろうか?
だとすると、わりと良い人なのかもしれない。
エドガーさんも国民も、クロス神官に対して何も感謝しなかった。
気配を消してミランダおばさんの部屋に行き、所々ゆがんだ木のドアに耳を押し当て中の様子を探る。
ちゃりんという音が響き、小さな押し殺したような笑い声が聞こえた。
お金がたまった事を喜ぶ独り言と共に。
あのおばさんにとって、僕らはただの商品だった。
後悔などは一切なく、お金がたまったことをただ、喜んでいるだけだった。
僕らが誰かに使われることになっても、酷い目にあっても、貯まったお金の方が大事。
そういうことなのだ。
「リオン。あの金は子供たちを売って手に入れたお金だ。
あんな女の手元にあって良いものじゃない」
兄様は小声で僕に言った。
「はい。僕もそう思います。
それに兄様を売り飛ばすなんて……生きてる資格さえありません」
素直にそう思った。
「何だ……お前もそう思うのか。じゃあ決まったな」
兄様が暗い笑みを浮かべる。
いつも優しげな兄様のその表情に、少し胸が痛んだ。
けれど『強いものが弱いものを虐げる事』がこの国の真理というのなら、僕達もこの国流にやればいい。
それだけのこと。
僕らの心を踏みにじったおばさんは、僕らより弱い。
だから殺しても良いのだ。
兄様はドアを開けて踏み込み、迷うことなくおばさんを切り殺した。
おばさんはかつて僕が『母』のように思い慕った人。
でももう、その死に何も感じない。
兄様は硬く握り締めたおばさんの指を小さな金壷から引きはがし、中身を取り出した。
そうしていくつかのポケットに分けて収めた。
これでしばらくは、働かなくても過ごせるだろう。
おばさんがそうだったように、僕も『おばさんの死と引き換えに得たお金』を喜んだ。
だってこの国では、それこそが『正義』なのだから。
そのときコツコツという微かな音が聞こえた。
早くこの宿を出ようとしていたところだったのに……。
どうやら誰かが訪ねてきて、宿のドアをノックしているようだった。
しばらくは無視していたが、止む気配はない。
こんな夜中にいったい誰が?
兄様に続いて外に出てみると、両手に金属の戒めをつけられた美しい人間が人買いらしき男と立っていた。
すかあとをはいているので多分女の人なのだろう。
背は女の人としては高めで、師と同じぐらいに見える。
「おい小僧。この宿の主人を呼んできてくれ。
待ち望んだ商品が到着したと伝えればわかるはずだ」
僕は直感した。
この美しい人は奴隷で、この宿に売られてきたのだと。
「宿の主人は今日は不在なのです。
俺が預かっている代金をお支払いしますので、その方をこちらにお渡し下さい」
兄様の対応に男が戸惑っている間に、僕は音も無くエラジーを引き抜き、振り下ろした。
「ぐ……あぁ……」
奴隷商人など皆悪党に決まっている。殺されて当然だ。
ただ女の人に騒がれると少々まずいと思っていたけれど、その人はまったく騒がなかった。
「あら……? お金が貯まったって聞いたのだけど、足りなかったのかしら?」
女の人は血まみれの男をちらっと見ただけで僕たちのほうに視線を戻すと、にっこりと微笑んだ。
助けた事に感謝してくれているのだろうか?
だとすると、わりと良い人なのかもしれない。
エドガーさんも国民も、クロス神官に対して何も感謝しなかった。
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